とどのつまり
◼︎
「いやはや、参ったな」
走っていた足が止まった。真後ろから聞こえ声と感じた匂いに、すぐに"アイツ"だというのはわかった。
キャサリンのことが気がかりだが、アイツがここにいれば心配ないかもしれない。
「何度潰しても立ち上がってくるとは。そろそろ私の手で片づけなければならないってことか」
「…そうしてくれる?そろそろ獄卒倒しも飽きてきた頃なんだよね」
「すまんね。なんもひねりのない連中で」
鞘から刀を抜く音が聞こえて反射的に振り返る。
刀の切っ先が眼前に迫っていてそれをかわす。反撃と言わんばかりに傘を突きつけると、手のひらで叩き下ろされた。地面に突き刺さる傘を軸にして軽く飛び、富嶽に回し蹴りをお見舞いするも、鞘で受け止められる。
そこで一旦身を引いて間合いを取ろうとした。
「――あの大戦士の一人娘がこんな出来損ないだなんて…全く、なんて反吐の出る話だ」
「…!」
目の前に追いついた富嶽に驚くが、冷静沈着そうなヤツの眼差しが一瞬だけ感情的に揺れたことにも驚いた。振り落とされる刀を傘で受け止める。
…今、なんて言った?
「大人しく斬られるつもりはないか、」
「それこっちのセリフ」
「…」
「!」
富嶽の片手が持ち上がったのを見逃さなかった。印を結べば獄卒が呼び出される。
次郎長は獄卒には2種類いると言っていた。面倒なことを起こされればそれでこそまた富嶽が遠のくので、銃を放ち、富嶽に印を結ばせる時間を作らせずに猛攻することに専念。
――対処法は、なぜか知っている。
「その手の印を使った術…それを使う一族がいることを知ってる…」
「…!」
「その"弱点"も」
「…ふっ…弱点を知ったところで手が出せないと意味があるまい」
「…結ばせるか…!!」
弱点が分かっていてもヤツに獄卒を出されたらそれだけ弱点から遠のく。なんとか片手だけでも叩き壊せれば…!
「グル…!」
「!」
背後に感じた気配に傘をすぐに背後に向けて何発か放つ。肉体強化型だったようで先に目を打って正解だった。
「また保険かけたね」
「…その戦いの勘の良さは父親譲りそうだな」
「…やっぱりアンタ、父を知ってるんだ」
「夜兎族間では有名だったろう。夜王鳳仙、星海坊主、そして臨海。知らぬ者はいまい」
「けど、アンタはやけに父のことをよく知っているかのように物を語るね」
「…」
ヤツの手が一瞬だけピクリと動いたのを見逃さない。すぐさま傘先を向ける。
「図星?…ま、なんでもいいけど、喋ってる最中に印を結ぼうとしてもダメだからね。その手撃ち抜く」
「…夜兎と地球人の雑種でありながらよく吠える小娘だこと」
富嶽のセリフにゾワリと鳥肌がたった。イマイチが感情が読めないかと思ったが、今初めてここで敵対心、殺気をむき出しにされた気がした。
「…印ごときで倒せるような女ではない事はわかった。雑種でも仮にもあのお方の娘…手加減はご法度と見る」
「(あのお方…?)」
富嶽の両手がしっかりと刀の柄を握った。先の言葉はどうやら信じても良さそうだ。
だか所々ヤツのセリフが妙に引っかかる。
「死ね」
「!」
富嶽の目が黒から金色へと変わり、その瞳と目があった瞬間、子どもの頃の記憶が蘇った。
「――臨海さん」
「…あぁ、今行く。…じゃぁ、名前。父さんが帰ってくるまで元気でな」
父の背を見るのが最後となったあの日。一度家に帰ってきてくれた父と、もう1人いた人物。あの者も同じ眼をしていた。
「――お前は、」
言葉を遮るかのように眼前に迫る富嶽の猛攻をいなす。先程とは打って変わって別人のような動き…。スピードが桁違いで、一瞬でも気を抜いたら間違いなく終わる。
「っ、く!」
「…別に思い出さなくても良いものでも思い出したか」
「…っ、お前は父の弟子の……っ!ロクガク!!」
「臨海さんは本当に素晴らしい戦士だった。あの軟弱な…地球人なんぞと恋に落ちる前まではな」
「…お前…っ!!」
「だから、―――私が殺してやった」
「、は」
一瞬だけ時が止まったかのような錯覚を起こした。迫り来る刀の切っ先を、傘を開いて防ごうとすれば、貫通して腹に刺さってしまった。
星座占い…モロハズレじゃん…。
「苗字名前…お前はどちらにもなれない出来損ないだ。せめてもの、私の手で無に帰してやろう」
直後には富嶽の、いや本当の名は六嶽の回し蹴りを食らい、壁に突っ込んだ。瓦礫が転がる音と傘が遠くで転がる音が耳に残る。存外頭を強く打ったらしく霞む視界の中で腹を押さえつけ、頭は冷静に先程の言葉を繰り返していた。
「星海坊主、鳳仙にも劣らぬ猛者であったのにも関わらず…地球人と恋だの愛だのくだらん茶番劇の果てに雑種のガキ…。あのお方ほどの方なら純粋な夜兎娘との間に子を作ればよかったものの…。お前の母親はとんだ欠品モン産み落としてくれたものだな」
「ぐがっ…はっ…!!」
頭を踏みこまれて壁に押さえつけられ、激痛が走る。
「情に揺さぶられる臨海さんを見ているのが耐えられずにな、私が殺してやった」
ぶちん、と何かが弾けた。
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