出会ったときからおかしい。

◼︎


うちの団長は頭がおかしい。


「そういや、お前さんなんでウチに入ったんだ?俺が長期で離れてて帰ってきた頃には居たよな?」
「え?」

よく分からん星の偵察中。よく分からん天人の動きを監視していたら、暇になってきたのか、阿伏兎が謎の質問をしてきた。テメ、仕事しろよ。仕方ない、敵方も動きがないし私も暇だ。ここは副団長様に合わせてやるとするか。深妙な面持ちで監視を続けながら口を開く。

「…今まで皆んなには黙ってたけど…私…団長の首を取るためにここまでやってきたの。昔両親を殺された敵討ちで…」
「3点」
「なに3点って!!10点満点中なの!?100点万点中なの!?」
「メタなこと言うとこの小説のタイトルからしてウチのヒロインがンな重てェ設定なワケねェだろ出直してこいこのすっとこどっこい」
「何その謎の固定観念!!うわームカつくわー自分から話振っといてノれないなんて」
「ギャグの小説にシリアス設定練り込む時はもっとちゃんと深く考えとかねェとダメだ。お前さんのありきたりで軽すぎな」
「ガチな指摘かよ」

ドチクショウめ。阿伏兎をチラり見やると欠伸しながら監視を続けてやがる。興味失せるの早!

「重たい設定はやり過ぎたけど、私ここ入る前はアレだったのよ」
「あーハイハイアレなアレ。すげーじゃねぇの」
「ちゃんと聞けよバカ伏兎!いろんな星のモンスター狩っては身ぐるみ剥がして素材にしていろんな星に売り捌いてた仕事してたのよ!」
「あれだろ?PSP内の話だろ?モンハン持ち極めるぐらいやり込んでそうな顔してるよな」
「手が小さくて出来るかよ。ってかあんまり冗談抜かしやがると陰毛擬きの頭の毛毟るぞコルァ」
「口悪すぎるだろオイ…女の子がそんな言葉遣いしちゃァおじさん泣くよ?」
「泣き真似ウザい阿伏兎」
「追い討ちかよ!!…で、前職はなんだって?」

えっと、あれは確かほにゃらら星に行った時のこと。私は頼りない記憶を手繰り寄せて団長と出会った日のことを思い返す。
確か某狩人ゲームに出てくるモンスターの名前とおんなじ天人…ってか、ドラゴンのラオシャンロンをようやく見つけた日のこと。

「素材もらったーっ!!」

太刀をぶん回して何度か肉質が弱いところを集中的に攻め、時間をかけて甚振ってようやく倒れ、小さな小刀を腰から取り出し、ラオシャンロンの立派な躯体から素材を剥ぎ取る作業に取り掛かろうとした時だった。

「ーー!」

突如、上方から急激に迫り寄る殺気に私は地を蹴って下がれば、何かがその場に降ってきて瞬く間に爆音と爆煙が広がった。視界不良の砂埃から逃れようと地面を蹴ると、不意に目の前に現れたマントの布端を見逃さなかった。

「ーー逃がさないよ」
「っ!?」

そこから先はスローモーションのように覚えている。目線を少し上げた先にはフードから此方を捉える青い双眼。視界の隅にはしっかりと固められた拳も見えて、私は咄嗟に両腕を前に出し、奴の拳を腕で受け止める。

「う、ぐっ…!!」

凄まじい衝撃に私の体は瞬く間に吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。しかし休んでいられるヒマもないのは分かっていて、吹っ飛ばされた時に取り出した太刀を空に向かって突き上げる。

「!おっと、」
「……なんなのアンタ…」

爆煙から拳を構えながら飛び出してきたヤツは私が太刀を構えたことに驚いたのか、刀身を両手で挟むようにして逆立ち姿勢で止まった。

「名前はなんて言うの?」
「そういうときはまずどうするのか、お母様から習わなかった?」
「そうだったね、強そうなヤツ見つけてついはしゃいじゃった。俺は神威、いずれ海賊王になる男さ」

神威…しかも海賊王とかわけわからん事名乗った男は太刀から飛び退く。私は奴を警戒したまま立ち上がる。
フードを脱ぐと現れたサーモンピンクの髪に、ぴょこんと飛び出たアホ毛。色白な肌にくっきりと見える鮮やかな青い双眼。

「お前が気に入ったんだけど…、よかったら仲間になる?それとも俺に殺される?」
「アンタ漫画の読みすぎだろ。ワンパークファン丸出しだよ。性悪なゾフィかアンタ」
「先週号のはワクワクしたよね!もちろん今もワクワクしてるけど、ね」
「!」

その双眼がニッコリと三日月の形に変わった瞬間、ビリビリと痛いくらいの殺気が放たれた。眼力だけで獣を射殺せそうだ。爆煙が消えてクリアになった視界に少しだけ辺りを見渡すと、愛しのラオシャンロン様からちょっだけ離れていたことに気づく。

