勇気を身につけたり、
◼︎
『ねぇ…何してんの?』
「ちょっ!静かにしてスプ子!」
『いや、私普通の人には視えてない聞こえてないからね言っとくけど。アンタ1人で騒いでるようにしか見えてないからね』
ハロー。皆さんおはようございます。
私は今ですね、あの高杉晋助がいるって噂の戦艦の近くにいまーす。
いや、こんな呑気に言ってるけど実際心臓バクついてるからね。ちっこい拳サイズの心臓がこんなに働くの?って思うくらいバクバクしてます。
実際目の当たりにしただけで怖いしちびりそうだし、銀さんと店長のこともあってテンションすぐ落ちちゃいそうになるからナレーションくらいは軽やかに行かせてくださいお願いしてもますマジで。
『何する気なの?』
「何って…高杉を止めに」
『あっきれた!本気で言ってるの!?あの鬼兵隊よ!?』
「…知ってるよ…わかってるから怖い事言わないでお願いまじで足竦んじゃう」
『バカすぎてもう何も言えないわ…』
もうなんとでも言ってくれ。「江戸を吹っ飛ばす」あの天人のセリフが脳にこびりついて離れないんだよ。
着物の裾を膝くらいにまで捲し上げて、物陰に隠れて戦艦へ入るポイントを探す。そしてラッキーなことに倉庫とみられる入り口を発見した。
「ーー潜入…成功?」
寂れた音を立てながらゆっくり頭上の木板を押し上げると外は薄暗かった。私は隠れていた木箱を慎重に空けて顔を出す。
丁度資材積み込みの最中だったらしくて、そこら辺にある如何にも船に持ち運びそうな木箱を気合いでこじ開けて身を潜めたら、見事に船の中に積み込まれたというワケである。
「…なんでここにいるの」
木箱から降り立って着物の裾を払いながらそう声をかける。
『仕方ないでしょう?アンタ1人にしたら寝目覚め悪いもの』
横にいたのはスプ子。幽霊なんだから寝目覚めもなにも、睡眠要らないはずだけど。
「…ありがとね」
『…何のことかしら。置いてくわよ』
スプ子に扉をすり抜けてもらい、船内の人の気配を避けながら船内を進む。意外と便利だなこの霊視能力。
これを上手く使えばこの世界にやってきた手がかり、そして江戸を救える方法が見つかるだろうか…。
私は駆けだした。
『ーーアンタって、本当に天才的なバカよね』
頭上でスプ子ため息を吐かれた。
「…もう何も言わないでもらえる?結構傷ついてるんだけど」
「誰と話ししてんスかアンタ」
「…ヒィ!独り言です!!」
じゃかりと銃先を突きつけられて私は背筋を伸ばして床に座り直した。目の前の金髪美女はそんな私の姿に満足したのか、銃を下げた。
そう、ご縁ありまして、来島また子さんとご対面しました。余談ですが私、手縛られてます。
ってこんなご縁あってたまるかァァア!!
『狭い戦艦内の廊下で敵が近づいてきたから慌てて近くの部屋に逃げ込んだかと思ったら、鬼兵隊の幹部レベルの人間がいる部屋なんて…アンタもう先天的なバカよね』
くそ、天才的から先天的なバカ昇格しちゃったよ。
スプ子の言う通り、逃げ込むために飛び込んだ部屋がまさか来島また子さんがおられる部屋だっただなんて、誰が想像しただろうか。
「ほう、この方が」
「武市先輩、来たんスね」
「気になりましてね。…この者が…そうですか。晋助殿が何を考えているのか分からないものですね」
「小娘ェ!アンタ視える人間って本当っスか!」
「え!?なななななんのことですかァ!?」
武市なんとかさんがお見えになったかと思えば再び突きつけられる拳銃。寿命縮むから本当にやめてェエエエ!!私普通の人間だから!
