日本人でも読み仮名が分からない事がある
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「神様の神に、楽しいって書いて、神楽って読むアル」
「先生。’かみ’の‘み’の読み方はどこ行ったんですか?’らく’の’く’もどっか行っちゃってますよ…?」
「私も難しいことは分からないけどきっとアレヨ。散歩の途中でうんこもよおしてトイレに行ったらケツからうんこじゃなくて代わりにそいつら出てっちゃったネ。水に流されてそのまま帰ってこれなくなって神楽になったアル」
「なるほど。‘み’と‘く’はトイレに流された、と…」
「あぁ!ファースト!またそれフニャ文字で書いてるアル!」
「あ」
「ハイ、罰としてこの傘かっこよく仕上げるヨロシ」
つらつらとメモ書きをしていたノートが、最初こそは日本語だったのに途中から英文になってしまった。神楽さんがどこからか取り出してきたボロボロの傘を持ってきたので、それをいつもの感じでささっと錬成。「うおぉぉおおお!!」と歓声を上げた神楽さんを微笑ましく見つめた。何度目かの錬成だけど、相変わらず嬉しいリアクションをしてくれてもっと何か錬成してあげたい気持ちになるなぁ。
不意にローテーブルに置いてあるノートの近くに湯呑みが置かれ、顔を見上げると苦笑いする新八さんの姿がそこにあった。
「何度見てもすごいですね…ファーストさんのその術…」
「ありがとうございます。勉強すれば皆できるようになりますよ」
「前にざっくり教わりましたけど…ちんぷんかんぷんでしたよ…」
「ファースト傘かっこいいアル!ありがとうヨー!!」
「どういたしまして、です」
日本語を教えてほしいと坂田さんに依頼をしてから数日。
バイクは宣言通りほぼ新品同様に返却し、日本語を教えてもらいに万事屋へ通うようになってからは今日で2回目だ。
新八さんと神楽さんには錬金術を教えておいても差し支えはなさそうだった(むしろ仕事ちょっともらえたら嬉しいと思った)ので、先日お披露目をさせていただいた。
特に神楽さんには錬金術が相当気に入った様で、会うたびに何かしら錬成して欲しいと頼まれてしまって最初は勉強がなかなか進まなかった。
そんな状況の中、坂田さんが私がたまに勉強ノートに英文字で書いてしまうクセを見抜いていたこともあってか、その罰として神楽さんが希望するものを錬成する、という風に折り合いがついて勉強会が進んでいる。
坂田さんの機転の良さにはなかなかのものだった。
そんな坂田さんはご自身のデスクスペースにいて、机に足を乗せながらいつもの愛読書の週刊誌を片手に。新八さんが神楽さんの分のお茶を置くと、坂田さんの近くにも持っていった。
「…銀さん。アレ先生絶対間違ってますよね。神楽ちゃん天人ですよ。文字そんな書けないはずなのになんで先生役やらせてるんですか」
「しゃーねーだろ。アイツなんかすげー張り切ってんだもん。何日も前から友達の名前教えてあげるんだヨって夜な夜な一生懸命漢字覚えてたからよ、なんかもうそれはさ、なんつーか俺ら大人が温かい目で見てやらないと、なっ?ていうか温かい目ってどうすりゃ良い?」
「それただの白目です。…だったらせめて違う先生やらせてくださいよ。かぶき町の生き方とかルールとか」
「あれかぶき町の女王名乗ってんだけど」
「…そうですね、やめたほうが賢明ですね」
坂田さんと新八さんがそんな会話を繰り広げているとは露知らず。私は引き続きローテーブルの上でノートにペンを走らせていた。
「よし、これはなんて読むアルか分かるか?」
「えっと、妙。志村妙さんの名前ですね」
「正解!じゃあこれは?」
「銀時。これは坂田さんの名前ですね」
「ぶっぶー!違うヨ!こうやって書いて腐れ天パって読むアル」
「えっ、うそ…!」
驚いて慌てて手元のノートを見下ろしたら、スパンといい音が響いた。視線を上げると、神楽さんの後ろにはスリッパを持った坂田さんの姿。それから神楽さんの顔を片手で掴むと、「むぎゅ」と悲鳴が出た。
「なにテメーは余計なこと吹き込んでんだオイ」
「ファーストにルビの読み方を教えてるアル。必ずしもこれが銀時って読める訳じゃないことを教えないと後々この町で生きていくの大変なことになるヨ」