全く…、新鮮なうちに素材回収しないと使い物にならなくなるっていうのに、ここへきてとんだ邪魔者が入ったもんだ。

「その素材の回収の邪魔した代償は高いよ」
「ほう、もしかして本気出してくれるの?こいつは嬉しいな」

太刀を納めている鞘と纏っていたマントをその辺りに放り投げた。腰には小刀、手には太刀で身軽モードに。ここから先はスピード勝負だ。

「じゃ、早速ヤり合おうとしようか」
「…上等!」

私とアイツは同時に地面を蹴った。爆撃音を放ちながら私の持つ太刀とアイツの持つ傘がぶつかり合う。

「…なにその傘」
「ありゃ知らないの?」

すんげー頑丈なこと。私の太刀も結構レアなモンスターから作ったぶきなんだけどなァ。
どこで手に入れたんだろうソレ、とぼんやり考えていると傘からジャキ、と音。どこかで聞いたことのあるその音に咄嗟に合間を取る。

「実はこんなのも付いてるのさ」

ズガガガガガンッ
バク宙を繰り返しながら距離を空ける。銃声が鳴り止むと同時に私も止まった。

「なにソレめっちゃ便利」
「だろ?でも俺はこんなものよりも…」

距離を詰めてきたアイツは傘を捨てて右手の拳を構えた。太刀の面の広い場所を向けて来るであろう衝撃を待つ。

「こっちの方が好きなんだ」
「…アリ」

太刀は見事にバラけて、アイツの指先が左肩を掠めた。咄嗟に太刀から手を離し、真っ直ぐに伸びた右腕の関節を固めて軽くジャンプし、両足を揃えてヤツの端整な顔面を蹴る。綺麗な顔蹴るのは罪悪感あるけど仕方あるまい。この際粉々に砕けちまえと言わんばかりにありったけの力で蹴飛ばす。
蹴る瞬間に右腕の関節を外させつつ右腕を離したから、アイツは見事に吹っ飛んで崖面とドッキング。さて、こんなもんかな?

「いだだだ…。なんつークソガキだ」

左肩を見れば、まー案の定血まみれ。ま、直ぐに治るから別に気にしてないけど。
さてさて、愛しのラオシャンロン様ー!腰の小刀を抜きながらラオシャンロンに駆け寄った。

「…って腐ってるゥウウウ!?」

しまったァアアアア!!予想以上に時間が経ち過ぎた!!?あーめっちゃレアなモンスターなのに…時間掛かってじっくり痛ぶってようやく倒したモンスターなのに涙目ちょちょ切れなんですけど…。

「もうちょっと俺と付き合ってよオネーサン」
「ふざけんなクソガキ」
「つれないなー」
「レディを傷物にする化け物相手にしたくないんですけど」

崖から脱出したらしいクソガキは気付いたらすぐ後ろにいた。ちぇー、って可愛く拗ねてるけど、頭から血を流して更にニコニコ笑みを浮かべているからぶっちゃけそんなに可愛く見えない。不死身かコイツ…いや、不死身以外にも心当たりのある天人が居たな。

「「もしかして、夜兎?」」

お互いに人差し指を突きつけあい、私とクソガキの声が重なった。そして、どちらからともなく笑う。

「なーんだ、同族か。ますます興醒めしたー」
「そんなこと言わないでよ。俺はオネーサンにすごく興味あるんだ。良かったらウチに入んなよ」

盛大なため息をついて私は先程投げ捨てたマントと鞘を回収しに行く。その後ろをついてくるクソガキ。

「あーあ、レアな素材は逃すし、なんか暴漢に襲われるし。せっかく大金入りそうだったのになー」
「お金に困ってるの?ウチだったら尚更ウチにおいでよ。高給だよ」

この辺だったような…あ、あった。
マントを拾い上げて、鞘に手を伸ばそうとしたところで手が止まる。そういえば太刀ぶっ壊されたんだっけ。私は後ろのクソガキを振り返り、腰にある傘を見る。

「ねぇその傘貰える?日除けになるしめっちゃ便利だから欲しいんだけど。太刀ぶっ壊してくれたお詫びにくれないかな」
「これは俺仕様になってるからあげられないけど、特注で頼んであげようか?ウチに入ってくれればの話だけどね」
「んじゃあ入る」

「ヤッター!阿伏兎に伝えおかなくちゃ!」と嬉しそうに跳ねるピンクサーモンのクソガキの背中について行くことにした。


「……え?そんな軽いノリだったのお前」
「え?なんで?」
「だったら重てぇ設定の方がカッコよかったんじゃねェか…。そんなひょっこり入られたらそれはそれで読者もがっかりだろうよ…拍子抜けもいいとこだぜ…」
「阿伏兎酷い」

ちなみに、我ら団長が強い者を見ると戦いたくなる妙な性癖持ちというのは、入団してから知ることとなる。

やっぱりうちの団長は頭がおかしい。

「団長はそれだけじゃねェと思うけどな…」
「え?なにバカ伏兎、なんか言った?」
「いんや、なんでもねェ。ていうか、そのバカ伏兎やめてくんね?」


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