たくさん支え合いたくさん笑った。

◼︎


「名前ちゃん無理しないでよー!俺行くっての!」
「店長過保護すぎ!!体力落ちるからそろそろ出かけさせてください!」
「…ちぇーわかったよー。なんかあったらすぐ電話しろよ!すぐだぞ!」
「ハイハイ」
「返事は一回!」
「ハーイ」

「もう!最近名前ちゃん反抗期だよーなんとか言ってやってくんねェかお珠ー!」とお珠さんの位牌向かってブツブツ文句を言う店長を放って買い出しに行く準備を始める。

退院してから1ヶ月。ぶっちゃけ腕のかすり傷以外外傷はほとんどなく、目が覚めたらもうほぼ元気なんだけど、店長の過保護っぷりのせいで家からほとんど出られない日々が続いた。
最近やっと縁で働き始めてみたのだけど、スーパー行くだけなのにこんな感じだ。何度言ったら分かってくれるんだろうか。もう大丈夫なのに。

「じゃあ、そろそろ行ってきますね」
「おー何かあったら110じゃなくて縁だぞ!いいな!」
「いやそこは110しますよ流石に」

お財布を持ってうるさい店長を置いてしれっとお店を出た。


「よォ」
「う、わ!びっくりした…!」
「何構えてんのお前」
「いやぁ、条件反射で」

よし、と店前の戸を閉めると、真横から声がかかって思わず構えた。壁にもたれて腕組みをする銀さんの姿。チクショウ、カッコいいな。

「坂田さんどうしたんですか?」
「ん?買い出しだろ?付き合うぜ」

あぁ、これ店長が連絡したなきっと。
頭に重みのあるものが乗っかってきて、それがヘルメットなことに気づくのは早かった。そうだな、せっかくだし乗っておくか。


…いつまで銀さんとこうして会えるのかは分からないし。


「で?どこまでよ?」
「大江戸八百屋までお願いします」
「おー」

スクーターに乗せてもらって、エンジンがかかる。私が銀さんの逞しい肩に手を置くと、スクーターはゆっくり走り出した。

…あぁ、触れてるところがあったかいな。銀さんと2ケツした思い出は絶対に忘れないぞ。

あと、一緒に屯所行ったり、河原行っことだって。銀さんと一緒に過ごしたこと、絶対に忘れるもんか。

あ!そうだ!帰ったら日記でもつけとこう!忘れないように細かく書いてやろ!

「(…あれ)」


なんで視界がボヤけるんだろう。

せっかく銀さんの背中を穴が空くまで見られる機会なのに。


「どうした?」
「…ドライアイなもので」
「そーかい」

ちょっと思い切ってみて、頭を銀さんの肩に乗せてみた。銀さんがしゃべると、それに呼応してバイクの揺れとは違う細やかで心地よい振動が伝わってきた。これも、忘れたくないなあ。


「(銀さん、好き。大好き)」


無意識に閉じ込めていた想いが、突然するりと溢れ出てきた。
…あーあ、やっぱり私馬鹿だ。漫画の主人公に本気で恋しちゃってるよ。せっかく出てきた恋心に蓋をするようにして私は瞼を閉ざした。

大江戸八百屋まではスクーターならすぐ着くはずなのに、その時はなかなか着かなかった。




「ーーワリ!ちょっと厠行かせて!!」
「あはは、どうぞ。その辺見て回ってますね」

八百屋を後にしてからちょっと経った頃。ケツからビッグバン来そう!とか言いながらコンビニにスクーターを留め、厠に駆け出す銀さんの背中を見送り、私は近くにあった雑貨屋さんのディスプレイを覗き込んだ。

こっち来てからあんまりちゃんとお店見てたことなかったなあ。なんでだろうとふと思ったときに、いつも視えるものが視えないからか、と合点がいった。本来視えないものなんだから、なんともおかしな話だ。

