今日は休みなのにおかしい。

◼︎


「名前…俺ァ目が疲れてんのかもしれねェ。これは現実か?確かにここ最近疲れ目だったっつーのもあるが…」

隣に立つ阿伏兎がよぼよぼの目をこすった。気持ちは…分からなくもない。

「この奇跡見逃しちゃダメだよ阿伏兎。老眼になろうとも縮毛になろうともこの奇跡だけは見逃しちゃダメだよ」
「だから縮毛じゃないっつってんだろフワフワだっつーの俺の髪は」
「毛だけにまだ根に持ってんの?取り敢えずそれはさておき、コレどう思う?」
「あ?そりゃあどうもこうもだなァ…俺ァシャンプーは結構いいモンを…」
「縮れ毛はいいからちょっと腕抓っていい?」
「ヤメろお前がやると皮膚根こそぎ狩られる」

私たちは目の前に居座る我らが団長を見下ろした。デスクにきちんと居座り、片手にハンコを持ってポンポン書類に印を押している。

何度も言うが現実だ。

「「団長が仕事してるゥウウウ!!」」

2人して涙目になりながら抱き合って喜びを分かち合っていたら、にっこり笑った団長が私と阿伏兎を見上げた。

「やだなー2人とも。殺されたいの?」
「えへへへ冗談ですよー団長。これハンコお願いしますよー」
「うん」
「それからコレも」
「うん」
「あ、あとコレも!」
「うん……うん?」

この瞬間を待ってました!!と言わんばかりの良いテンポで一番印を押して欲しかった大本命の書類をサッと団長の目の前に差し出す。「休暇届出」と書かれた紙に団長はノリで印をつけるも、意外とちゃんと見ていたらしく「おや?」と目を開いた。

「いやったァアア!!3日間有給ゲットー!」

団長に引ったくられる前にサッと紙を回収。うん、カムイと書かれた朱色の印がちゃんと押してある。なんて重々しい価値のある紙だ!

「おまっ…謀ったな!なんて女だ!」
「激レアな団長ハンコ付き!!わーい地球遊びに行ってきまーす!阿伏兎、小型艦借りるね!」
「オイ!!」

それはそれはもう楽しそうに団長の部屋を飛び出していきやがる名前の背を見てたら、なんつーかため息が出た。

あの女、策士だ。いつから用意してやがったんだかあの休暇届出…。次からの作戦リーダーアイツでいいんじゃねぇか。老兵はそろそろお暇させてもらうかね。

「…阿伏兎」

しゃーねー、仕事に手ェつけてやっか。なんて思っていたら団長様の声。なにやら機嫌がよろしくなさそうだ。

「…ハイ」
「今名前のヤツなんて?」
「…俺の千切れた耳がまだ使えてんなら、地球に遊びに行くっつってましたね」
「こいつは一つヤキ入れてあげないとね」
「マジか」

…俺ァ知らねェぞ名前…。



「か、ぐ、ら、ちゅわぁああん!!」
「ギャァアアアア!!でっ、出たアルゥウウウ!!」

前方に発見したチャイナ服の女の子に飛びつく!

「今日も可愛いね。なんでそんなに可愛いの?食べちゃいたい!」

顔を手で押さえられようとも肘で押しのけられようとも耐える私。というか、このくらい痛くもかゆくもない!そんな私たちの側で若干引きつった顔をしたままこちらを見ているのは、神楽が働く職場のお二人さん。

「銀ちゃん助けてェエエエ!!」
「悪ィな神楽…俺まだ死にたくねェんだわ」
「新八ィィイ!!」
「ごめんね神楽ちゃん。僕もまだ長生きしたいから…」
「侍魂どこ行ったアルか!こんな可愛い女の子が襲われてるネ!」
「流石にモノホンの夜兎相手に…ねぇ?」
「馬鹿にするな!私もモノホンネ!!」
「神楽ってばいつからそんなツンデレな子になっちゃったのかしら。坂田さんウチの神楽にどういう教育してくれてんの」
「いや、何がどう見てもお前のじゃねーだろ」

