警官と軍人っつったらそりゃ後者

◼︎


「あんだお前か。総一郎くん」

見上げた所にいたのは土方さんと同じ隊服を身に纏った男の人だった。土方さんに比べたらずっと若く、ミルクティー色のサラサラヘアにどんぐり眼が幼さを際立たせる顔立ちをしていた。いわゆるベビーフェイスっていうのは彼のような容姿のことを表現するんだろうなぁ、なんて思った。

「旦那いつになったら俺の名前覚えてくれるんですかィ。それゲスノートの主人公のパパの名前ですぜ」
「そうだっけ?てかお前いつ出世すんの?出世祝いに酒振る舞うって話まだなの?」
「まぁまぁ、こういう楽しみなことはね、時間かけた方がその後に飲める酒も倍うめェですよ」
「あ、そ。どっちかっつーと早くあのマヨ野郎消え失せてくれた方がうめェ酒飲めそうな気がするがな」
「ははっ、それも違いねェや」

先ほどから坂田さんと親しげに会話を繰り広げている彼は相当親しいらしい。坂田さんが土方さんに対する態度とはえらい違いだ。
気持ち悪さの余りに出ていた涙を拭うと不意に彼が私の側にしゃがみ込んで、それから私の顔をじっとみて一言。

「旦那ァ、アンタ随分な女見つけたじゃないですか。思わず調教したくなる目ェしてやがる」
「……はっ?」
「いやいや、そういうんじゃねェってコイツは。家まで送ろうとしたらグロッキーになってただけよ」
「そうなんですかィ?いやぁ失礼しやした。てっきり町の往来で堂々と泣かしにきてんのかと」
「……えっと、どなたで?」
「ほら見ろ総一郎くん、ドン引いてんぞコイツ」
「旦那、総悟でさァ」
「…ソウ、ゴ…?」
「?」

どっかで聞いたことある…。ソウゴ…ソウゴ…。そのとき、土方さんがいつもうんざりしたような表情で「ソウゴのやつが…」とぼやいていたことを思い出した。

「まさかあなたが…土方さんの命を狙ってるソウゴさんですか…!?」
「まさかそういうアンタは土方さんが肩入れしてる修理屋ですかィ?」

土方さんとの雑談で幾度なく出てきた名前がソウゴという人の名前だった。事あるごとに副長の座に座るために土方さんを亡き者にしようとしているだとか。こんな若い子だったのか…。
しゃがんで挨拶はさすがに失礼かと思うので立ち上がる。

「えっと…肩入れしているかは分かりませんが…修理屋をしていますファーストと言います…」
「ふぅん、アンタがですか。…俺の名前はまぁ別に覚えなくてもいいんですけどね、沖田総悟ってんでィ」
「やっぱり…」
「なんでお前総一郎くんのこと知ってんの」
「土方さんから愚痴を聞いていたので…」

「何、そんなに仲良いのお前ら」と坂田さんに多分と言い返す。

「じゃあ、こないだのバズーカの修理もアンタがやったんで?」
「あぁ、バズーカ2本分は私が」
「ふぅん。意外と腕が立つんですねィ」
「意外となんて…失礼ですね」
「いやぁすみませんね、気を悪くさせるつもりはなかったんですけどねィ」

ちょっとムスっとした私に気付いたのか、両手を上げて降参ポーズのオキタさん。

「旦那旦那、コイツ結構顔色悪ィですよ。水買ってきてやったほうがいいんじゃないですかィ?」
「あぁ?…ったくしゃーねェな」
「あ…あの、坂田さんお構いなく…!」
「嫌かもしんねーけどちょっとソイツと待ってろ」

きっと無理矢理バイクに乗せた罪悪感があったのだろう。坂田さんはボリボリと頭をかくと近くに自販機がないか探しに出て言ってしまった。
初対面のオキタさんと2人きりになったわけなのだが…何を話せばいいんだろう…。そんな沈黙を破ったのは彼の方だった。