「ーー死にかけたらしいな」
「…!」

どくりと脈打つ心臓。ガラス越しに写る黒髪隻眼のあの人の姿に釘付けになった。
振り向かせない威圧感に体がそのまま硬直する。

「…お、おかげさまでこの通りピンピンしてますよ」
「フン、暇つぶしにあのアホそうな天人の茶番に付き合ってみたが…とんだ興醒めだ」
「…」
「だが…アンタの破天荒っぷりにゃいやはや恐れ入ったね。お陰でいいモンを見させてもらった」
「何が目的なんですか。私、もう視えませんよ」
「心配すんじゃねーよ。オメーもアイツももう用済みだ。…もうすでに口封じに抹殺済みだから用も何もってところか…ククッ」
「…ま、まさか…!」
「ついでといっちゃぁなんだが…オメーさんも抹殺されとくか…?」
「…!!!」

ガラス越しに見える高杉はその端正な顔を耳元に近づいてきてそう囁いた。

「あれ?名前ちゃん!?おーい!あり?どこ行った?」

「…ククッ、んなツラすんじゃねェ。今のオメーさんは何の能力も持たねェ役に立たねェ女だ…。そんな女一人叩き斬ったところで何もありゃしねェ。無能なりに精々この世で生きて足掻いてみせろ」

銀さんの声が遠くからして、状況のヤバさに焦る。
背後で刀を納めるような、チンと短い音が聞こえた。

「ーーたかすっ……あれ?」

思い切って背後を振り返るとそこにはもう誰もいなかった。慌てて周りを見渡してみるけれど、それらしき姿は見当たらない。

「いだァ!?」
「人がビッグバンかましてる時に離れすぎだバカヤロー」
「さ、坂田さん」

べしっと頭を叩かれて背後を振り返ると銀さんの姿。高杉のことは気づいていないみたいだし、高杉も銀さんに何か仕掛けるわけでもなさそうで。安心してちょっとだけ胸をなでおろした。





「ーーありがとうございました、坂田さん」
「いーってことよ。またいつぽっくり死にかけるかわかりゃしねェしな」
「もーそんなことないですけどね!」

店前まで送ってもらった私。
銀さんに改めてお礼を伝えた。もうこれであのベスパに乗るのは最後かもしれないなぁ。なんて物思いにふける。

「…名前ちゃんさー、バイト何時までなの?」
「え?えーと、基本夜までなんですけど…」
「明日は?」
「なんだ銀さん!懲りずにデートのお誘いか!?」

ガラリと突然背後の引き戸が開いて、店長がニマニマ笑みを浮かべながら銀さんに声かけた。オイオイ店長、銀さんがこんな私にデートなんか誘うわけないでしょう。

「うるせェな!!バカ警察が事情聴取で連れてこいってうるせェんだよ!!」
「あ、そういえばそうだったなァ」

そうだ。入院中に一度だけ土方さんと沖田くんが顔を出したことがあった。退院したらマヨネーズ丼と書類作って待ってるみたいなそとを言われていた。

「警察も名前ちゃんが退院してるの知ってるだろうし、テメーら来たらいいのにねェ」
「何をニヤニヤしてんだテメーは。残りの頭の毛をカウントダウンさせてやろーか」
「だってよ名前ちゃん!銀さんがデートだって!」
「ねぇ俺の話ちゃんと聞いてた!?」
「だっはっは!そんじゃあよ、明日店休んでいいよ名前ちゃん!早いとこ終わらせるモン終わらせてきちまいな!」
「え、良いんですか?」
「良いも何もだろ。銀さん、ちゃんと送り迎えよろしくな」
「ヘイヘイ。んじゃ、明日また迎え来るわ。何時がいい?」
「えっと…9時とか…?」
「…あー…頑張って起きるわ。んじゃぁ、邪魔したな」
「じゃーな銀さん!」
「あ、さよなら…」

なんだか本当にデートの約束みたいだ。しかし名前、あまり浮かれすぎるな。もう今更かもしれないけどのめり込むと後が辛いだけだ。
よし、と手を叩くと足元にあった野菜を持ち、店に入る。

「さて、午後の仕込みしましょう店長」

私は少しだけ重く感じた店の戸を閉めた。


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