だんだん会う度に荒れてきている気がする。男ばかりの環境が良くないのだろうか。名前姐!なんて呼ばれたいんだが、これはまだ先のことになりそうだ…。

「気持ち悪いアル!」
「まさか…思春期!?」
「あーそれはある。最近洗濯物分けろってうるせェし」
「聞けよてめーら!!なんで名前がここにいるネ!!」
「お兄ちゃんに有給もらったんだー。もう神楽に逢いに来るしかないでしょ?」
「なんつー迷惑なことしてくれるネあのバカ兄貴!」
「神楽も寂しかったくせにー!うりうり!」
「ああああうざいアルゥウウウ!!」

こめかみに青筋浮かべる神楽も可愛いこと。愛でれば愛でるほど顔を押さえつけられてる気がするが気にしない気にしない。

「相変わらずですね名前さんの神楽ちゃんへの溺愛っぷり」
「この小説いつから百合モンになったよ。見てて角砂糖吐けそうだぜぱっつぁん。アレのどこがいいんだか」

聞こえてるぞそこ。でもそっちよりもまず今は自分の心の疲労回復を早めたい。いかんせんこちらは連日仕事三昧だったのだ。どこぞの地球の万事屋よりも何百倍も働いているのだ。プー太郎の数万倍働いているのだ。

「オイ心の声聞こえてんぞ。しばかれてェのかテメーは」
「お願いよ神楽ぁー、最近仕事三昧で疲れてるのよー癒して心のオアシス」
「…お前まだあんなところにいるアルか。さっさと転職して地球に来ればヨロシ」
「えっ、そしたら神楽一緒に住む!?お姉ちゃん毎日ご飯作るよ!?毎日お風呂一緒に入ろう!こんなあんなむさくるしい家よりもきれいな家用意するよ!?あんな変質者よりも私と一緒にいたほうが安全安心だよ!?」
「あのー、俺一応公式の保護者設定なんだけど」
「じゃぁ、集英社に乗り込んで設定変えてもらわないとね」
「ジャンプ回収騒ぎになるからやめろ」
「ちぇー」
「離せアルゥゥウ!!」

ちょっと拗ねると不意に私と神楽に影が被った。2人して見上げるが、それよりも衝撃の方が先だった。

「だぁっ!?」
「んごっ!?」

顔を上げる前に頭への衝撃に神楽と2人して地面に叩きつけられた。


「そうかそうか。そんなに疲れてるなら眠らせてあげようか永遠に」


あれ?気のせいかな。悪魔の囁きが聞こえた。

「か、神威…!何しにきたネ!」
「そこの馬鹿兎を回収しにきたのさ。別にお前に用があって来た訳じゃない」
「んだとコラァ!」
「オイオイこんな町中で兄妹喧嘩やめろよな」

神楽はすぐに起き上がって団長に飛びついたようだが、私は未だに狸寝入りを続けている。
やべぇ、これ、多分おこだよ。団長の殺気よ。
起きるタイミング伺っていると、頭をわしっと掴まれてそのまま強制的に起こされた。あらこんにちは団長。今日もイケメンですね。

「…いだだっ!?なんで団長ここに!?」
「お前が地球に行くとか馬鹿なこと言い出すからだろ?」
「なんでだよォオオ!仕事やることならやったよ!」
「俺だけ働いててお前が地球でバカンスしてるかと思うと胸糞悪くてね」
「畜生にもほどがあんだろ!日頃の自分を省みろよ!自分を!」
「とんだサディスティック上司だなお前のとこ」
「ブラック企業だよ春雨も」
「部下がふらふらほっつき歩いてるんだ。ちゃんと仕事させるために連れて帰るのもまた上司の仕事だろう?」
「普段逆だろ!まじでそのままそっくりお返しするわ!うわわ、引っ張るな引っ張るな!」

襟首をひっ掴まれて慌てて近くにいた神楽の服を引っ張った。神楽も踏ん張ってみるが、流石に団長の脚力には敵わないのか、私と一緒にズルズル引かれる。

「ギャァアアア名前離すネ!私まで春雨に連れてかれるゥウウ!」
「…離せよ」
「原作トーン!?んが!?」

ワントーン下がった団長のセリフの後に不意打ちの頭突きを食らった。途端に目の前がブラックアウト。

「じゃ、うちの馬鹿が世話になったネ」


「…アイツがお前の義姉になる日もそう遠くねェかもな」
「…ですね」
「嫌アル」

気絶していた私に、後々万事屋3人組がそんな会話を繰り広げてたなんて知る由もない。


PREV INDEX NEXT
top