「ーーまァそう急ぐんじゃねェよ」
空間に漂うあきらかに他の者とは違う声色の声。また子さんと武市なんとかさんがすぐに振り向いたおかげで、その声の主の姿が見えた。
「しっ、晋助様!」
「珍しいですね、こんなところに」
「た、…高杉晋助…」
「こりゃ迎えに行く手間ってモンが省けたな」
高杉晋助にしゃがみ込まれ、顎を掴まれる。あの苦手な隻眼が真っすぐに私を射抜く。
「相当早い段階でハラ決まったらしい。俺ァ嫌いじゃねェよ、アンタみてェな女」
「…私は苦手ですけどね、貴方みたいな人」
「ククッ」
「てンめェェエ!!!晋助様を侮辱する気っスか!許さねェ!!」
「まぁまぁ、また子さん落ち着いて」
ちびりそうなりに煽ってみて分かったことが一つある。この人たちは私を殺したりはしない。それはなんとなく分かった。
「まだ江戸を吹っ飛ばすにゃ時間がある…その時まで精々ゆっくりしてろ」
「…っ…吹っ飛ばすって…っ!!そんな事昨日一言も言ってませんでしたよね…!?」
「俺がいつそんな下らねェ戯言を言った?」
「…っ!」
「覚えときな。真夜中の約束事は信じちゃいけねェ。寝言だの酔いだの…全て跡形もなく消えちまうぜ」
「そん、な」
「アンタがここへ来てくれたおかげで、早い段階で江戸を吹っ飛ばせそうだ。そこんとこは感謝するぜ」
ーーいま、なんていったの?
「安心してくださいね苗字さん。貴方のことは私が手厚く保護いたしますので」
「ロリコンも大概にするっス武市先輩」
「ロリコンではありませんフェミニストです」
高杉たちと、その部下たちが出ていった扉が閉まり、辺りに静けさが増した。目の前の恐怖分子が去って、頭がどんどん冷静になってくる。
「どうしよう…私…!私…」
『落ち着きなさい名前!!間に受けたらヤツの思う壺よ!!』
「スプ子…!」
『江戸を吹っ飛ばす仕組みがどうであれ、アンタが居ないとどうにもならないらしいじゃない。それまでにここから逃げるわよ』
「…っ!」
部屋の中はこれまた妙に薄暗く、目が慣れてくると部屋の様子が見えるようになった。
私が非力なただの女であると舐められているらしい。足だけは自由が効いていたので、締め切られた扉へ行き、足で蹴ってみるがこりゃまたびくともしない。
まずい、早くなんとかしないと…!さっき、高杉晋助は私がここに来たおかげで早い段階で江戸を吹っ飛ばせると言った。
焦る私の耳に背後で錠が揺れる音が響いて身体が強張った。
「…誰だ?誰か…捕まったのか…」
「!」
『気をつけて…』
低く掠れた声。
その声を辿るようにゆっくり部屋の奥に進んでいくと、錠に繋がれた天人が1人。首に繋がれた鉄の首輪には太い鎖が付いていた。
ゴブリンのような身なりの小柄な天人は私の顔を一視するとその大きい瞳をさらに開かせた。
「……あ、アンタは…!」
「…?」
「苗字…名前か…?」
「…私を知っているの…?」
『名前…気を付けなさいよ…』
「うん」
隣のスプ子にそう返事をすると、目の前の天人は目を見開いて私を見た。
「…あぁ…やはり視えているんだね」
「…どういうこと…?」
「私なんだ…君をこの世界に連れてきたのは…」
「!」
「どうしても謝りたかった…」
「こ、これ…!私の保険証…!」
「すまない、町で見かけたときに拝借してしまった…」
天人はボロボロの服の中からカードを取り出した。それは私の保険証だ。
ポロポロと大きな目から涙を零す目の前の天人。私はその天人の近くに座り、保険証を受け取った。
「あの…あなたは…?一体何者なんですか?」
「私はダブ。私は世界に3人しかいないと言われるテレポート能力を持つ天人です」
「てっ、テレポートって…!あの瞬間移動…!?」
「…ある日から…ここに捕まってしまいまして」
「…そんな……持ち前のそのテレポート能力で逃げられないんですか?」
「情けないことに…この首元の鎖から微量に電流が流れていて…そのせいで力が出ないんです」
「電流…」
ダブ、と名乗った天人の首に繋がれている鎖を目で追うと、壁に設置された機械に繋がれていた。これが電流を発生させている原因みたい。本当に酷いことをするもんだ…。
「あの、よかったら…いや、知ってること全部話してもらえませんか?知りたいんです…!今、この江戸の町に危険が迫ってるんです!」
もし私がこの世界に来る手がかりが分かるのなら、その手がかりでこの町を救えるのなら。藁にも縋る思い出ダブさんに頭を下げた。
「むしろ巻き込んでしまったからにはきちんと説明しなければならないと思っていました…。…まず、連中…高杉率いる鬼兵隊共は宇宙海賊春雨と手を組んで霊力を使った新しい武器の製造を開発しています」
「れ、霊力って…」
「小耳に挟んだ程度の情報で申し訳ないのですが…。邪心の塊である悪霊の強いマイナスのエネルギーをカラクリに蓄え込んで、それを一気に放出することで強い破壊力を生み出す代物だそうで…」
「あの…もんのすごく現実的じゃなさ過ぎてついて行けないんですけど…。でも、それと私が何の関係が…?」
「異世界人は、こちらの世界ではとても強い霊力を持っている噂があるそうなんです。噂だったのですが、実際に今貴方が視えている景色が本当なようですね…!」
「確かに…視えてはいますけど…」
『あ゛ぁああああああ!』
『うわァアア!!』
「!」
突如外から聞こえた大量の悲鳴。小さな小窓から外を覗き見ると大量の幽霊達がここから江戸の中心へと飛び立っていくのが視えた。現実的じゃないことが、現実に起ころうとしているのが痛いくらい伝わる。
「私はここに捕まった時、家族を人質に取られ3時間のリミットを課せられました。3時間のうちに異世界人を連れて来いと。…私は3時間の間あらゆる人間に声をかけました…異世界は如何ですかー!?と…」
「いやいやいや、ちょっ、…ぶはっ…!!す、すいません…めっちゃシリアスな場面なのに急にコメディ出てきて…ぶふっ…すいませっ…」
ダブさんの話を聞きながら想像してたらうっかり吹いた。あの、ここ結構大事な場面…ぶふっ。
いやいやいや、こんな見た目がドビーみたいなやつが「異世界は如何ですかー?」なんて声かけてきたら怖いわ!宗教か!
