チート設定にはそれ相応の弱さがあるといい
◼︎
「…すっぱ!」
思わず口元を抑えた。
なんとなく箱を開けた時から酸味のある臭いがしてたけど、一口加えると物凄い酸っぱかった。塩分と酸の分量が圧倒的に多くて体に良い食べ物とは到底思えなかった。
「ムフフ、驚いただろう?コレがこの国の文化アル。かぶき町で生きていくにはこの都こんぶを食することから始まるヨ。むしろここで住んでいくにはこれを食することは避けられないネ」
「本当ですか。なかなか変わった文化してますね…。これ食べないと住めないなんて…」
「いやいやファーストさんそれ神楽ちゃんが適当に言ってるだけです」
「お前そろそろ神楽が宇宙から来た天人であることを覚えろ」
「でも神楽さんはかぶき町住人の先輩ですし」
それに、教えてくれる人を疑うのはさすがに失礼でしょう…。「これがんめェ棒!」に「これが500円チョコ!」と次々に駄菓子を教えてくれる神楽さん。
「駄菓子屋の買い物の極意を教えてやるヨ。ここに200円がある。そしたら一つ50円のものを買って、あとは10円から30円のものを大量に買えばなんかお得感満載で駄菓子の買い物を堪能できるアル!」
「な、なるほど…?」
聞きけば子どもたちの間で賢い買い物方法を探すのが今流行ってるらしい。うーん、若いうちに可能性を開拓できてるあたりは将来有望かもしれない。
「次行くアル!」と連れてこられたのは、パチンコと書かれたギラギラ光るお店。扉も開いてないのに中からジャラジャラと騒がしい音が漏れていた。
「ここが銀ちゃんの行きつけのパチンコアル!18歳以上が入場できるアダルトな施設ネ」
「法的には大丈夫なんですか?」
「単なる玉打ちゲームよ。金を銀玉に変えて機械操作すんの。んで銀玉大量に出たら金に換金できるってワケ」
「僕らの給料は僕らに支払われる前にここに注ぎ込まれます」
「新八くぅん?ごめ、ちょっと時間ある?相談したいことあるんだけどナ」
「経営者の風下にも置けませんね坂田さん。この国の労働基準法を学んでいないので分かりませんが、高確率でクロじゃないですか?」
「それもこの国の文化分かってねェなお前は。法が全てじゃねェってこった。俺ァアレよ、1万が5万に化けたらイイなぁって思ってだな。1日3食たまごかけごはんだったのがローストビーフ丼になったらイイなって思ってだな」
「高確率ですっからかんですね。そしてなんでアンタそんなにローストビーフ丼引きずってるんですか。何話分引っ張ってきてるんですか」
「お二人とも、困ったことがあれば私のところに来てくださいね」
「ファースト姐…!!」
「ご配慮痛み入ります」
やはり人の第一位印象は強ち間違っていないようだ。手入れされてない適当に生え狂った髪の毛に死んだ魚の目。間違いなく本人の内面をよく表現している。
「お前今の辛辣な言葉全部口に出てっからな。適当に生え狂った髪の毛とか生まれて初めて言われたよ俺。こう見えても毛根みんな頑張ってがむしゃらに生えてんだよ。適当とか言うんじゃねェよ」
「えっと……ごめんあそばせ〜」
「なんでIKKOみてェなトーンなの。なんかすげー腹立つからやめてくんない。特に語尾伸ばすのイラってするからやめてくんない。誰から教わったのそれ」
「私アルよ〜」
頬に青筋を立てる坂田さんを他所に神楽ちゃんはズンズンと「次!行くヨ!」と私の手を取って歩き始めた。
それから反物屋、大型デパート等教えてもらい、坂田さん行きつけのお団子屋さんを案内してもらった。どれも風貌は違えどもアメストリス国のお店と然程変わらなくて、人という生き物は自然に同じ様なものを作り上げるらしい。
「すみません、ファーストさん。重いですよね」
「いえ。大丈夫ですよ。……神楽さん熟睡ですね」
団子屋前の長い腰掛けにみんなで腰を下ろし、私の膝下では神楽さんが横になっていた。はしゃぎ疲れたらしく、このお店に着いてお団子を数個食べたらかっくりと意識を飛ばしてしまった。
宇宙最強の戦闘傭兵とは言われているけれど、こういう姿はやはり年相応のようで可愛いく思う。
隣にいた坂田さんがお団子の最後の一つを口に含んで引き抜くと、お皿の上に竹串をカランと放って立ち上がった。
「ったく。オイ、そいつ寄越せ。着物に涎垂らされんぞ」
神楽さんの扱いには随分手馴れているらしいく、彼女の身体を抱き起こした坂田さんは慣れた手付きで背に負ぶさった。
その姿がなんだか本物の親子の様で微笑ましくて綻んだ。近くで新八さんが神楽さんの傘を持つ。「帰ェるぞ」の坂田さんの台詞に私も腰掛けから立ち上がった。もちろん神楽さんが持っていた駄菓子の袋も忘れずに。
「はしゃぐだけはしゃいで電池切れ起こしやがって」
「楽しかったんだと思いますよ、神楽ちゃん。ファーストさんと町を回ってる時キラキラしてました」
「そうなんですか?案内してもらってばかりだったのに、楽しんでいただけたのなら良かった…。お2人もありがとうございます」
「ファーストさんからしたら依頼だったかもしれないですけど、僕らも楽しませてもらいましたよ」
日がゆっくりと傾き始めたかぶき町の町を歩く。
