そもそも根本的におかしい。

◼︎


「いつになったら終わるのコレェエエ!?」

んがァアアアア!!と倉庫で叫びとち狂う私の隣で阿伏兎が溜息を吐きながら手元の書類にマークを付けていく。え?また仕事してんの?って?

「口動かす余裕あんなら手ェ動してくれや手をよ。ヤクを大量に買い付けてくれる取引先が決まったんだ。ありがたく思え」
「アァァア嫌だァアアこんな細かい仕事性に合わないぃイイ!なんでこれ第七師団がやってんの!?ってか私達最近こんなんだよね!?読者も仕事ばっかりしてるヒロインに見飽きてる頃だよ!!」
「安心しろ俺が見飽きてきたところだ」

危ない薬を大量に買ってくれる取引先が見つかったらしいのだが、いかんせん春雨はほとんど男の集まり、薬の保管法が雑過ぎて数が分からなくなっているとかで何故かその仕事が我ら第七師団のところで回ってきて、それが更に私と阿伏兎のところにきて、今地味ーに数えてるのである。一向に体動かす仕事回ってこねェ。ていうか多分それ系の仕事は団長に取られてるなきっと。

「細々とした作業、男どもより女の方が得意だろォ?女のお前だから頼まれたんだ。普段女扱いされねェってうるせェんだからここぞとばかりにポジティブに受け止めろ」
「阿伏兎が男女差別発言してくるゥウウウ!男女格差!男尊女卑!バルス!!バルス阿伏兎!!」
「だァアア!うるせェ!!仕事の鬱憤を俺にぶつけんな!団長にしろ!」
「チッ」
「こォーら、女の子が舌打ちしちゃいけませーん。ニッコリ笑っとけ。笑顔は女の最大の武器だ。笑顔さえあればこの男女格差社会も乗り越えられる」
「阿伏兎、私この作業抜けるね(ニッコリ)」
「何ニッコリ笑って上がろうとしてんのこのすっとこどっこい」



クソ、上がれなかった。

何がニッコリ笑えだアンチキショー。気が遠くなりそうな薬の量を数え終えた私は疲れ切った身体に鞭を打って自室へ向かう。もう連日仕事仕事仕事。シャワー浴びたい。んで死んだように眠りにつきたい。起きたらカラダ動かしに行きたい。

ようやくついた自室の扉。その横にある指紋認証のパネルに手を当て、解錠の音を聞いてからドアノブに手をかけた。

「あ゛ぁあああ会いたかったマイスイートベッド…」

閑散とした部屋の中にあるふっかふかのベッドへ足を向ける。先月ちょっと奮発して買っためちゃくちゃ寝心地の良いベッドだ。ベッドとマットレス、その他諸々付きのセットでプラネット高田で売ってたのをポチってみたのだ。

買ったのは良いけど連日仕事のオンパレードのせいで、寝たのは多分2、3回くらい。部屋には毎日シャワーのために帰っているけど、寝床はデスクっていうね。泣けるよね。
あぁでも過去の私ほんとグッジョブ。今日という日のために買ったのねきっと。

「…?」

ベッドダイブする2秒前。私の身体はピタリと止まった。…あれ?なんだ今の音…。ガチャって、なんか後ろでガチャって音が聞こえた。

「んぐえっ!?」

振り返る直前に体が床に叩きつけられて冗談抜きで一瞬意識が吹っ飛んだ。徹夜明けで元々意識飛びやすかったっていうのもあるけど。

床に叩きつけられた上に何かが私の上に何か乗っている。顔を上げようにも首の根を掴まれているし、肩もしっかり押さえつけられていて身動きが取れない。なんて完璧なマウントの取り方だ。ってなに悠長に解説してるんだ私。身の危険を感じろよ。

「あり?名前?」
「だ、団長…!?」

頭上から聞こえてきた声。あり?全っ然頭がついていけないんですけど。なんで団長の声が聞こえるの?ここ私の部屋だよね?間違っても団長の部屋なワケないよね?だって指紋認証しないと各自室入れないし。

「もー、ビックリしたよ。入るなら入るって言ってよね。間違えて殺しちゃうところだったよ」
「あ、すみませ……っていやいやいやいや、待て待て待て待て。ここ、私の部屋… だよね?」
「ん?そうだよ」

