なを汚す

◼︎


「2度目は助けねェからな」
「丸薬」
「捨てた」
「最低。下衆。鬼畜。人間失格。腐れクソ天パ」
「最後のいる?」

江戸に来た日に比べて随分人気が減ったかぶき町の町を歩く。坂田の背を追っているうちにスナックお登勢までたどり着いて、その暖簾をくぐる。
店内は少し荷物が運び出されていて、閑散としていた。

スナックフロアにある従業員専用のドアを開け、その向こうの生活感ある廊下を抜けて土間へ。靴を脱いで部屋を抜けると、仏壇のある部屋に辿り着いた。

坂田がその前に腰を下ろし、仏具の鈴を叩くと寂しげに音を奏でた。久しぶりに嗅ぐ線香の香り。

黙々と手を合わす坂田の背を、壁に背を預けながら見守った。不意に複数人の気配と匂いを感じてそっと目を閉ざす。

「どこに行くつもりですか。お登勢さんの旦那さんの形見なんてもって…」

新八の声が木霊した。

「名前」
「知らないよ」

さては私が子どもらを呼んだと思ったのだろう。こちらを見向きもせずに淡々と私の名前を呼んだ坂田の声色には少しだけ呆れたような、そんな感情が纏っていたのを感じた。

私が呼ぶわけないでしょバーカ、心の中でそう言ってその場を後にし、表へ出る。

季節は春直前とはいえ、夜の外は少し寒くて、息を静かに吐き出せば白い息が夜空に溶け込んだ。

私如きが万事屋にどうこうできる立場なわけがない。短い溜息と同時にお登勢さんの家から罵声と激しい物音が耳に聞こえた。物騒な音にふと笑いがこみ上げた。

あの3人は強い絆で結ばれていて、こうしてここへ集まった。…それだけの話だ。

『――名前様』
「!」

気配を感じなくて一瞬狼狽えたが、そこにいた緑色の髪の女性に短く溜息を吐いた。お登勢さんのところの…

『たま、と申します』
「たまさん。何か?」
『銀時様達のお傍におられないのですか?』
「大丈夫でしょ、あの3人は」
『……これをどうぞ』
「?」

目の前に差し出されたハンカチに首を傾げる。

『…一目会った時からずっと感じておりました。あなた様はいつも深く悲しんでおられると…。魂が泣いていらっしゃるように感じていました』
「…」
『名前様。あなたはきっとお一人でずっと闘って来たことと思います。ですが、この江戸に、かぶき町に来たからにはもうお一人ではないのですよ』
「…たまさん…あなたって不思議なカラク…いや、不思議な人だね」
『よく言われます』

思わず笑ってそう答えると、目の前のたまさんもフワリと笑った。

「私は大丈夫だよ」
『ですが…』

たまさんがチラリと私の後方を一瞬見たのを見逃さず、振り返ろうとすれば後ろから両手が伸びてきた。

「んぐっ」
「ほら、オメーの分」

片手は顎、片手には白い何かを持っていてあっという間にそれは私の口の中に放り込まれた。柔らかい感触と嗅ぎ慣れた匂いに、それはすぐに食べ物であるのが分かった。

吐かせまいと口元を覆う掌をそのままに咀嚼して飲み込んだ。お団子だった。

「……、仲直りした?ロリショタコン社長」
「だーれーが!!ロリショタコン社長だって!?あぁん!?」
『…仲がよろしいのですね、名前様と銀時様は』
「たまさん、頭大丈夫?これが仲良さそうに見えるの?」
『私は至って正常です。毎晩データはリセットボタンを押して寝ております』
「いや、何情報それ」

たまさんの謎のボケに思わず坂田と笑った。


「…さて、悪ィけど頼まれてくれる?」


わしっと撫でられた頭の感触に、これから皆で「反撃するつもりだ」とすぐにわかった。


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