それは突然すぎて
◼︎
「オイ、連れてきたぞ」
「いっ…!」
もうどのくらい引き摺られたのか分からないけれど、それまで私の髪を掴んでいた天人は橋の上に私を投げ捨てるようにして手を離した。
「ーーよォ」
「!」
突然投げ出されて橋の上に派手に転げ、投げた天人を睨みつけていると、後ろから掛かった声に体が固まった。
ゆっくり振り返ると、女物の派手な着物を見にまとった男の姿。
ーー高杉晋助。
「た、高杉晋助…!!」
「どうやら無事だったみてェだな。苗字名前」
「な、なん…」
突然の高杉の登場に、さらに名前まで知られていて、言葉が出てこない。というか、頭が付いていけてない。
「コッチでの生活に慣れたかよ?」
「…ど、どうしてそれを…!!」
「フフ…さてね」
高杉の隻眼が月の光に照らされてぎらりと光った。背筋が粟立つってまさにこの事なんだ。本能的に後ずさった。
「なァ、折角だ。オメーに選ばせてやるよ」
「…?」
「俺たちャオメーの力が欲しい。今ここで攫うのもアリっちゃアリだが…。どうだ?テメーの足で恩人どもの元を去ってこちらに来るか、俺がテメーの恩人どもぶっ潰して孤独にさせてやるか…」
「っ!!」
「ククッ、いいねェその面」
恩人どもを…潰す?まさか、店長や…銀さんのこと…?落ち着け…落ち着け名前。
一応高杉は銀さんと桂さんの戦友なんだ。たぶん、根っからの性悪とかそういうんじゃないはず。
なにかが…、多分、何かがある。
「フフ…、俺たちン所に来りゃ知りてェことも知れちまうだろうなァ」
「…!」
知りたいこと。それは「なぜ私が違う世界にやってきたのか」で良いの?
そこで突然目の前にいた高杉が踵を返した。背後に立っていた私をここまで連れてきた天人が高杉の背に向かって叫ぶ。
「オイ、高杉!どうすんだこの女」
「今は手ェ出すんじゃねェ。…2日だけ待ってやらァ。ハラが決まったらまた此処に来い。来なけりゃ…まァそういうことだと受け取るしかあるめェ」
高杉は一度こちらを振り返ると、ニヤリと嘲笑った。なんて恐ろしい笑い方をするんだ…この人は…。
「チッ、命拾いしたな女ァ」
「いっ!」
「まぁ、俺たちはテメーが自分の意思でこちらへ来ようが来なかろうが、テメーのツレ共を……いや、そんな小さくねェな……この江戸を丸々吹っ飛ばす気には変わりねェさ」
「なっ…!」
私の髪を掴み上げた天人はそれだけ面白そうに囁くと高杉の後を追うようにして闇夜の中へ姿をくらました。
今…江戸を吹っ飛ばすって言った…?
無意識に息を止めていたのか、ぶはっ、と息が吐き出た。
「…は、…はぁっ…はぁ…」
手を見れば情けない事にがちがちに震えていて、すっかり冷え切っていた。
ーー銀さん、店長
2人は大丈夫なのだろうか。そう思ったら不思議と足は簡単に動き出した。銀さん達を置いてきてしまった場所に向かって走り出した。
「わぶ!?」
どの辺りだったか、あと何個か先の通りだったか、うろ覚えなまま足を進めると、視覚から飛び出してきた何かにぶつかった。
「名前か…!?」
「銀さん!」
鼻を思いっきり強打して顔をしかめると、頭上から聞こえたあの人の声に顔を上げた。
銀さんだった。
「っ」
「ぎ、銀さん!?」
銀さんは私の顔を見て無事だった事に安堵したのか、ふっと力無く笑うと私の方へ崩れ落ちるようにして倒れてきた。
それを慌てて受け止める。
「えっ…血…!?」
銀さんの身体を支えたら生暖かいぬめりとしたものが手に触れた。
「テメーらァア!こんな所で何してやがる!!」
「!」
御用と書かれた提灯をぶら下げた男の人が、私と銀さんのところへ駆け寄る。ぶ、奉行所の人か…!
抱き合ってる私たちを見て、目のやりどころに困ったようにして顔を背けた。
「お、逢瀬ならなァ、もちっと違うところでだなァ…」
「あ、あのっ…!この人を運ぶの手伝ってもらえますか!!」
「あん?…って大丈夫かよお兄さん!血だらけじゃねェか!」
「この人を連れて大江戸病院へ行ってくれませんか!!私も後からすぐ行きます!!」
「お、おぉっ…!」
銀さんは奉行所の人に任せて、私は店長の所へ急いだ。
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