怖いものなんてなにもなかった。

◼︎


「や、やりおった…!あの女やりおった!!何故だ!?非力な女が…!」

名前がドビーみてェなナリの天人の力を借りてアームストロング砲の玉の上に姿を現した。
落下する重力を利用して玉に鉄パイプを突き刺した途端その場に閃光が走る。

「…っ、名前!?」

光が落ち着いたところですぐさま名前の姿を探しに駆け出す。
アームストロング砲の砕けた瓦礫に紛れて横たわる名前の姿を見つけ、その側にはドビー風の天人が名前を瓦礫から引きずり出そうと踏ん張っていた。

「手伝う」
「あ、ありがとうございます!」
「おい、名前!しっかりしろ!」

瓦礫を押し退け、名前の上体を起こし揺さぶってみるがピクリとも動かねェ。息は…ある。特に目立った外傷は特になさそうだ。単純に眠っているだけのように見えた。
それは横の天人から見ても同じように見えたらしく、小さく溜息を零したのを聞いた。

「ーー銀ちゃん!」
「ーー銀さーん!」

背後から聞こえてきたガキどもの声。

振り向いてみれば神楽に新八、真選組のやつらに、店長の姿。どうやら一悶着あったらしく多少ボロついてはいたが、無事なようだ。

「こっちは終わったアル!」
「終わりましたか!?」
「あぁ、あのバカント見てりゃもうこいつァ使いモンにならねェだろ」

粉々に砕けたアームストロング砲に腰を抜かしたバカントは青ざめた表情でずっと独り言をブツブツ呟いてやがった。

「アイツが黒幕かい」
「屯所まで同行願おうか」

呆然と見ているバカントに真選組の2人が手錠をかけに行く。とりあえずあっちのことは奴らに任せておけばいいか。

「それで…名前ちゃんは…?」
「…特にデケー怪我はなさそうだが…寝てるわ」
「名前、途中まで一人で戦ってて疲れたアルか」

店長、神楽、新八が俺の腕の中で眠っている名前の顔を覗き見る。


『待ちなさい』

「うぉァァアアア!?な、なんだテメーは!?」

名前の胸元を貫通して出てきたのは顔面がスプラッタになった女の霊。
お、おま!それはダメだろ!吐くところだったわ!

『名前の霊力が極端に減っているわ!このままだと…この女死ぬわよ!』
「あァ!?どういうことだ!?」
『人間にとって霊力とは生命力そのもの…!莫大な霊力を持つ名前がこんなになるなんて…!一体この子何をしたの!?」
「な、何って…」

俺は見たまんま、聞いたまんまの事実をスプラッタ女に伝えた。やれプラスエネルギーだのマイナスエネルギーだの計算式だの、ぶっちゃけその辺はよくわからねェが…。

それを聞いていた店長が何かを察した。

「1+-1は…ゼロ…。まさか……なんてことを…!!」
「どういうことネジジイ!分かるように話せヨ!」
「ちょ、神楽ちゃん落ち着いて!」
「名前ちゃんは…己のプラスのエネルギーを使って霊の集まりのマイナスエネルギーを相殺した…そういうことか!?」
『このバカならやりかねないわね』
「…それであの計算方法かい」

掛けるだの足すだの、ようやく合点がいった。

『人っていう生き物は誰もが霊力を持っている生き物…魂なんて一般的に呼ばれているそれらは霊力が体から抜けた塊…つまり私たちのようなものよ。生身の肉体に霊力が宿ってこそ、生を受ける。霊力が特段にズバ抜けている人間っていうのは、それだけ霊力が巨大な証拠よ』

店長はどっかりと地べたに座り込む。額に手を当てて今まで起きたことを整理しているらしい。

「するってーとなんだ…。計算通りだとすりゃむしろ名前ちゃんが今辛うじてまだ息がある方が奇跡に近ェってことじゃねェのか?名前ちゃんは……江戸中の霊を集めてもそれを上回るだけのとんでもねェ量の霊力を持ってたって訳だ…」
「つまりなんなんアルか…名前は…名前は…」
「名前さんは自分の身を呈して…僕らの町を…」




「ーーぎゃーぎゃーうるせェよ。オメーら」





まだ終わっちゃいねェ。

そう言った俺に全員の視線が集まる。んな情けねェツラすんな。神楽にいたってはすでにグズついてやがるし。

オメーら大事なモン忘れてんじゃねーよ。

「オメーらも貰っただろ?名前のご加護をよ」

トン、と自分の胸を指差すと、新八と神楽は自分の服に張り付いていた札の存在に気付いた。


「俺たちが持ってるじゃねーか」


俺たち5人の中に。

『アンタ…!』
「……考えたな銀さん。…ということはだ。名前ちゃん、帰ったら説教だぞ。早く起きろ」

いち早く察したらしい店長が自分の服から札を剥がし、名前の右手に札を貼る。

「名前さん、また一緒に鍋食べましょうよ。早くしないと野菜が痛んじゃいます」

新八は名前の左手に。

「ばっかモンンン!名前!帰ったら美味しい卵かけご飯作れヨ!!」

神楽は名前の俺の着物が巻かれてた傷口のある場所に。

「事情聴取は回復するまで待っててやる」
「あんまり遅ェと昼メシに犬のエサ出ちまうぜ」
「誰のメシが犬のメシだ!!」

土方くんと総一郎くんはそれぞれ手の甲を名前の唇に押し当てる。

…さて、


「ったく、コレで済むんなら最初からそう言えっつーの」


俺も同様に手の甲を名前の唇に押し当てた。


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