太鼓も撥も当たりよう

◼︎


「…何してんのお前…」
「あ、坂田」

夕飯がてら軽くお酒も飲みたくなって、適当な居酒屋に入って、美味しいご飯とお酒を嗜んでいた時のことだった。
真横から掛かった声に顔を上げれば、江戸に来て何度か見る天パの男。隣にはグラサンをかけたおっさん。

「え?なに?銀さん知り合い?」
「何って、ご覧の通りご飯食べてるけど。目見えてない?」
「…そうか、お前も神楽と同じクチか」

1人で占領しているテーブルの上に積まれた空の食器を見て何故か坂田が頭を抱えた。これがなんだって言うんだ。

「え?なになに?銀さんこんな別嬪さんと知り合いなの?」
「あら、じゃぁそこのグラサン良かったらココどうぞ。奢ります」
「マジか!!」
「じゃあ、俺も…ぶべら!!」

さりげなく席に着こうとする坂田に向かってメニュー表を叩きつける。おいコラなにしれっと同席しようとしてんだ。

「お前には選択肢をくれてやる。自腹で同じテーブルで食べるか、自腹でカウンター席で食べるか」
「自腹って言う選択肢回避できねぇの?」




「へー!名前ちゃんっつーのか!銀さんも隅に置けねェな!」
「やだ長谷川さんたら。日本酒頼みますよ」
「馬鹿言え。グラサン叩き割るぞコノヤロー」
「お前が今食ってる焼き鳥の串ど突いて喉の通気性良くしてやろうか」
「すいませんでした」
「おおお…あの銀さんが丸こまれてる…」
「おやっさーん!大吟醸一本ちょーだい!」

おやっさんに貰った大吟醸を徳利に移してもらって、長谷川さんと仕方ないけどもついでに坂田のお猪口に注いでやった。

「で?名前ちゃんはなんの仕事を?」
「掃除屋ですよー。宇宙の害虫生物を駆除してますう」
「マジか。こんな可愛い顔して?こんな可愛い子なら召されたって文句言えねーよ」
「お、じゃぁ一発ヤってみます?」
「ヤるって…殺るって方だよね?一発って一発っきりじゃん死ぬじゃん普通に。お願いだから焼き鳥の串持つのやめよう名前ちゃん」

バレたか。

私は串を空ビンの中に入れ、自分のお猪口に注ごうと徳利に手を伸ばしたら、それはもう坂田の手に。こちらに傾けてくるので、私は自分のお猪口を差し出した。

「――じゃあ江戸には掃除の仕事で来てて、ほんで偶然旧友の銀さんと会ったと。良いねぇなんか運命的なの感じるよねぇそういうの。オジサンもね、いるんだよ一応そういう運命の人」
「ダンボールと野良犬とか言うのナシですよ」
「違ェよ!俺一応既婚者だから!こう見えて妻帯者だからァ!!」
「ホームレスなのにですか?やー、宇宙って広いですね!私もどこかにいるかな運命の人!」
「なんでホームレス感バレてる!?」
「こいつ昔っから嗅覚だけは犬並みだぞ」
「長谷川さんは2日くらいお風呂に入ってない臭いと草臥れたダンボールの臭いと野良犬の臭いとほんのり公園の新緑、フレッシュグリーンの匂いですね」
「めっちゃ具体的!!!しかも最後のなんか柔軟剤!?貶されてんのかもうよくわかんねェ!」

坂田の知り合いの長谷川さんは見た目の厳つさとは裏腹に意外にも々 ノリが良く、思った以上に会話のテンポもお酒のテンポも盛り上がったあとのこと。

「「オボロロロロロロッ」」
「もー2人ともいい歳して飲みすぎでしょーが」
「お、お前が飲ませて…うえっぷ」
「名前ちゃんザルだったんだ…うっぷ」

顔色悪くしたマダオ2人と店を出たところ、路地裏に駆け込んで口から絶賛大洪水中の情けない背中を見た。

「さて、2軒目行きましょーかね!坂田ん家の下スナックだったよね?行こうか!」
「鬼か!!うぶっ!」

坂田…さっきの私の奢りだったの忘れるなよ。


『いらっしゃいませ』
「いらっしゃ…あ?」

万事屋銀ちゃんの看板の下。スナックお登勢の扉を開くと、なかなかお年のいったレディと若い女の従業員2人がこちらを見た。

ふーん、ここが、ね。

「3人なんですけど良いですか?」
「あぁ、見た通り空いてるよ。その肩の2人はそこのソファーに転がしときな」
「わー重かったーオススメの焼酎ロックで」
「おやいける口かい。任せな」

両肩に担いだ男2人をその辺のソファーに適当に転がす。その反動さえも響いたのか、真っ青になった2人に可愛い方の女の子がすかさずバケツを差し出した。慣れてるな彼女。ちょっとオイルの臭いがするけど。

「はいよ」
「いただきまーす」
「良い飲みっぷりじゃないの。…アンタここらでは初めて見る顔だね。アイツらの知り合いかい?」
「あー、あの白髪頭の旧友です。なんかお世話になってるそうで」
「そうかい。アイツにはほとほと手を焼いててね…友ならアンタからも一言言ってやってくれ。家賃滞納ばっかよ」
「ははっ、そんなに?」

カウンター席でグラスを傾けてお酒を嗜むのが久しぶりなのか、それともこの目の前のお登勢というママのクチが上手いのかどちらか分からないが、ずいぶん話は盛り上がった。ママの分にも酒を注いでやる。

「旧友ってことはなんだい、アンタも攘夷志士の端くれってモンかい」
「…いや、そんな大層なモンじゃないですよ私は」
「悪かったね、聞くのは野暮だったかい」
「フフ、今は宇宙で掃除屋やってる苗字名前って言います」
「あたしゃァ皆んなからはお登勢なんて呼ばれてるモンさ」
「お登勢さん、ね。カンパーイ」

カチン、とグラスが鳴った。



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