はもんを投じる

◼︎


くりくりとした藍色の神楽の双眼が手中の瓶をまじまじと眺めた。

「へぇ、こんなのが夜兎の本能を引きずり出すアルか…」

薬が入った瓶をじっくり眺める神楽の隣には新八。
あのあとは坂田に病室へ連れ戻され、神楽と新八がお見舞いに来てくれてこうして今に至る。

「神楽が使ったら江戸一つは軽く吹っ飛ぶかもね」
「かかか神楽ちゃん!これに近づいちゃダメだ!」
「何を慌ててるネ新八。飲まなきゃいい話アル」

半分冗談で言った一言なのに冷静な神楽とテンパる新八の2人がおもしろおかしくてつい笑いがこみ上げた。

「笑ってる場合じゃないアル名前!」
「あははは、ごめんごめん」
「でも、どうして名前さんに必要が…?元々すごく強いじゃないですか」
「ぱっつぁん、もっと言ってやれ言ってやれ」
「あ、銀ちゃん!酢昆布買ってきてくれたアルか!?」

カーテンから坂田が姿を現した。ビニール袋から酢昆布取り出すと、神楽に渡すと見せかけて自分が食べて瞬く間に喧嘩騒ぎになった。
坂田と新八は純粋な地球人、神楽は純粋な夜兎…か。そんな言葉がふと頭を過ぎった。

「…半端モノはどっちにもなれないってことだよ」
「…え?それってどういう…」

ぽそりと呟いた一言に新八が反応するが、同時に病室のドアが開く音が聞こえた。


「失礼するぞ」
「生きてやすか半夜兎女ァ」

病室に顔を出したのは黒服の男2人。土方さんと沖田。まぁ、なんとなくそろそろ来そうな気はしてた。

「げぇ!何しにきたアルかお前ら!」
「自分に用があるかと思ったら大間違いだぜチャイナ娘」
「なにをぉおおお!!」

火花を散らす神楽と沖田を他所に土方さんは坂田とは反対側のベッドサイドに立った。

「容体はどうだ」
「おかげさまで最悪。特にこの横のケセランパサランのせいで具合悪くなったからつまみ出してくれない?」
「おいおいケセランパサランは幸せ呼ぶモンなんだぞ。ていうか誰がケセランパサランだコノヤロー」
「自覚してんじゃんケセ田くん」
「その辺にしとけ2人とも…。名前、今朝の件、恐らくヤツで間違いねェ。狙いは苗字、お前だ」
「…だろうね」

土方さんが出してきた資料を受け取ろうとすると、横から手が伸びてきて、そちらに紙を取られた。こんな事するバカは1人しかいない。

「坂田」
「オイオイ、今更首突っ込むななんざ言うんじゃねーぞ。瀕死の状態のオメーをここまで連れてきてやったのは誰だと思ってんだコノヤロー」
「そ、それは感謝するけど…」
「…それに、俺たちャ万事屋だ。頼まれりゃぁなんだってやってやるよ」
「まァ、俺ァ万事屋の旦那にも協力してもらうってェのも賢い選択じゃねェかと思いやすがね」
「だってよ名前。お前よりもコイツらの方が賢いこと言っちまってるぞ」
「…」

なーにがだってよ、だアホ。

「お前なぁ…!!」

そっぽを向く私にしびれを切らしたのか片手で顔をがっつり捕らえられた。

「総悟」
「ヘィ」

坂田に物を頼むことをしたがらない私を見兼ねてか、土方さんは沖田の名を呼んだ。
沖田は手にしていた資料一式を坂田に手渡す。

「旦那ァ、俺らが今追ってんのは知っての通り連日の天人襲撃事件でさァ。ここ数ヶ月で狼人間のような天人・獄卒が江戸の各地で暴れていて、被害が後を絶たねェ状況になってやす。旦那は前に一度会ってるハズだ」
「…あぁ、覚えてらァ。アレが獄卒ってぇのか」
「その獄卒どもを束ねてやがる主が富嶽ってヤローだ。半夜兎女にゃぁ先日吉原に潜入して、ヤローの拠点地を探り入れてもらったんだが、こんなザマってェわけですぜ」
「…」

正直に言っていい?ちょっと今の言い方癇に障った。
どっかのハゲのバカ息子に襲われたり色々問題があったんだよ、って言ってやりたかったけれど、それは言い訳っぽくなってしまうので黙り込む。なんとも洞察力の高い土方さんは何か言いたそうだけど言わない私のことに気付いたようだ。

「しかし、らしくねェな苗字。…想定外のことがあったのか」
「仕事に想定外はつきものでしょう」
「…そーかい。…ま、お前さんが意外にピンピンして安心した。復帰するまでうちが見廻り強化しておくから今は休んでおけ」
「はーい」

そう言って2人は病室を後にした。静まり返る病室の中で先に口を開いたのは意外にも坂田だった。

「新八、神楽。いちごミルク買ってくんの忘れたから頼まァ」
「…ハイハイわかりましたよ。行こう神楽ちゃん」
「…わかったアル」

病室のドアが閉まり再び静けさが戻る。

「お前マジでなんなの?俺のことそんなに嫌い?」
「…別に」
「じゃあなんで素直に頼まねェんだよ。言やいいじゃねェかよ、『万事屋さん助けてぇー』ってよ」

小さなため息が隣から聞こえ、坂田が立ち上がると同時にパイプ椅子の軋み音が響いた。
手を取られて何かを握らされる。

「お前がどこでなんの仕事してようが構やしねェけどよ…、頼むから無茶だけはすんな。宇宙じゃあ助けらんねェけどよ、ここにゃ俺や神楽、新八もいる。あの2人だってあぁ見えて結構腕が立つんだわ。それだけは忘れんなよ名前」
「…坂田」
「んじゃな。ゆっくり休んどけ」

暖かくて大きい坂田の手が離れて、坂田は病室を出て行った。坂田、意外に優しいところあるじゃん。まさかこうもすんなり返してくれるなんて思わなかったな…、と思いながら手中にある念願のブツを確認する。

「ラムネ」

森永ラムネの文字に白目をむいた。



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