こんなのんびり一日中町を散策したのはいつぶりくらいなんだろう…もしかしたら軍人になる前かもしれないなぁ。軍に入ってからは日々錬金術の勉強と訓練ばかりだったし、国家資格取ってからは余計に毎日研究漬けだった日々をふと思い出した。
皆で他愛無い話をしているうちに万事屋へは意外にも歩きでも直ぐに到着。
「新八。神楽上連れてけ」
「はい」
「それじゃ私はこれで」
「なにがじゃ、だよお前。馬鹿なのか」
「…はい?」
「どうやって帰んだよ」
「えっ、原付ですが…」
「ファーストさん、着物で原付は運転は危ないんです。警察に見つかると罰金取られちゃいますよ」
「えっ、そうだったんですか!知らなかった…。それじゃ…またお部屋借りで良いですか?作務衣に着替えていきま…っ!?」
クン、と鞄を持っていかれて身体が動いた。鞄を引っ張ったのは坂田さんだ。
「銀さん、安全運転でお願いしますね」
「おー」
「えっ、えっ、あの!?」
「ほら乗れ。ヘルメットは自分の持ってこい」
「えっ、いやいやいや、いいです大丈夫です。あの、着替え場所さえ提供してもらえれば!」
「グダグダ言うな。前から思ってたけどお前そんなに俺と2ケツ嫌なの!?」
「…えっと…嫌と言いますかなんと言いますか…」
「ん?」
しどろもどろになった私が可笑しいのだろう。これは素直に言うべきか…?でも言わないと今後こういうやり取りが起こる事だってある。
「他人が運転する乗り物が苦手、と言いますか」
「………は?」
「だから言ってるじゃないですか…」と小さく呟いた。
そう。私ファースト・ファミリーは他人が運転する乗り物にめちゃくちゃ弱い。それはもう酷いもので、調子がちょっとでも優れないと即行で酔うのだ。
坂田さんの「何言ってんだコイツ」目線が痛い。なんか最近こういう珍獣を見る目が多い気がする。
「あんなチートな能力持っててそんなんなの?…お前風邪ひいて熱とか出たらどうしてんの?」
「這いつくばって病院行くか、もしくは行きませんね…。行かないことの方が多いかもしれないです」
軍にいたときもなるべく乗り物は避けてきた方だ。
どうしても乗車を避けられない時は、なるべく早めに予定を教えてもらって、前日の睡眠時間を確実に取って、軍でも信頼のある医師から酔い止めをもらうなどともかく徹底的に酔わない対策を取る。それでやっと気持ち悪くない…かも?ぐらいのレベルだ。なんでこんな弱いのか、むしろ私が知りたいくらいだ。
「ハイ、後ろ乗れー」
「私の話聞いてました!?」
「そのまんまだとお前いつか孤独死すんぞ。ていうかそのまんまだと霊柩車すら無理じゃねーか。今からでも慣れろ。今後お前が困るぞ」
「…」
霊柩車はならないだろうが、坂田さんの言うことは正直はっきり言ってほぼ正論かもしれない。
泣く泣く自分の原付からヘルメットを取り、坂田さんの乗る原付バイクに近づく。乗り方を聞けば横向きに、ということだったので、坂田さんの肩に手を置いてゆっくり後ろの座席に座る。もう一回言っていいですか?
本当に半泣きです。
「お願い……します。うぷっ」
「ねぇなんで既に吐き気!?まだエンジンもかけてねェよ!?」
「…手、手はここまま肩でいいですか……」
「…あー、腰んとこ適当に持っとけ。肩だと弾みで離れることあるし」
「こう、ギュって腕回しとけ」って言われて、その状態を頭の中で思い浮かべる。
「破廉恥!!」
「なんでだよ!!どこで覚えたその単語!!」
「それに私右腕アレですから、万一事故があったときに坂田さんの腹抱き潰す可能性が99%あります」
「じゃあ腰紐でも掴んでろ!離すなよ!いいな!」
「…それなら…」
バシン
人に見られないように原付バイクの後ろに背もたれを作った。うん、これがあれば大丈夫。
「これなら大丈夫です。落ちません」
「オイイイイイ!何勝手に改造しちゃってくれてんの!?カッコいいからいいけどさ!?」
「あぁああ揺れないでくださいほんと!!うぷっ!」
―――――
坂田さんが運転するバイクに揺らされること数十分。無言で耐える。無になる。空気と一体化することだけを考える。いや、物理的には無理な話だけど。
「ほら、案外行けんだろ?キツかったら遠いところ見とけ」
「…」
「ファースト?」
「ぎもぢわるい…っ!」
気持ち悪さに涙が出てきた。さすがにまずいと判断してくれた坂田さんがバイクを止めてくれたので、そのまますぐに降りて地べたに座りこむと、坂田さんが背中を優しくさすってくれた。
…その優しさ正直もう少し早く欲しかったです。
「うぅっ…」
「……マジでダメなんだなお前…。なんか…ごめん…」
「だから…言った…じゃないですか…」
「いや、でも、ほら、あと5分くらい耐えたら家だ。なんとか気張れ。なっ?」
「またアレ乗るのなら切腹したほうがマシです…」
「そんなに!?」
「あれ?旦那?何してるんですかィ?メス豚調教?楽しそうでじゃないですか。俺も混ぜてくだせェ」
横から聞こえた声に顔を見上げると、気持ち悪さから出てきた涙がぽろっと零れた。
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