「銀時イコール腐れ天パって読めねェことでかぶき町で生きにくくなるなんざあるわけねーだろバカかお前は。とうとう脳みそまで酢昆布詰まっちまったか。どけ、選手交代だ」
「いだァ!?」
ビシッと神楽さんの額をデコピンした坂田さん。「目が…目がァアア!!」と泣き叫ぶ神楽さんを他所にテーブルの向かいにどっかり座ると、紙に文字を書き始めた。
あれ、その文字さっき見たな。
「これ読める?」
「えっと、神楽、ですね。先程教わりました」
「オイオイまた間違えてんじゃんお前。こう書いてな、ゲロインって読むんだ。神でゲロ
、楽でインだぐげふっ」
「何を余計なこと教え込んでるネ。ふざけんじゃねーぞコルァ。神楽って書いて美少女って読むアル。銀ちゃんこそルビの読み方なってないヨ!」
「神楽ちゃん、それ自分の名前じゃなくなってるけどいいの」
「結局どの読み方が正解なの…」困惑していた私の心中を察してくれた新八さんがそっとノートに神楽の文字の上に、‘かぐら’と平仮名で書いてくれた。常識人万歳。
坂田さんと神楽さんがルビがどうこうで言い争ってるから、その間に教えてもらった人名の漢字を読み返して復習していると、万事屋の家の中にインターホンの音が響いた。玄関に向かう新八さんの背中を見て、もしかしたらお客様かもしれないと思ってノートを片付け始める。
「わ、姉上!」と新八さんの驚いた声が聞こえた気がした。姉上ってことは……、答えが出るより先に居間に姿を現したのは新八さんの姉で、妙さんだった。
「お邪魔します、銀さん」
「おー」
「アネゴォ!」
「あらあら神楽ちゃんお久しぶりね」
「急にどうしたアルか?」
「ファーストさんにご用があって」
「あ…私、ですか?」
話を聞けば、どうやら妙さんは今日私が万事屋で勉強することを新八さんから聞いていたとか。
「ファーストさんに日本の文化を知ってもらおうと思って、コレを持ってきたんです」
「……これは…一体…?」
2つある風呂敷のうち、1つを広げると中から出てきたのは重箱。蓋を開けると、中には何かの燃えカスのような黒い物体がただならぬオーラを放っていた。
「たまご焼きです。シンプルで美味しいんですよ。よかったらぜひ」
「……たまご焼き…ですか」
私が知ってるたまごは加熱すると黄身は黄色く、白身は白くなるはず…。加熱後のたまごの面影が見られないからなにか調味料でも加えたのだろうか。そう思うくらいドス黒いたまご焼きとやらを、妙さんはどこからか取り出した取り皿によそって差し出してきた。
「さ、遠慮ならさず」
「…は、ハイ…」
ニコニコしながらこちらを見ている妙さんから、なぜかものすごいプレッシャーを感じ、意を決してソレを箸でつまむが、口に入れるかものすごく悩む。自分の中の生存本能が警笛を鳴らしているからだ。
「あー!そうだった!ファーストお前確かたまごアレルギーだったよな!?じゃぁ、これ食ったらマズイな!うん!悪いなお妙!ファーストのヤツたまごアレルギーだったの忘れてた!!」
箸を持つ左手を大きい手が覆った。ちょっと視線を上げると冷や汗を流す坂田さん。「だよなっ!!」と後押しするような声をかけられて、「あ…ハイ」とつい言ってしまった。隣では「すみません姉上!伝えていなくて…!」と新八さん。
え?なに?どういうこと?
「まぁ、そうでしたの。それじゃぁ食べられないわね…。そしたら銀さん、神楽ちゃんで食べてくださいな。勿体ないもの。ね」
「ごふぉ!!ごっほ!ごっほ!!アネゴォ!そういえば私もうおなかいっぱいだったアル!銀ちゃんこれあげるよ!」
「いや、よく考えたら俺もめちゃくちゃ腹いっぱいだわ!昼食ったラーメン全然減る気がしねェんだよな!うん!これ晩飯にとっておく!うん!そうする!」
「あらあらも遠慮しなくてもいいのよ。男の人はラーメン一杯だけじゃおなか満たされないでしょう?」
「それがよ、最近銀さんダイエットしてんだわ。食いすぎたら、な?」
そうだったのか。せっかくだしダイエット中の坂田さんにマメ知識を教えよう。
「ちなみにたまごにはたんぱく質が含まれているからダイエットに向いていますよ坂田さん。カロリーも低いそうでむがもご」
「オィィイイ!ファースト余計なこと言うんじゃねェェェエ!!」
見たこともないレベルの脂汗を浮かべた必死の形相の坂田さんに口を覆われた。え?なんで?
