空き腹にまずいものはなし

◼︎


「お前さー、また何しにここに来たわけ?」
「え?仕事だよ仕事」
「仕事だぁ?屯所にか?」
「そ。私の腕っ節の強さ見込まれたのかなー?ひと狩りしよーぜって依頼来たのよ」
「なんだよその旅人っぽいナリでモンハンやりに屯所行くのかよ。紛らわしーなオイ」
「今時女の子のハンター珍しいじゃん?だからかなーって」
「…大丈夫かお前…女の子って歳か?」
「ねぇ坂田、ヘルメットと頭蓋骨ってどっちが硬いと思う?」
「すいませんでした」

何年ぶりかに生死もわからずじまいだった旧友と再会。屯所に行きてェなんざほざくからさっさとヘルメットを被せて原付に乗せ、くだらねェ雑談を繰り広げていると真横に一台の車がついた。車の柄を一目見たらそいつがどこのモンかすぐにわかった。
助手席から窓が開き、ドSで有名なクソガキがメガホンを取り出した。

「おーい万事屋の旦那ァ。デート中にすいやせんねぇ」
「総一郎くんじゃねーの」
「旦那、総悟でさァ。んで、ノーヘル。道路交通法違反ですぜィ」
「あー大丈夫大丈夫俺頭かてェし。つーかそろそろこのやり取り面倒くせェからよ、お宅ん所にメモなりなんなりしといてくんない?坂田銀時ノーヘル可って」
「すいやせんね、ウチも仕事なんでねィ」
「あ、そうだ。ちょうどよかった、名前お前コイツに乗っけてってもらえよ」
「名前…?」
「え?この子誰?」
「真選組よ真選組」

「まじか!ラッキー!乗せてってもらおう!」なんて後ろではしゃぐノーテンキな女に無性に腹が立ったから、どのタイミングで振り落としてやろうと思い込んでいるとパトカー内から無線機の声がこっちまで聞こえてきた。

『あーあー全隊に告ぐ!かぶき町内にて例の天人が現れた!全隊直ちに応戦せよ!繰り返す!かぶき町内にて例の天人が現れた!全隊直ちに応戦せよ!』
「…あらーなんか呼んでるよ沖田くーん」
「ラッキーでしたねィ旦那…うおっ!?」
「わっ!」
「おおおおおおお!?」

突然走行前方に何かが降ってきて、慌ててハンドルを切ってそれを避け、少し進んだ先で原チャを止めた。

「あっぶねーなオイ!なんだよアレ!降ってきた…!?」

振り返った途端に目の前を風が切り、直後には爆音。

後ろに座っていた筈のアイツの姿が見えなくて、爆音の先を見やれば建物から土煙が立ち込めていた。瞬時に読み取る状況だと、アイツはこの目の前の人狼のようなナリの天人に吹っ飛ばされたらしい。
流石に吹っ飛ばされたくらいで死ぬようなタマじゃねェ筈だが、

「旦那ァ!気をつけろィ!そいつ今巷で噂のーー」
「がっ!?」

俺が身構えるよりもヤツの方が数秒動きが早かった。脇腹の重い衝撃に思わず跪く。そんな俺に御構いなしに容赦無く次から襲いかかる打撃攻撃を辛うじて受け流すも脇腹の激痛で反撃できねェ。

これ肋骨イったか?


「――アンタの相手は私だよ」


アイツの声が木霊した。

直後に視界に姿を現したアイツは、目の前のバケモノの顔面に蹴りを食らわせた。その衝撃は凄まじく、何百キロもありそうな巨体がいとも簡単に吹っ飛びやがった。その後、何事もなかったかのように俺の目の前に降り立つ。

「大丈夫?坂田」
「お…おぉ…」

そこで俺は何年振りかにコイツの顔をしっかり見た気がした。透き通るような白い肌に黒橡色の髪。そして何より一度見たら忘れられない青碧の瞳の持ち主、それが苗字名前。かつて攘夷戦争で一時期共に戦った女。先程はバケモノに吹っ飛ばされたってェのに傷1つ見当たらねェくらいピンピンしてやがる。

「巻き込んで悪かったね」
「…!」

名前は手に持っていた袋を剥ぎ取ると、中から傘を取り出した。そいつは日頃見覚えのある形をした紺青色の傘。アイツは傘を構えると地面を蹴った。いやいやいやいや、そんなまさか。

「ホント、ラッキーでしたねィ旦那」
「あ…?…いっ、てー…」

ゆっくり立ち上がってみりゃ脇腹はいてェが幸い骨まではイってなさそうだ。隣にやってきた沖田くんのセリフに悪態をつきたくなる。どの辺がラッキーだよあんちくしょう。強いて言うならノーヘルで道路交通法違反切られなかったことくれェだろ。

「アンタ、どんだけ顔が広いんですかィ?まさか夜兎女と知り合いだっただなんて」
「やと、おんな?神楽のことか?」
「アレですよ、アレ」

アレ、と指差す先には傘をぶん回す名前の姿。
いやいやいやいやいや、そんなまさか。

爆音が響いた。


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