さも当たり前かのように何言ってんだコイツ。お前ほどの猛者がノロノロ歩いてる私を見間違えるかっつーの。

ていうかなんで私の使ってるボディーソープの匂いしてんの。それ結構高かったんだけど。ていうか団長が飛びついてきた方向ってシャワー室じゃん。

「俺の部屋のシャワー、排水溝詰まっちゃってさ。多分こないだの天人の血が粘ついてて詰まっちゃったんだよね。だから名前のところ借りてた。別に良いよね?」
「確認するタイミング違ェエエエ!!ていうかなんで部屋入ってんの!?鍵は!?」
「つれないなぁ、俺と名前の仲なのに」
「どんなだよ!ただの上司と部下だろこンのすっとこどっこい!!って阿伏兎の口癖移った!」
「あははっ、名前面白いね」

こちとら体力ゲージもう10%切ってるつーのに一気に1%になった気分だよ!!押し寄せてくる団長のボケのせいで項垂れていると団長が流石に憐れんでくれたのか、上から退いてくれたので私ものそのそ立ち上がる。
乗り上がってくれた団長様を睨んでやろうと後ろを振り返ったところで気づいた。

「上を着ろォオオオオオ!!」
「うるさいなー、仕方ないだろ?名前が突然入ってくるから、名前の男か侵入者だったら殺してあげなくちゃと思ってそのまま出てきたんだ」
「人の部屋を血の海にする気だったんかいィイ!どっちかっていうと侵入者アンタ!!」

「そんなにカッカしてたら血圧上がっちゃうよ?」とケラケラ笑いながら髪を拭く団長は中華服の下の方だけ履いていて。
上半身はそれはそれは綺麗についた筋肉…ってか裸ね。………なんでだよォオオオオオ!!ツッコミ捌き切れないよ!地球にいる新八君もたまにはツッコミ放棄したくなるよそりゃ!!

「どうしたの?もしかして男の体見慣れてないとか?名前にも意外な可愛いところがあったんだネ」
「ハッ、バカも休み休み言え」
「フーン」
「シャワーもう良いよね?さっさと帰っ、んぎゃあ!?」
「ねぇ、ちゃんとこっち見てよ」
「ちょっ…!」

冷蔵庫の水を取りに行こうとすれば足払いされて床にまた縫い付けられた。今度は仰向けだ。上にはバカ団長。

……ん?押し倒されてる?

「どうなの?少しは意識した?」

ぽたり、バカ団長の髪先にあった雫が私の頬に落ちた。見たことのない団長にちょっとドキッとしたのは内緒である。そもそも私年上が好みだからね!!
…クソ、ほんとどこで覚えてきたその色気の出し方。阿伏兎か。阿伏兎から教わったのか。最近アイツ団長に余計なこと吹き込んでやがるみたいだからいっぺん締めてやらないと。

「…寝言は寝て言え。私年下に興味ないし」

フン、と鼻で笑う。阿伏兎から聞いたけど確か団長は18とかそこら…まだまだお子様でしょ。2つ下でもお子様よ。

「へぇ…?そうなんだ」
「…!」

ワントーン下がった声色。すっと開かれた青い双眼。不意に近づく団長の顔。えっ、えっ?

ちゅ、と頬に柔らかい感触のあとに、団長の唇は私の耳元に近付いた。

「…は…?」
「覚悟しといてネ名前」
「…え…?」
「またシャワー借りるね。じゃ」

団長は私から離れて立ち上がると、ニコリいつもの営業スマイルを見せつけてはその辺に放り投げてあった自分の中華服の上を取り上げ、それをさっと羽織って部屋の扉を開けた。

…なにが「じゃ」だ…。

「待てやァアア!なんで部屋入ってこれたか教えろォオオオ!!不法侵入だぞコラァアア!!」
「えっ?そこなの!?」

やっぱりうちの団長は頭がおかしい。何高潔な乙女の部屋にそれもシャワー勝手に使ってんだ。ともかく侵入方法知って早めに対策取らないと。このままではいつ団長に寝首を掻かれるか分からず夜もおちおち寝てられやしない。
心臓がバクバクうるさく鳴っているのは、きっとそういうことだ。


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