気がつけばすっかり彼らのペースに呑み込まれ、
◼︎
「はァ?街中の男どもがキスをせがんでくるだァ?ゴリラの間違いじゃねェのかよおごば!?」
「それならそれでゴリラの駆逐をお願いしようかしら」
銀さんは台詞を言い切る前に姉上の鉄拳によって遮られた。そりゃそうだ。
僕と神楽ちゃんは2人をノーリアクションで見守っていたが、さすがにそろそろ銀さんが可哀相になってきたところで声をかけることにした。
「姉上、先に銀さんを駆逐しかけてます…。でも、本当なんですよ銀さん。さっき姉上とここまで来るときに何度男の人に姉上が襲われかけた事か…」
「どっちかっていうとオメーの姉貴の方が襲いに行って…ぶべら!!!」
「やーね銀さんったら。面白くない冗談言わないで」
もう知らん。二度と助けてやるかよ。
しかし、姉上が襲われたと言うのは紛れも無い事実。朝方、スナックから帰ってきた姉上はそれはそれは珍しく疲れたような表情で「私の顔を見た男たちがこぞってキスをせがんできて大変だった」と言うのだ。
ストーカーに発展したら大変かも知れないと踏んだ僕は疲れ切った姉上には申し訳ないけれど、万事屋で休ませた方が銀さんもいるし安全じゃないかと思って連れてきた。(既に厄介なストーカーがいる事はこの際割愛させてもらう)
「それで姉御その格好してきたってワケアルか」
「どの輩も姉上を一目見ると飛びついて来て大変だったんだよホント…」
神楽ちゃんの言う「その格好」というのは、姉上のサングラスにマスクという完全防備の格好のことで。あまりにもしつこい輩から姉上を守るべく、途中のコンビニで買ってしまった。実際に効果はあったみたいで、この格好になってから誰も姉上を襲わなくなった。
「もう取っても大丈夫ですよ、姉上」
「まァ、少なくともここなら襲う馬鹿もいねェだろ」
「そうね。銀さんと新ちゃんしか居ないものね」
「誰がゴリラみてェな女を襲う、か、…」
サングラスとマスクを取った姉上が顔を上げると、銀さんが中途半端に台詞を切った。殴られた訳でもない。銀さんを見遣れば、姉上を見て固まっている。
「なぬ?銀ちゃんどうしたネ?」
「…キス、してェ」
「「「っはぁぁあああああ!?」」」
―――――
「よォ」
カラリと店前の引き戸が開く音が聞こえ、誰かの短い挨拶が聞こえた。お客さんか。
店長に任せとけばいいや、と私は目の前にこびりついた汚れに再び向き合うことにした。
「あんだ、銀さんかいな。どうしたよ?」
「!?…いったぁ!!?」
「何してんだ名前ちゃん…」
シンクの下に上半身を突っ込んで掃除をしていたら店長が突然銀さんの名前を呼ぶもんだから、思わず体が反応してしまった。ゴチンと頭をぶつけ、悲鳴を上げながら体を出すと店長に冷たい眼差しで見下ろされた。
いった…これ、絶対頭のネジ落ちたって。カウンター越しに店の入口の方を見ると、間違いなかった。正直色々突っ込みたいところあるんだけど、まぁ、その、銀さんだった。
「ちょっくらコイツ借りてェんだけど良い?」
「ん?早めに返してくれな」
「おー」
「は!?」
「さっさと行ってこい」と店長に手であしらわれて私は店長を睨みながら小袖を結ぶ紐を解いた。銀さんと接触できるのは正直嬉しい。けど、関わって大丈夫なんだろうか…複雑な気持ちだ。
「万事屋さん、如何されたんですか?」
「わりィちょっと頼まれてくんねェ?」
「は、はぁ…?」
とりあえず付いてきて欲しいと言われたので銀さんの背中について行くことに。
その道中で気になっていた事を聞いてみることにした。メインテーマ?もちろん顔だ。なんせ銀さんのあの男前な顔がボッコボコに腫れているのである。殴られたようなレベル…っていうか、殴られたよね。
「その顔どうしたんですか?」
「あー奇襲にあった。ゴリラの奇襲に」
「ゴリラ…?」
「ゴリラのスタンドだな。ありゃきっとゴリラのスタンドがゴリラに憑いてスーパーゴリラみたいな?とにかくまぁ、そんな感じよ」
「す、すみませ、ゴリラのキーワードがインパクト強すぎて内容がちっとも入ってこないんですけど…」
それから、段々と町中の霊の濃さにそろそろ頭が痛くなりそうだと思っていると着いたのは万事屋銀ちゃんの看板が掲げられた建物の前。…アレ?
