手を差し伸べてくれる人たちがいて

◼︎


「よォ、昨日ぶりか?イメチェンでもしたのかよ」
「ぎん、さん…」

赤い瞳から目が反らせなかった。やっと搾り出して出た声がそれだった。

「あーあー、1人で勝手にドタバタしやがって」
「なんで…!」
「ほら、叩け叩け。砂まみれだぞお前」

着物を軽く叩いてくる銀さんが本物なのか、はたまた誰かに幻覚を見せられているのか、分からなかった。

「おま、血ィ出てっぞ!」

銀さんは私の腕を一目見ると自分の白い着物を引き裂いて、血がにじみ出た腕をぎゅっと縛る。その間も呆然として銀さんを見上げていると、それに気づいた死んだ魚のような目が私を見下ろした。

「なに。返してくれって言ったって返さねーぞ」
「…は…?…あ!!も、元に戻…っ!!」

そういえば思い出した。さっきキスされてた!慌てて銀さんの着物を掴もうとしたけどやんわり避けられる。

「おーおー!女の子から迫られるのも悪かねェな!」
「ちょっ!なにを言って…!」

こんな時になにをふざけたこと言ってるんだ銀さん。状況が状況だから、早く元に戻さないと、と思ってちょっとムキになって銀さんを追いかけた。

「銀ちゃんに名前!!こんなところにいたアルかー!探したアル!!…、てめ!邪魔するんじゃねーヨ!!」
「うるせェてめェらこそ警察の仕事邪魔するんじゃねェ。公務執行妨害で逮捕すんぜ」
「銀さん、名前さん、やっと見つけましたよ…」
「足引っ張るんじゃねェぞガキども」

ゾロゾロとこちらにやってくるのは、神楽ちゃんと沖田くん(喧嘩してるけど)、それから新八くんに土方さん。

な、なんでこのメンバーが…。

「…なん、で」
「風の噂で江戸の町に危機が迫ってるって聞いたんでねィ。警察が出ねェでどうするってんだ」
「沖田く、」
「終わったら屯所まで同行願いますぜオタク女」

近くに来た沖田くん。
唇にふに、と何かが当たる感触がした。
沖田くんの唇ではない。彼の手の甲が、私の唇に押し当ててきた。

「お巡りさんに相談しねェでどうするつもりだったんだテメーは」
「土方さん」
「聴取は終わった後だ」

続けて土方さんが沖田くんと同じように私の唇に手の甲を押し当てた。

「すげーや、本当に化け物共が見えるや」
「…ば、化け物?あんなの蚊みてェなモンだろーが!」

キョロキョロと辺りを見渡す沖田くんと、ぎごちない動作で辺りを見渡す土方さん。

「なにをキザっぽいことをしてるアルか2人とも…」
「…名前さん、失礼しますね」

沖田くんと土方さんを汚れたものを見るような目で見やった神楽ちゃんと新八くんは、私に手を差し伸べた。

髪に触れられて、ぷつん、と引っ張られた私の髪。2人はそれを持っていたお札に髪を貼ると、そのまま自分の服に貼り付けた。

どういうこと?

「おお!!名前いつもこんな景色見てたアルかー!」
「うわぁ…!ここまでくると…すごいですね…」

4人のセリフに固まる私と銀さん。まるで視えているかのような…。

「え、なに?お前らみんな視えてんの?」
「さっきお見舞いに行ったら店長さんがくれたんです、このお札。なんでも名前さんの髪と一緒に自分に貼り付けると、名前さんの力を貰えて同じように視えるようになるんだとか。胡散臭いと思ってましたけど、本物でしたね!」
「え、…そうなの?」
「マジか」
「…俺たちは旦那のマネさせてもらっただけなんですけどねィ。まさか視えるとは思わなんだ」

ニヤリと綺麗に唇を吊り上げながら自分のそれを指差す沖田くん。思わず銀さんと顔を見合わせた。
途端に真っ赤になる銀さん。いや、多分私も真っ赤だ。見られてた。めちゃくちゃ恥ずかしいやつだ。そして全くおんなじこと考えてるに違いない。



キスする必要無かったァアア!!!



「で?俺たちァどーすりゃいい?」

ワタワタ焦る私たちに土方さんがタバコに火をつけながらそう言った。
自分が原因でこんなことになったものだから、上手く言い出せずに躊躇っていると、頭の上に何かが乗っかった。

見上げればそこには私の頭を軽く撫でる銀さんがいて、優しく笑いかけてくれた。私は腹をくくらなければ。

「…実は、皆さんにお願いがあって…!かぶき町に6ヶ所、霊を吸収してるカラクリがあるはずなんです…!それを見つけ出して壊してもらえませんか…!」

私は天人が持っていた地図を広げて皆に見せる。それを銀さんが手に取り空に掲げた。

「五芒星か…。するってーとアレだな名前。俺らは一角と真ん中のドタマぶっ潰すぞ。2箇所だ」

そうか。新八くん、神楽ちゃん、沖田くん、土方さん、私は一人でカラクリを壊せないだろうから銀さんが付いてくれることになると考えると、私達は星の一角と中心だ。

「いんや、その必要はねェ」
「!」

後ろから聞こえてきた声に身体が強張った。そんなまさか…病院にいるはずでは。恐る恐る振り返る。

「て、店長!」
「じゃー、カウントしていいんだな」

そう言って銀さんは地図を六等分になるように手で千切り、それぞれに託す。

「老いぼれといえど、可愛い娘が体張ってんだ。負けるわけにゃいかねぇな!だっはっは!」

店長は大笑いしながら錫杖を地面にドン、と突いた。私は自分の髪を一本抜いて、店長の前に差し出した。

「検温までには病院に帰ってくださいよね」
「おう!……名前ちゃんを頼んだ銀さん」
「おー。言われなくともやってやらァ」
「みなさん……っ!!お願いします…っ!!」

胸がいっぱいになりながらも発した私の声は震えていた。けれど、みんなは私を一目見るとそれぞれ背中を向けて各々が得物を掲げてくれた。


ーーみんな、ありがとう。本当にごめん。


走り去ったみんなの背中をこの目に焼き付けるように見送る。

「俺らも行くぞ、名前」
「はい!」

地図を見て星の真ん中に向かって走り出した。


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