「いいから食べろっつってんだろーがァアアア!!」
ぱぁんと気持ちの良い音がして、妙さんの手によってたまご焼きが坂田さんの口の投げ込まれ…いや、叩き込まれ、本人はそのまま後ろにひっくり返ってしまった。
「ふふ、失神するくらい美味しいですか?銀さん」と微笑む妙さんに恐怖心を抱いた。
坂田さんが気絶してるのって、どっち?妙さんの手腕なのか、たまご焼きの味のせいなのか…。「銀ちゃぁぁああん!」と神楽さんがそばで泣き叫んでいて現場が混沌化してる。
「…実は姉上のたまご焼きは凶器なんです。絶対食べないでくださいね」
「えっ」
新八さんがひっそり耳打ちして教えてくれた。だから坂田さんたまごアレルギーとか言ってくれたのか…!そしたらそれは悪いことをしてしまった…。
それから妙さんは別の風呂敷を持って私のもとにやってきた。またたまご焼きだったらどうしようと一瞬身を構えるが、中から出てきたのは布だった。
「……着物、ですか?それ」
「えぇ、私のお下がりで申し訳ないのだけれど…。良かったらファーストさんに差し上げようと思って」
妙さんが風呂敷の中から取り出したのはアイボリー色の着物。
「着物は高いと聞きますよ…!受け取れないですそんな高価なもの…!」
「この間の和傘の修理のお礼にどうぞ受け取ってくださいな。ファーストさんとっても素敵な容姿されているのにずっと作務衣なんて勿体ないですよ」
「そうですよファーストさん。僕もそう思います」
「えぇ…でも…」
着物、何度か挑戦したことはあるのだが、イマイチ着方が分からないのが現状。それを見兼ねた新八さんが口を開いた。
「姉上、せっかくですし、ファーストさんに着付けをお願いできませんか?」
「そうね。それもいいわね。銀さん、隣の部屋借りますね。さ、着替えてみましょうファーストさん」
「私も着たいアル!」
「じゃあ、神楽ちゃんも持ってるお着物持ってきてちょうだい。着付けてあげる」
「ひゃっほーう!」
「えっ、え、……えぇっ!?」
ぐっと手を引かれて居間の隣にある和室へ。
「あの、私、えっと…着物の着方とか分からなくてですね…」
「他の国から来られたと聞いています。着付けなら私に任せてくださいな」
にっこりとした笑顔にほう、と小さく息を吐いた。それなら、と作務衣の紐を解く。
「ーーまぁ」
「…あ、すみません。怖いですよね、この腕」
作務衣を脱いで、その下に来ている長袖も脱ぐと、後ろで妙さんが驚いた声を上げた。きっと機械鎧を見ての声だろう。
「いえ、ごめんなさい。ちょっと驚いただけで」
「くぅう!やっぱ何度見てもかっこいアルなぁ!!」
「これ、どうやって動いているんですか?ファーストさんの意志で動くのですか?」
「はい。神経をつなげているんです」
「痛いアルか?」
「そんなことないですよ。神経つなぐときだけちょっとビリっとしますが、そのあとはなんともです」
「まぁすごい…!それでいつも手袋を…?」
「まぁ、コンプレックスというよりは、他の人をびっくりさせないようにつけているんです」
「そうだったんですね…!見すぎちゃってすみません」
「お気になさらないでください。慣れています」
「じゃぁまずはこの長襦袢から…」
妙さんのテキパキとした指示と教えを元にして着付けをしてもらってから数十分が経った。
「ーーー似合ってますか?変じゃないですか?」
しどろもどろに妙さんと神楽さんに確認を取った。アイボリー色の着物にボルドー色の帯がアクセントのコーディネート。妙さんは満足げに私を見下ろしている。
「私の目に狂いはなかったわ…!とっても似合ってますよファーストさん」
「良いとこのお嬢さんみたいアル!」
「はい、手袋どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「銀ちゃん!新八!着替えてみたヨ!どうアルか!?」
スパーンと襖を開けて坂田さん達のいる居間の方へ走っていった神楽ちゃん。「わ、神楽ちゃんその着物持ってたんだね。よく似合ってるよ」と新八さんの声。
「あれ、アイツは?」
坂田さんの声に心臓がはねた。あれ、まさか私恥ずかしがってる?…いやいやいや、国家錬金術師が、元軍人が着替え如きで何を恥ずかしがってるんだ。
「…着替え、ました…。変じゃないですか…?」
するっと襖の間から居間へ出ていくと、坂田さんと新八さんの視線がこちらへ。しばし間が空いた。
いやなんで。
「……ん、馬子にも衣装ってやつじゃねーの」
「銀さんったら。素直に似合ってるって言えばいいじゃないですか。ね、新ちゃん」
「そうですよ。やっぱり作務衣よりも着物の方がよくお似合いですよファーストさん」
ちょっと照れ臭くて頭を抱えた。この姉弟ときたら…。
「そうだ!どうせなら着物でかぶき町散策するネ!私こう見えてかぶき町の女王。町のことなら私に案内任せるヨロシ!」
「え?」
えっへんと胸を張った神楽ちゃんはどたどたと派手な音を立てて玄関に走っていった。どうしたら良いのか困惑していると新八さんが腰を上げた。
「僕もついていきますよ、ファーストさん」
「…しゃーねーな。これも依頼の一環ってことで、行くぞ」
「え、えええ?」
相次いで玄関に向かう皆の背中を慌てて追いかけた。
こんな感じでかぶき町散策が始まった。
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