さも当たり前かのように階段を登る銀さんを見上げていると「何してんだ」と言われる。登って良いってこと…?とりあえず後を追いかける。
「たでーまー」
「ちょ!銀さん!急に出かけたと思えばアンタ一体何を考え…!あれ!貴方は!」
「オイ助っ人拾ってきたぞ」
わぁーうお。居間に入ってみれば、すっかり元気になった神楽ちゃんと、もう1人は…マスクをしているけれど、新八君のお姉さんのお妙ちゃんじゃないか?
え、なんかすごいまずいところに連れてこられた感がハンパないんですけど…!
ていうか、助っ人ってなに!?
「改めて…初めまして。私、苗字名前と申します」
「名前さんね。私は志村妙です。此方の眼鏡の姉です」
「一応実弟なんですから、眼鏡で紹介するのやめましょうよ姉上…。僕もすっかり挨拶しそびれてましたね。志村新八と言います」
「えっと、お妙さんと新八君って呼ばせてもらいますね…!」
うーん、こうして近くで見るとお妙ちゃん美人だ…。お肌ツヤツヤだし…いくつだっけ、未成年だよね確か。
「まぁ、呼び捨てでも良いくらいなのに…!名前さんの方がお歳上ですよね?」
「え?そうなの?オメーいくつ?」
「に、24です…」
「はーん、童顔か」
「なら、私のこともっと気軽に呼んでくださいな名前さん」
「じゃ、じゃぁ…お言葉に甘えてお妙ちゃん、で…」
「はい」
ジロリと見られてなんだな居心地悪い…。というか私なんでここに連れてこられたんだよ。
「神楽アル!こないだの熱、銀ちゃんと一緒にフィギュアにお祈りしてくれたって聞いたネ!私あれから嘘みたいに元気になったアルよ!ずっとお礼言いたかったネー!」
「神楽ちゃん…!」
なんて可愛い子なの!!
こないだは寝込んでた姿しか見てなかったけど、すっかり元気になったみたいで。あー、ブー太郎成仏させて良かった。この笑顔が見れたんならもうなんでも良いわ。
「まぁ、自己紹介もこのくらいにして…。銀さん、何故名前さんを…?」
「あー、こいつ視える人間らしいんだわ」
「…!!」
アルェェエエエエエ!?銀さんンンンン!?
なんでどいつもこいつもサラッと色々言っちゃうのかなァァアアア!?こっちの世界の人たちってお口緩めですか!?
