笑って損した者なし

◼︎


「フーン、で、そのチンチンピラ子?とあのガングロ親父の親子は仲直りして贖罪の旅に出たわけだ。…可愛いか弱い女の子2人も叩っ斬るあの野郎の子の顔が見たいわー」
「可愛いか弱い女の子2人ってただのババア2人の間違いだろテメー」
「お前のタン、今ここで焼いてやろうか」
「違うよ名前!!万万万万ピラ子だヨ名前」
「神楽ちゃんもうさすがにまずいよ」
「ま、もうなんでもいいわこの際」

バクバクと片っ端から焼き上がった肉を食っていく万事屋三人衆を目の前に、トング片手にカチカチ鳴らしながら見守る。あ、カルビそろそろ焼きあがりそう、と思ったら神楽に取られた。

いつだか坂田に「報酬出たら焼肉奢る」と言ったセリフを有言実行すべく今に至っている。

この調子だと一体報酬のいくら減るんだか…なんてちょっと凹みそうになったが、まぁ美味しそうに食べる彼らを見ていたら「ま、いっか」なんて思った。

「名前さんは…もう体の方は大丈夫なんのですか?」
「え?うん、もちろん。……ほら、半分夜兎だし」
「…地球人らしいところも夜兎らしいところもあって僕、ちょっとだけ名前さんが羨ましいです」
「!…そんなことないよ」
「私もそう思うアル!名前は私たちと銀ちゃん達のどちらの立場にもなれて、"いいとこ取り"ってヤツアルな」
「っとにそーだよ神楽ァ。テメーは"肉のいいとこ"持ってきすぎだぞコノヤロー」
「トロトロ食ってる銀ちゃんが悪いヨー。食卓は戦場ネ」
「「……うぉぉおお!!!」」
「お願いだから静かに食べて」

神楽の発言を皮切りに焼肉争奪戦が瞬く間に激化した。


―――――


「ふぅー、美味かったアルー」
「あの店もう絶対出禁だよね。見た?店長の顔」
「神楽ちゃんの胃袋はブラックホールですからね…。本当にごちそうさまでした名前さん」
「ありがとうヨー」
「じゃ、私こっちだから」
「また万事屋に遊びに来るとヨロシ」
「今度は僕らがご馳走しますね」

文字通り腹をパンパンに膨らませた神楽達に手を軽く振って踵を返す。

…さて。

「なんか用?」
「吉原か」
「…」
「付き合う」

後ろから白い影が抜けて私の前を歩き始めた。頬を軽くポリポリ掻いてその背を見つめる。

「ま、いっか」

短いため息を吐いてその背の後を追った。もうきっと吉原にはどこにも獄卒もいないだろう。根源は経ったのだから。

「お前、それどうすんの?」
「どれ?」
「腰の得物」
「あぁ…これね…」

腰にぶら下がっているものを見下ろした。

いつもの傘ケースに入っているのは、先日の戦いですっかりボロボロになってしまった傘の生地部分とシャフト部から取り出した日本刀。これ、厄介なことに一度取り出すと、格納はできても固定ができないのである。

つまりこのままでは傘として使えないわけだ。
とりあえず今は、ガッチャガッチャうるさいので応急処置としてまとめて包帯でぐるぐる巻きにしてケースに入っている。日中の日除けはコートで凌げているから問題はない。

「宇宙に行けば直してくれる人いるんだけどねー」
「江戸にもそこそこ腕の立つカラクリ技師がいんだわ。今度そこ連れてってやんよ」
「へー、そうなの。ありがと」
「銃口から醤油出るかもしんねーけど」
「なにそれどういうこと」
「それから、ホレ」
「お」
「返すわ」

目の前に放り投げられたブツを反射的に受け取った。

「ラムネじゃないよね?」
「あたりめーだろ」
「あらほんとだ」
「テメー適量摂取心掛けろよ。あんまっし使いすぎるとヤク中毒になるぞ」
「…ハイハイ」

手中にあったのは、ずっとずっと欲しかった丸薬。しばらくはお世話になる機会はなさそうだけど。


―――――


「…お前、この後はどうすんだ」
「…どうするって言ったって…他の仕事やるだけだよ。何せ売れっ子えいりあんばすたー様だからね」
「ふーん」
「自分から聞いといてそのリアクションなんなの。一瞬イラってするからやめてくれる?」

吉原へ降りる階段を下っていく。

「あらぁ、吉原の英雄様でありんすなぁ!」
「どうぞわっちらのお店に来なんし」
「いやねぇ、前にあちきの店に、と約束してくれたでござんす」
「だぁーかぁーらぁー!しつけーっての!ほっといてくれる!?」
「…英雄様のおなーりー」
「うるせェエエエ助けろ名前!」

坂田に群がる花魁をなんとか撒いて、ある建物の前にたどり着く。

「富嶽が出入りしてたっつーところか」
「そう。前に来たとき見張りがいたでしょ?だから気になって」

古びた建物を前に坂田とそんな話をしながら開きにくい戸を開いた。中は思ったよりも広いが壁面には本棚、足元には本が平積み状態だった。試しに一冊手に取ってみる。

「資料ばっか…。それも気功関係の…」
「富嶽はこれを守りたかった…ってーのか?なんつーか拍子抜けだなオイ」
「どうなんだろう…獄卒を付けてまで守ろうとするかな…」
「…しかし埃くせェところだな…。本拠地にしてはあんまり出入りはしてなさ、うぉあ!?」

室内をうろついていた坂田が盛大にずっこけたせいで辺りに埃が舞い上がった。2人してむせ返りながら窓を探して思いっきり開け放つ。

「げっほ…!何してんのアンタ…!」
「や、なんか足に突っかかっちまって……ん?……オイ名前…」
「…なに?」

自分がつっかえた所を振り返った坂田が固まった。それにつられて私も後ろを振り返った。

「――え?」


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