「ファーストさん、あそこに腰掛けあるんで座りましょうや」

近くにあった腰掛けに誘導された。紳士的なところを見ると土方さんから話を聞いていた感じよりはそんなに悪い人じゃないのかな。腰掛けから彼を見上げると、オキタさんは立ったままだった。

「あの、ご心配おかけしてすみません」
「…」
「?あの…オキタさ…ッ!?」

それは一瞬のことでさすがの私も動けなかった。突然右手を掴み上げられ、後ろにあった壁に押しつけられた。

「ーーどちらかというと、アンタ自身の心配よりも俺たち真選組に害がねェか心配なだけでさァ。この腕、何仕込んでやがるんでィ」

無理矢理変な向きに捻られているせいで機械鎧が音を立てる。
手袋をしていて機械鎧は見えていないはずなのに何故彼に分かったのか。動揺を抑え込みながら自分に落ち度があったのか冷静に模索した。

「ぎごちねェ着物の所作、立ち上がりの体重の掛け方、僅かに聞こえる機械の軋み音、少し違和感のある俺の名前の呼び方で判断してやす」
「…」

なんてことだ。私が考えていることすらも見抜かれているらしい。甘い顔をしている割にはなかなか厄介なタイプなのかもしれない。

「アンタこの辺の者じゃねェな?目的はなんだ?土方さんに近づいて何をしようとしている?」
「何を…ッ!?」
「手間かけさせてくれるんじゃねェやい。余計なこと喋ったらこの腕ヘシ折るぞ」
「おいおい沖田くん!?お前何して…ッ!」

少し離れたところから坂田さんの焦り声が聞こえた。オキタさんの敵意を孕ませた眼差しを逸らさずに真っ直ぐと射抜きながら先程の彼のセリフを頭の中でリピートさせる。

土方さんに近づいた目的?何をしようとしてる?だって?

「場合によっちゃァこの場でしょっ引かせて、」
「ーーそんなのお金落としてくれる上客としか見てませんけど何ァア!?」
「ぐふっ!?」

その端正なお顔に向かってご自慢の石頭をぶつけてやった。怯んだスキに立ち上がってオキタさんから距離を取る。別に痛くはなかったが解放された機械鎧の付け根を思わずさすった。

思ったよりもイイのがお顔に入ったらしい。赤くなった顔面を手で押さえながら此方を睨んできた。

「…てっ…てめっ…何しやがるんでィ…!」
「失礼な人ですねオキタさん。土方さんとは大違いですよ。なんですか、私がまるで土方さんを含めあなた方真選組を陥れようとしてるみたいな話は。初対面の人間に言う言葉じゃないと思うのですが」
「…職業柄人を疑わずにいられねェんでィ」
「はい?」
「こういう職やってると、大体俺ら真選組に気に入られようとする奴ァテロリストだの殺し屋だったりするんでな。土方さんに付け入ろうとしたアンタを見に来てやったんでさァ。まァともかくアンタの眼ェ見て分かりやしたよ」
「…だいぶ失礼ですね」
「さっきの愚行は失礼しやした」
「おーおーやるねェファースト。あの沖田くんの端正なお顔を戸惑なく頭突きをお見舞いできるたァ」

目の前に差し出された水を受け取った。

「こっちは身の危険を感じたんです。正当防衛ですよあれは」
「警官相手によくやりやすよホント」
「「…」」

内心「元軍人だし」と思ったが、それを言うとややこしいことになりそうだから黙った。多分坂田さんも同じこと考えているだろう。
坂田さんに頂いた水を飲もうと、未開封のキャップに視線を移した時だった。

「ーーッ!?」
「けど、その度胸気に入りやした」
「えっ!?」

不意に腕を引っ張られてオキタさんの方へ倒れ込んだかと思えば、頬に柔らかい感触。制服のかっちりとした布の匂いとシャンプーの香りが鼻をかすめた。

「んじゃ、俺ァ失礼するとしまさァ。お2人さん、それじゃまた」

ヒラヒラ手を振りながら遠のくオキタさんの背中を見て間が空いた。

「えぇぇえええ!?」

真横にいた坂田さんが叫ぶから、両手で耳を塞いだ。


PREV INDEX NEXT
top