話を碌に聞かない連中に振り回されて
◼︎
「「あ」」
見事にこの一言がハモった。くるっくるの銀髪の隙間から相変わらずやる気のない茜色の瞳が、私をじっと見下ろした。
「えっと…よ、ろずやさんでしたよね…?」
「おー」
銀さんだァァァアアアア!!!
さっちゃん並にはしゃいで飛びついてしまいそうなテンションを無理矢理抑え込んで、にっこりほほ笑む。
朝っぱらからかっこいい!ちょっと気だるそうな表情とか、佇まいから滲み出てくる色気がすげェ。はんぱねェ。思わず鼻血が出てないか鼻下をそれとなく触ってみたが、今のところセーフ。
「……此間は悪かったな」
「…へ?」
完全に思考が違う方向へ走っていて、一瞬なんのことを言われているのか理解できず。
此間…?
此間銀さんに会ったのって、えーと、アレだ、お登勢さんのとこ、ろ……ッァァアアアアア!!!
そう言えば私、銀さんとキスしたァァアアア!!
「いえいえいえいえ!!ほんと!ほんっとお気になさらず!」
「いや、マジであんときやべェモン見て冷静じゃなかったわ…」
「…もしかして…霊的なアレですか?」
「いや!別にそういう訳じゃねぇから!いや、別に怖くねぇし!?銀さんそういうの信じてねェから別に!」
冷や汗ダラダラに言い訳する銀さんが面白可笑しくて一瞬笑いが込み上げてきた。うん、焦る表情も素敵。なんかもうね、どんな銀さんも全部素敵!って言える自信あるよ。
そこで私はふと銀さんの手に持っているビニール袋に目を見やると、ポカリや風邪薬の文字がうっすら見えた。
「あ、どなたか風邪引かれたんですね…?足を止めてしまってすみません」
「あー、それが風邪かなんなのかもわからねェんだわ」
「…?」
「ウチの従業員に神楽っつーガキがいんだけどよ」
えぇ、もちろんご存じですとも。
神楽ちゃんも近くでは拝見したことないけど、銀さん達と町を爆走しているのを何度か見かけたことある。
「一昨日から熱が下がんねーんだわ。薬飲ませても1時間くれーしか熱下がんねェし」
「えぇ…」
それは心配だ…。風邪以外だと何があるんだろう…。ぼんやり可能性のありそうなものを考えていたら、銀さんの肩からひょっこり黒い影が出て来た。
「(まさか…)」
「こっちこそ引き止めちまって悪かったな。じゃ、気ィ付けて帰れよ」
銀さんが歩き出すと銀さんの背中に張り付いていた黒い影が後ろを振り返り、目が合う。
なんだこのちっこいオッサン…しかもデブだ。でも、原因はコレで間違いなさそう。
一瞬迷ったけれど、思い切って銀さんの背中に向かって話しかける。
「よ、万事屋さん!!」
「あん?」
「神楽ちゃんっていう子、私に診せてもらって良いですか!?」
お前のせいで首突っ込んじゃったじゃないコノヤロー!と、銀さんの肩に引っ付くちっこいオッサンを睨んだ。
「…お前…顔色悪いぞ?」
「…マジでお気になさらず…」
こうして私は人生二度目の万事屋を訪問することになった。
相変わらずこの辺りはタチの悪い霊が多く、頭痛と吐き気を催してゲソゲソになってきた私。
「お、お邪魔します…」
「おー。ぱっつぁーん、銀さん帰ったぞー」
「銀さんおかりなさ…あれ?お客さんですか?」
ぱっつぁぁああああん!!
