りゅうびを逆立てる
◼︎
町中で見かけたのは、綺麗に結い上げた髪に和装、年相応のシワを顔に刻んだ女性だった。坂田の家の1階のスナックを営んでる人でもある。
向こうも私の姿に気付いたのか、大人の女性のような笑みを浮かべた。
「おや、名前じゃないかい」
「お登勢さん」
「派手にやって病院送りになったって聞いたよ」
「あははー…流石に耳に届いてましたか…。でももうすっかりこの通り!お登勢さんは買い出しですか?こんなところで会うなんて珍しい」
「会議所さ。急に呼ばれてね」
「へぇ…会議所」
「あぁ。悪いね、待たせると煩い連中だから。あたしゃ行くよ」
「じゃ、またお店遊びに行きます」
遠退くお登勢さんの背に向かってヒラヒラと手を振る。頭の中では四天王の文字が浮かんだ、そういえばあの人はかぶき町の四天王の一人として名が挙がっている人物だったな。
連日の獄卒の話は恐らくもう間違いなく耳に届いているはず。そして会議所への収集…もしかして獄卒絡み…とか?
―――――尾けてみるか。
「えーそれではこれよりかっ、かぶき町町内会定例会議を始めたいと思います」
「「「ゴミは消えな」」」
天井裏から覗き見えた会議所内の風景を見てガックシと項垂れた。ホワイトボードに書かれていたのはクリーンアップ計画の文字。お登勢さんが呼ばれたのはなにやらかぶき町のゴミの分別の話らしい。
獄卒とか富嶽なんてまっっったく関係なかった!
「(でもたかだか町内会議でこんなに人が集まるかね?)」
下にいる三人の姿と、建物の外に居る気配が妙に気になった。まるで一触即発の状態で、正直ゴミの分別などほんわかほのぼの話とは思えない。
「(しかし…華佗、か)」
四天王は3人しか見えていないがその中の一人に華佗と呼ばれる人物が居座っていた。確か春雨の幹部でお金巻き上げて逃げたとか聞いてたんだけど、まさかこんな地球で縄張り争いをしてたとは…。
あり?もしかしてこれ第七師団にチクれば貸し借りできるんじゃ…?相手は春雨。貸し借り関係にしておいて損はない。うん、私賢い!
そうとなれば早速、
「…なるほど、三人仲良く手を組んで邪魔者の次郎長を消そうってかい」
「…!」
突然辺り一面の空気がガラリと一変。反射的に会議所の出入り口を見れば、お登勢さんと年のそう変わらない風貌の侍。
――この者、強い。
「…いや、三人じゃねェや…四人か」
「「「!!」」」
天井の隙間越しに次郎長、とやつと目があった。その瞬間には足元の天井の板は既に亀裂が入り、体は重力に従って落下した。上手く受け身をとって床に降り立つ。
「…おや、名前じゃないかい。誘った覚えはないけどね」
「えへへ…すいません。面白そうでつい…」
「全くアンタってやつは…」
「ま、嬢ちゃんが一人増えたところで何も変わりゃしねェよい。…んで、なんだって?三人組んで俺を消すってところまでだったか…」
ゆったりとした動作で次郎長もまた己のために置かれた座布団の上に腰を下ろした。私はヤツを警戒しつつもお登勢さんの斜め後ろに腰をかける。
「間違っても話し合いの場なんて設けちゃいけねェ。見な、てめーらのガン首揃って俺の獲物の射程範囲に入ってるぜ」
「!」
刹那、次郎長の背後に降り立つ影。しかしそれよりも彼の動きの方が早かった。忍びの腕が斬り落とされるのを皮切りに四天王それぞれの部下たちが飛び込んでくる。
これ、を待っていたのか。
「お登勢さん!」
「!」
お登勢さんを横抱きにし、その場を脱出を図ろうと出口に向かって走ると目の前に抑制の手が出された。
―――――
「…良かったんですか?お登勢さん」
会議所を2人で後にしながらその背に問いかけた。
――これより四天王配下、4つの勢力に属する者はかぶき町での私闘を一切禁ずる。これに反
した勢力は残る3つの勢力をもってして、一兵卒にいたるまで叩き潰す。
華佗のセリフが蘇る。かぶき町の均衡を守るためらしいが、どう見ても華佗のヤツが誰かを始末したいようにしか聞こえなかった。
「――大体、天人がかぶき町の四天王の一角を担ってるなんておかしな話じゃないですか」
「…名前、ちょっくら付き合ってもらえないか」
「!」
静かに微笑んだお登勢さんに、私はそれ以上何も言えなかった。
「ここは…」
お登勢さんの後をついて辿り着いたのは墓地だった。1つの墓地の前でお登勢さんの足が止まる。寺田家之墓。
「寺田辰五郎…あたしの旦那が眠っている墓さ」
「…旦那、さん…」
「なぁアンタ。見ておくれよ。大きくなっただろう?私の可愛い可愛い姪っ子さ」
「ー!?」
耳を疑った。今、この人はなんて、
PREV INDEX NEXT
top