ガッチガチに固まる私を差し置いて銀さんはどんどん話を進めていく。
「胡散くせェと思うだろうが、事実、神楽の一件もコイツが原因を突き止めて何とかしてくれたようなモンなんだよ」
「そうだったんですか…!」
「名前姐さんって呼びたいアルゥウウ!!」
「あれは偶々私が助けられる範囲だったのが幸で…。それで、今回は…?」
神楽ちゃんにがっしり抱き込まれる。神楽ちゃん良い匂いするな…!銀さんと同じシャンプーなんだろうけど、なんていうか、またちょっと違う女の子らしい匂いだ。
いやいや待て名前。神楽ちゃんの匂いに思考が一瞬持っていかれたけど、そうじゃないだろ。今回の件について訪ねてみると新八君が事情を説明してくれた。
「実は、姉上が町を歩いているだけで男の人に襲われてしまって…」
「ゴリラの見間違い俺ァ言ったんだがな…うお!?」
「銀さん?そろそろ寝言は聞き飽きましたよ。それともしっかり眠りたいんですか?」
「さっき姉御の顔見たら銀ちゃんも「キスしてェ…!」なんて鼻膨らませながら発情してたアルヨ」
「てめっ…!それを言うんじゃねェェエエ!!」
マジか。まぁ、そんくらいお妙ちゃん可愛いけどね…。
ていうか、町を歩いてるだけで男に襲われるってどういうことなんだろう。
「如何!それは如何ぞ!安心して下さいお妙さん!貴方のことは私がまもっ…ッアアア!!!」
「なんでてめェがこんな所にいんだァァアアア!!!警察呼べェェエエ!!」
「私が警察で…ぶふぉ!!」
こ、近藤さァァアアアん!!?
さりげなくお妙ちゃんの隣に座ってウンウン頷いていた近藤さんは、やや間があってからお妙ちゃんにボコボコに殴られ始めた。
「(こ、これが銀魂の日常か…)」
「名前さん騒がしくてすみません…。いつもこんな感じなんですよ…」
「そ、そうなんですね」
「僕お茶淹れてきますね」
目の前の漫画で見るような光景にフゥ、と誰にも気づかれないような小さな溜息を吐いた。私、ますますここにいて良いのだろうか不安だ。
お妙ちゃんの拳は新八君がお茶を持ってきてくれるまで続いた。銀さんはお茶を飲もうとしていたお妙ちゃんに、「銀さんはあっち向いてて下さいね。振り返ったら殺すぞ」と言われ、1人だけデスクチェアーで窓辺を向いてイチゴ牛乳を飲んでいた。近藤さんと言えば、まぁ、屍と化して床に寝転がっている。
「(あ)」
「あら?何か私の顔に?」
「ゴリラの生霊が視えるんじゃねェのあで!?」
「私も見たいアルゥウウ!!」
銀さんがお妙ちゃんにジャンプを投げつけられて椅子から落ちた。あれは痛そう…角だよ…。
私はもう一度マスクを取り外したお妙ちゃんの顔をチラリと見遣る。うん、やっぱり美人だ。だけども、唇からうっすらと瘴気が漂っている。唇…か。
「お妙ちゃん…最近何か化粧品買い換えたりしたかな…?」
「化粧品…?あぁ、最近ね、人気のリップ買ったの。えーっと、この辺りに入ってたハズなんだけれど」
「!」
カタン、と不自然な音が居間に響いて、音の方を見ると、リップが落ちていた。
その直ぐそばには小柄の幽霊が驚いた表情で私を見上げており、リップを抱えて逃げ出した。
「あら、私のリップ…」
「リ、リップが動いてる!」
「(他の人からしたらリップが浮いてる様にしか見えないだけか…)どりゃ!」
急いでリップに飛びかかったが、それよりも向こうが逃げるのが早かった。
「あれ捕まえて下さい!あれが原因です!」
「待てコルァァアアア!!」
神楽ちゃんがリップに飛びついたが、見事に空振り。新八君がどこからか出してきた網を振りかざすも、捕まえられず。
窓の小さな隙間から逃げ出してしまった。
「あれを捕まえれば良いのね?」
「は、はい!」
「私から逃げようなんて一億年早いんだから。待てコルァアアア!!」
「待ってください姉上!」
「姉御ォォオオ!!」
お妙ちゃんを先頭にして神楽ちゃんと新八君が外へ追いかけに行った。私も皆につられるようにして玄関へ駆け出す。
「お前さんはちょっと待った」
「ぐえ!?」
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