台所から顔を出してきた新八君の姿をまじまじと捉える。可愛い…!メガネ取ったらイケメンじゃん。
「どうも。志村新八と言います」
「コイツ…あり?お前さん名前なんだ?」
「あ、申し遅れました。私、「ウガァァアアアアア!!!!」…!」
「神楽ちゃん!?」
居間の向こうから神楽ちゃんの酷い呻き声。それに反応して新八君が真っ先に駆けだし、銀さんもブーツを脱ぎ始める。
神楽ちゃんの悲鳴に今更ながら事のヤバさをようやく気付き始めた。
「とりあえず早く上がってくれや」
「あ、はい!」
私も急いで草履を脱いで、お部屋に上がらせてもらい、銀さんのあとを追って居間の隣の部屋にやってくると、思わず顔を顰めた。
部屋に立ち込める瘴気が余りにも酷かったのだ。
「…ッ」
「オイ神楽ァ聞こえるか?」
「ぎ、んちゃん…っ」
「神楽ちゃんしっかり!」
布団に横たえた神楽ちゃんは苦しそうに目じりに涙を浮かべて縮こまっていた。こんな風になるまでなんて…。
正直私自身も立っているだけでしんどい。うっぷ、と込み上げてきた吐き気に、2人に気付かれまいと必死に玄関前の廊下まで壁を伝って歩く。
「…はっ」
想像以上の瘴気に頭が痛くて、気持ち悪い。これ、相当の怨念がないと出せないでしょ…。
『――僕の声を聴けるのか?』
「…あッ…はっ…」
脳に叩き込まれる声に心臓が鼓動を上げて、私はすっかり呼吸の仕方を忘れてしまったかのようにぱくぱくと口を動かした。
立っていられなくてがくん、と床に膝を付ける。
「おい!大丈夫か!」
「…ッ…!」
後ろから荒々しくこちらに歩み寄ってくる足音が聞こえ、私の身体は誰かに支えられた。力を振り絞って見上げると、そこには焦った表情の銀さん。
「おま、過呼吸か!」
「は…ッ」
「…クソ」
過呼吸?なにそれ、と思っている間に銀さんの顔が近づいてきた。唇にふわりと優しい柔らかい感触。あぁ、前にもこんなことあったなぁ、なんてぼんやり考える。
しばらく動けずにいると銀さんの顔がゆっくり離れ、なぜか頭痛と吐き気がスッと軽くなっていく。
「…落ち着いたかよ?」
「…は、い。すみませ…」
「鼻血ィイイイ!!」
「あ」
びっくりするくらい呼吸が随分と楽になって、銀さんにまた鼻血を指摘されて鼻下を触れば今週何度目かの鼻血さんとご対面。慌ててティッシュを取りに行って戻ってきた銀さんに連れられて居間のソファーへ座る。
さっきの過呼吸っていうんだ…。思わず初めての体験にパニックなっちゃったな…。
「ちょいここで待ってろ。水持ってきてやっか……ら」
「?」
最後のセリフがぎごちなくて見上げると、銀さんは和室の見て目を見開いていた。それにつられて私もそちらの方を見ると、随分と真ん丸としたボディの霊。さっき銀さんの肩にいたヤツがデフォルトだとしたら、こっちが本物みたいだ。さっきのちっこいオッサンの本当の姿みたいだ。
コレが間違いなく神楽ちゃんと苦しめている原因…。もう一度銀さんを見ると、汗を滝のようにダラダラと流していた。
え?視えてるの?
「よ、万事屋、さん?」
「わ、わりィ!ななななんでもねェ!!」
『そこの銀髪、僕のことが視えるのか?ブー』
「!」
『特にそこの霊媒師のお姉さん。会いたかったんだブー』
「…」
アレレー銀さんの視線が痛いや。
『ミーは流離のアニオタ、戸助なんだブー』
「(なぁ、お前マジで視えてる?ていか霊媒師ってどういう設定なのお前?儲かってんのソレ)」
「(いや、霊媒師ではないんですけど…。そういう万事屋さんこそ視えてるんですか?)」
「(ついさっき視えたんだけど、ナニコレ?スタンド?)」
『聞いてるんだブーか?』
「ハイィィィイイ!!高林ブーがお好きなんですよね!分かります分かります!」
『てめっ、絶対聞いてないブーね!!』
戸助さんと喋れるように銀さんは新八君を買い物に行かせて、居間には私、銀さん、戸助さんの3人になった。銀さんと言えば鼻をほじくりながらソファーにふん反り返っている。
「豚助だかトンテキだか知らねーけどよ、オメーが神楽を苦しませてる原因なんだろ?さっさと成仏しやがれこの豚ヤロー」
『戸助だっつってんだブー!!』
確かに戸助よりも豚助の方がお似合…おほん、黙っておこう。話を聞きながらティッシュで鼻栓を作ることにした。
「ミーはある日あるアニメのフィギュアの限定品を買いに行ってたんだブー」
「オイ勝手にモブキャラの回想始まっちまったよ。どうなってんだよこの小説」
「万事屋さんそれはメタ発言です」
「そうなの?」
しまったァア!うっかりツッコミ入れてしまった!すっかりこの世界の人たちのペースに巻き込まれつつあるんですけどォオ!銀魂って怖いな!