「誰も快く頷いてくれなくて…刻限も迫る中、そんな時目の前にたまたまフラフラと彷徨う貴方の姿を見つけました。そして無理矢理飛ばしてしまったんです…」
「あの、最終的には適当に選んだってことですか?なんか「私は神様に選ばれたのかもしれない」とか言うの全くないやつで?」
「まったく」
ですよねそれが銀魂ですよね。でもやっぱりちょっと悲しくて頭が垂れた。
「ただ予想外だったのが、一緒にテレポートした時に貴方と逸れてしまいまして…一時期見失っていました」
「私…気付いたら路地裏のゴミ袋の上で寝てたんですけど…」
「落ちたポイントが悪かったら下手したら死んでい方もしれなかった…。テレポート後貴方のことをよく探しました。そしてかぶき町で逞しく生きてるって聞いてそれはそれは涙が出ました…。そんな最中高杉たちにあなたを連れ戻すよう脅されたりしまして…いろいろ連中に情報を渡してしまいました…本当にすみません…」
「同時に罪悪感にかられて…せめてもの、謝罪の意味も込めてもう一度貴方をあちらの世界に送り返そうとしたのですが…、貴方には不思議な縁が纏っているようだ。失敗しました」
ダブさんと接触した覚えはないんだけど…、送り返そうとしてくれてたことがあったのか…。
「…もしかして…送り返すって…」
「私が触れたら送り返せるんです」
「マジか…」
触れたら…か。こちらに飛ばされた時も、リップを拾おうとして車の目の前に突き飛ばされたときも、そういう事だったんだ。
せめてなんか一言言ってからとか…うん、もう過ぎたことだ…。私は短くため息をついた。
「とりあえず…うん、貴方がいれば元の世界に帰れるんですね…」
「ですが、見ての通りこのザマです。貴方を送り返そうとしたことが高杉たちにバレてここへ連れてこられてしまった」
ジャラ、とダブさんの首の鎖が音を立てる。
「それさえなんとかすればいいんですね」
「貴方のような女性にはどうにも出来ませんよ…!」
「スプ子ー!」
『…今度は何するつもり?』
「外に見張りっている?」
『今のところ…居なさそうよ…』
「な、何をするおつもりで…!?」
「詳しくは幽霊と電磁波で検索!」
バチバチ電気が走る機械を見て私はスプ子に「上出来!」と親指を立てた。
ポルターガイストをご存知だろうか。テレビが勝手に付いたり消えたりするアレを利用して機械をスプ子にやってもらったら見事にぶっ壊れた。ちょっと爆発音が気になったけども、結果オーライか。
『やばい!音に気付いて何人かこっち向かってるわよ!』
「ま、マジか!」
「来なさい!」
「!」
ダブさんが私の腕を掴んだ瞬間、視界が一瞬ブレて。突然の眩しさに目を狭めると、目の前には海が広がっていた。
おおお、これが俗に言うテレポート…!
「…って、アレ?」
「…久方振りに使ったら場所を間違えました」
「なんだこの女!突然出てきたぞ!」
「そこの天人…ダブじゃねェか!脱走したのか!」
ダブさんのテレポート先がまさかの船の甲板の上。天人達がウジャウジャとそこら中に居座っていた。
やっべーとこ連れてこられたァァアアア!!
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