にても焼いても食えない

◼︎


「…お前なに…夜兎だったの?」

坂田に屯所まで案内してもらっていた最中に突然襲いかかってきた天人を倒した後、真選組の一番隊隊長、沖田総悟とかいう人の案内で怪我を負った坂田を連れて屯所へやってきた。
充てがわれた部屋で黙々と坂田の体にガーゼを貼っていたら、昔も傷だらけだったなぁなんてぼんやり考えていたら先ほどの言葉をかけられた。

「…何も別に珍しくもないでしょ。アンタのとこの従業員にもいるんだか…あだァ!?」

人が親切に手当てしてやっているっていうのに、何故か不意打ちで頭を叩かれた。クソ、消毒液ぶっかけてやろうかコイツ。

「お前さぁ、もうちょっとちゃんと話してくんね?なんかいろいろすっ飛ばし過ぎだろ」
「んなこと言われても…。それ以上何説明したら言いわけ?」
「お前あん時ひとっことも…!」
「……いつの話?」
「…あー…なんでもねェ」

妙に歯切れの悪いセリフを言ったかと思えば今度は押し黙った。昔からよく分からないヤツだったけど、やっぱり今でもよく分からない。
「これで終わり」と最後は頬に絆創膏を貼ってやれば、背後で襖の向こうに気配を感じた。間も無く開かれると2人の黒い隊服姿の男が姿を現した。

「おぉ、これは苗字さん。遠い星からご足労頂きありがとうございます。局長の近藤です」
「…副長の土方だ」
「どうも、苗字名前です」
「あーだからンなとこ来たかァなかったんだよ俺ァ」
「なんで?」

ここのトップらしいゴリ…いや、近藤さんは襖の前に腰を下ろした。隣にはもんのっすごく瞳孔をかっ開かせた黒髪の男、土方さん、と言ったか。なにやら坂田は真選組の人たちと知り合いらしい。誰と会っても顔見知りみたいな態度を取ってるし、コイツ本当になんなの?

「万事屋、巻き込んですまなかったな」
「生憎こちとら巻き込まれごとにゃ慣れてらァ」
「フン、情けねェことこの上ねェな万事屋」
「あん?善良な市民を巻き込んでおいてそんなセリフしか出てこれねェの?多串君」
「土方だコノヤロー!!トドメ刺すぞテメー!!」
「マヨにゅるにゅる出してるように謝罪の1つや2つくらいにゅるにゅる出しやがれ」
「そんでついでに死ねー土方ー」
「あぁん!?誰だ死ね言ったのは!てめェか万事屋ァ!!」
「どう聞いても俺じゃねェだろ!俺に突っかかんなよ!」

なんだなんだ。突然メンチ切りはじめた2人だけど、近藤さんはどうやらもう慣れているらしく、2人を差し置いてこちらに話しかけてきた。

「総悟から聞いたが…お2人さん知り合いだったとな」
「あぁ、まぁ、旧友みたいなものです」
「この広い宇宙で再び会えるとは、何か縁みたいなものを感じますなぁ」
「あなたも何かゴリラ的な縁を感じさせてくれるお顔されてますねぇ」
「ゴリラ的な縁って何!?」

近藤さんと適当な雑談を繰り広げていたら隣で煩かった坂田に耳打ちされた。

「お前マジで今なんの仕事してんの」
「掃除屋だよ掃除屋。なんて言うの?えいりあんばすたー?みたいなヤツ。神楽ちゃんとパパと同業種よ」
「は!?おま!?マジか!あのハゲと知り合いなのかよ」
「何?アンタ、あのハゲと知り合いなの?ほんっと顔広いね」

流石に驚いた。宇宙を股にかけてる星海坊主ど知り合いだなんて。…でも前に会った時、娘に会ったとかなんか言ってたな…その時にはもう坂田のところにいたのかな?
あのハゲも良く可愛い愛娘にどこの馬の骨かも分からないような男と一緒に住む事を許可したもんだ。まぁ、その話は置いとこう。逸れた。

「マジか。マジなひと狩りしに来たのかよ」
「言ったじゃん。私言ったじゃん。ちゃんとひと狩りしに来たって」
「あのノリだとマジ感ねーよ」
「報酬めっちゃ弾むって聞いたからさー、居ても立っても居られなくって」

「報酬貰えたら焼肉奢ってあげるね」なんて隣の坂田に向かってケラケラ笑いかけてやった。心なしかむすっとしてるのは多分気のせい。私はもう一度近藤さんと向き合う。

「それで?依頼内容は大体察してますけど、一応聞きます」
「ヤツらが…このかぶき町でかなり出現する様になりまして。我ら真選組でもなかなか一筋縄ではいかないような連中が彷徨いていて、流石に我々だけだと厳しくてですね」

ヤツら、とは間違いなくさっきの天人達のことを言ってるんだろう。真選組も侍とは言え生身の人間だし、アレに立ち向かうのは相当な気力と根性がいるに違いない。

そして妙な事が1つ。

「…正直なところアレがこの星に居るのは気になります」

ヤツらはこんなのんびりとした地球…、特にこんな町中を好むはずがない。

「引き受けますよ、この仕事」
「本当ですか!ありがとうございます!いやァーなんとお心強い!」
「アンタの滞在期間中の宿はこちらで手配させてもらう」

地球に滞在期間中の住まいは真選組で手配してもらえることになって、契約内容から依頼内容までざっと確認してから坂田と一緒に屯所を後にした。

「アレって何?」
「出た出た、アンタは別に知らなくってもいいの。可愛い子どものためにも変に巻き込むわけにはいかないし」
「だからな、」

腕に掛けていたマントを羽織る。まーた坂田の首突っ込み体質がここでまた出てきた。そういうところは昔と変わってないのかもしれない。

「お前さっきの俺のセリフ聞いてた?巻き込まれごとにゃ慣れてるっつったろ」
「じゃあ、アンタは自分の仕事に専念しなさい」
「なんだよ可愛くねーなオイ」
「そっちもカッコよく引き下がってくれないかな。あーあ、さっきの真選組の副長さん?超イケメンだったなー」
「あ?多串くんのことか?あんなニコチンマヨ野郎やめとけやめとけ」
「えー」

かっこいいと思うんだけどなぁ。副長さんにもらった鍵を指でくるくる回して遊ぶ。回した反動で上に向かって手を離し、降りてきたそれをキャッチする。

「じゃ、私こっちだから。また会ったら飲みにでも行こ」
「お前の奢りでな」
「女にたかるな馬鹿。じゃあ」
「おー」

坂田と別れた私は歩く足を早めて路地裏に入った。地面を蹴って屋根に乗り上がり、ある方向に向かって駆け出す。

「ビンゴ…」
「グォオオオオ!!」

坂田といた時に感じ取った匂いを辿ってみたらこれだ。眼下にいる狼男の様な獣の、宇宙では獄卒と呼ばれている天人を見下ろす。ある星のある一部の地域にしか存在しないはずの天人がなんでこんなところにいるのか疑問だけど、被害が出る前に先に片付けるとしますか。

私は再び傘に手をかけた。



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