「その日は雨だったブー。僕は傘を差して苦手な下界に降り立ったブー」
「あーもーブーブーうるせェな。高林ブーかよオメーは」
「いや、高林ブーでもブーブー言ってませんよ」
あぁぁあ!しまったァア!
うっかり2回目ツッコミ入れてしまった!!
ぱっつぁんマジで帰ってきて欲しい。ソファーの物陰に隠れて、携帯の画面を鏡代わりにして鼻にティッシュを詰めた。…もう2回目だもの。今更恥じらいなんて。
「あ、ちなみに下界とは屋外の事だブー」
「んなこたァ興味ねーよ。とりあえずブーブー言うのやめてくんね?おめーのブー具合気になりすぎてちっとも話入ってこねェんだけど」
「さっきから人の話聞いてんのかオメーは!……ブー!!」
「いやいやいや聞いてねェのお前だろ。ていうかその語尾一瞬忘れたよね!?ブー語尾付けるの一瞬忘れたよねェェエエ!?」
「限定品フィギュアを買いに出たあの日、僕は原付きに轢かれて死んだんだブー!」
人の話聞いていないのはどっちだホント。毎日こんな感じなのか。新八君も苦労するなこれは。
「気付いたら僕は血だらけの自分を見下ろしてたんだブー…。どうしたらいいのかわからない中、身体はどんどんどこかへ飛ばされて…たまたま見かけたこの可愛い女の子のぼんぼりに取り憑いたんだブー」
「ハタ迷惑な話だなオイ。神楽はオメーのせいでスゲー苦しんでんだぞ。さっさと成仏してくれや」
「僕が成仏できる条件はただ一つ…!そのアニメのフィギュア見つけ出してほしいんだブー!!それがあれば僕は成仏できるんだブー!!」
「フィギュアなんてなんでも良いだろどうせあの世に持ってけねェだろうが」
「あの限定フィギュアはこの世に200体しかない稀少なフィギュアなんだブー…。もし手に入らないのなら、せめてお姉さん…!ブレザームーンのコスプレしてほしいだブー」
は?お姉さん…私?
戸助さんと銀さんの視線が私に向けられた。
「は?」
「お願いだブー!お姉さんブレザームーンのヒロインにそっくりなんだブー!見せてくれたら僕成仏できるんだブー!アイタァ!!」
「成仏の条件変わってるじゃねェかァアア!」
誰がキモオタの為にコスプレするかァァアアア!!持ち歩いてる塩を投げつけてやった。
「しゃーねーな。わりィけどウチの神楽の為に人肌脱いでやってくれやオネーサン」
「包丁って台所ですか?(訳※ぶっ殺すぞ)」
「ッァアアアアアすみませんっしたァァアアア!!すげー殺意込められてる!!ソフトに殺意込められてるゥウウウ!!」
私がゆらりと立ち上がると銀さんはジャンピング土下座を繰り出した。
イケメンだからって言っていいことと悪いことありますからね。土下座姿も素敵だけどね。
「仕方ないだブー。限定品フィギュアで手を打つんだブー」
「何妥協した感じにしてるの。元々ハードルそこだったよね?」
それから私と銀さんは買い物から帰ってきた新八君に神楽ちゃんの看病をお願いして、限定品フィギュアを探すことに。
半分デート気分なのは内緒だ。変なこと考えて鼻血出さないようにしないと。
「なぁ」
「はい?」
「マジなとこ、オメーさん何者なの?」
「!」
銀さんは目の前を飛ぶ浮遊霊を鬱陶しそうに振り払った。もちろん振り払える筈もなく、手は宙を振り切るだけ。
…やっぱり、見えてるんだ。
「気のせいかと思ってたけどよォ。やっぱオメーさんとチューするの見えちゃいけねーモン見えんだよな。いや、いけねーモンってアレであって、別にアレじゃないからアダルト的なヤツじゃないから」
「だァァアアアもう!鬱陶しい!!」と銀さんはぶんぶん手を振り回す。
だから触れないって。
「ていうか、名前聞いてねーんだけど」
「あ、申し遅れました。私、」
「オイオイ、遂に嫁さんゲットしちまったんですかァ?万事屋の旦那ァ」
振り向くとそこには黒服を見に纏った青年。リアル沖田君じゃないのォオオオオ!!可愛いィイイイ!!!
「おーこいつァ絶賛おサボり中の総一郎君かい?仕事しやがれ税金泥棒が」
「今しがた卑猥な頭してる旦那をしょっ引いてやりたくなっちまいましたぜ」
あれ、そういえば私なんか今の今まで満足に名乗れてない。
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