涙を流してる時間もなかったけど

◼︎


「銀さん!!ここですか!?」
「銀ちゃんどうしたアルカ!?」

大江戸病院にある病室の一室に新八くんと神楽ちゃんが飛び込んできた。私は2人の姿を見て少しだけジワリと涙が出そうになった。

あれから奉行所の人は先に銀さんを大江戸病院に連れて行ってくれたらしく、私は駕籠屋を呼んで店長を病院に連れて行き、病院の人に事情を説明して2人を同じ病室にしてもらった。

「帰り道に天人襲われて…私を助けてくれたの…!」
「そんな…!店長さんまで…!」
「なんで襲われたアルか!?」
「それがよく分からなくて…」
「名前さん顔色悪いですよ…!ちょっと廊下で休んでたほうが…!」
「ご、ごめん…少し廊下の腰掛に座ってるね…」

新八くんと神楽ちゃんに2人を見ていてもらうようにお願いして、ふらふらと病室を出る。

「(…私、最悪だ)」

ゴン、と額を廊下の壁に付ける。
改めてとんでもない事に巻き込んでしまったと、事の重大さに気付いた。

――銀さんと店長に、ケガをさせてしまった。

――銀さんの、負担になってしまった。

ジワリと目元に溜まった涙を拭った。



「ーーじゃあ、僕は一旦帰りますね。姉上を一人にできないので…」
「うん、ごめんね新八くん…」
「…では、また明日」
「おやすみなさい」

しばらく3人で店長と銀さんを見ていて、新八くんは帰ることになった。お妙ちゃんいるしね…。

トイレに行っていた神楽ちゃんが部屋に戻る。

「名前、別室に布団用意してくれたって看護師のババアが言ってたヨ。休むとヨロシ」
「ありがとう。…でも…もう少しだけここに居ていいかな」
「…名前、手出すネ」
「…え?」
「擦りむいたところ、血だらけアル。ババアたちがさっき救急箱貸してくれたネ」

神楽ちゃんに言われて手元を見ると、確かに擦りむいたところに血が滲み出ていて、乾いてしまっていた。私は神楽ちゃんの好意に甘えて手を差し出した。

「ーーもう他に痛いところ無いアルか?」
「うん、もう大丈夫。ありがとう」

意外にも優しい手つきで手当てをしてくれる神楽ちゃんにお礼を伝える。
正直、消毒液ぶっかけられるかと思ったけど、そこは新八くん譲りなのか、きちんとガーゼに消毒液を付けて、傷口を優しくなでてくれた。

液が傷に染みたけど、こんな痛み、銀さんと店長のモノと比べたらなんてことない。

「名前はまだ起きてるアルか?」
「…もう少しだけ…ここにいるよ」
「なんかあったらすぐ呼ぶネ。私先に寝てるヨ」
「ありがとう神楽ちゃん」
「名前」

神楽ちゃんが病室の扉を開けたところで名前を呼ばれた。

「うん?」
「銀ちゃん、そのくらいじゃ死なないアル。気にすることないネ」
「…ありがとう、神楽ちゃん」

神楽ちゃんが病室を出て行って、部屋には静けさが増した。

店長と銀さんのベッド周りのカーテンを閉め、部屋の電気を暗くすると月明りが差し込んできた。窓側のベッドのカーテンを開けて中に入ると、銀さんの寝顔が月明かりに照らされてよく見えた。

前の私だったらきっと「レアだ!」「写真撮らないと!」って大はしゃぎしてたんだろうけど、今の状況じゃその寝顔は胸が痛い。


「巻き込んで、本当にごめんなさい」


銀さんの唇にそっと自分のそれを重ねた。ゆっくり顔を離すと、心なしか銀さんの険しい表情が穏やかになったような気がした。

遅くなって、ごめんなさい。


「やっぱり元の世界に戻らないと」


このままだとまた2人に迷惑がかかってしまう。私はその顔を自分の目に焼き付けるようにして立ち上がった。

別室に眠る神楽ちゃんの所へ行き、「ありがとう」とお礼を伝えて、柔らかい髪を一撫でした。




「ーーよし」

一度家に帰って着替えることにした。それまで銀さんの借りた着物だったし。洗って返すのはちょっとできないけど、これくらい勝手に許してもらおう。

「お珠さん、どうもお世話になりました」

それから縁のお店に立ち入って、私と店長を繋いでくれたお珠さんにお礼を述べる。

「でも、最後にわがまま言わせてください。お珠さん…もう少しだけ見守ってくれませんか」

銀さんが……銀さん達が築き上げて来たこの縁で出来た町を絶対壊させたくないんです。
だから、少しだけ見守っててくれませんか。


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