わらしべ長者はミラクル連発メーカー

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床面に書き記された錬成陣。中央にはヒトの基になる元素。見覚えのある風景を一目見た瞬間、心臓が激しく脈を打った。

錬成陣を前に立ち尽くす自分は、どこか虚ろげな表情。これは間違いない。'あの時'そのものだ。


「−−やめて!!!」


そう叫んでも目の前にいる私はその陣を前に両手をついた。直後に轟音が響き渡り、それから私は右腕を失った。


ーーーーー


「ーーはっ!?」

起きたらまた夢だった。またか…。此の間坂田さんにあの話をしたからか、毎日のように嫌な夢が繰り返されて、もういい加減うんざりしていた。

静かに息を吐けば機械鎧の付け根が疼くように痛んだ。それをさすってから身体を起こすと、じっとりした暑さが身体を蝕む。
ここ最近の夢見の悪さはこの暑さのせいでもあるのだろう。

「…あっついな」

立ち上がると暑さからか、頭がグラっと揺れる感覚に襲われた。顔を洗ってから表の戸を開けて、目の前に広がる青々しい山々を目の前にそうひっそり呟いた。この国の不思議なところの一つに季節というものがある。

桜という淡いピンク色の花が咲く春の季節、一年で一番気温が高い季節の夏、その次に実りの秋と呼ばれる季節に、雪の降る冬の季節。まぁ噂で聞いた程度なので、私はまだ目にしていないが、この目の前の山々が一体どんな景色を見せてくれるのか、楽しみにしているところでもある。

アメストリス国も言われてみれば季節はあったものの、この国ほど極端に変化を感じるものではなかったと思う。

「…これが夏かぁ…。機械鎧持ちには参っちゃうなぁ」

きっとかぶき町の町中に比べたら山に近いこちらの方がずっと涼しいだろう、なんてことを思いながら今日も言語を学ぶべく万事屋へ向かう支度を始めた。


ーーーーー


「ん?今日祭りあんのか」

銃声のような何かが弾ける音が外から聞こえてきたような気がした。その音に反応した坂田さんの声に一瞬どこかへ彷徨っていた意識が自分の元へ帰ってきたような錯覚を受ける。
デスク近くの窓に歩み寄る坂田さんを見上げると、耳には微かに遠くから虫の鳴き声が入ってきた。
一瞬…私寝てたのか?暑さのせいか、頭が重い。

「知らなかったんですか?今日かぶき祭りの日ですよ」

新八さんのセリフに神楽さんが勢い良く顔を上げた。頬にくっきり寝跡を残す彼女もまた寝ていたらしい。

「あの祭りアルか!ファースト!祭り一緒に行こうヨ!」
「祭り?ですか?」

目の前にいた先生こと、神楽さんは興奮気味にローテーブルに両手をついて、青い目を大きく見開かせながら頷いた。

「そうアル!今晩かぶき町でおっきい祭りやるネ。日本文化の勉強を兼ねて一緒に行くアル!祭り無しに日本文化は語れないヨ」
「お前それ自分が屋台たらふく食いてェだけだろ。祭りだからって財布のヒモが緩くなると思ったら大間違いだからな。綿あめだけだからな胃袋に収めていいのは」
「テメーも綿あめたらふく食いてーだけじゃねーかヨ。だから頭そんなんなるアル」
「誰が俺の頭が綿あめだァァア!…いやそうだったら良いよな。自給自足になるわ」
「定春のエサ代が浮くアルな」
「なんでだよォオオ!!!」
「ハッ!?だから定春のヤツ銀ちゃんの頭によく齧り付いてたアルか!?やめろ定春ー!お前まで…!お前までもじゃもじゃになったらプードルになっちゃうヨ!!」
「誰がプードルだコノヤロー」
「そもそも、祭りってなんですか?パレードと同じですか?」

取っ組み合う坂田さんと神楽さんとひとまず置いて、疑問に思ったことを素直に口に出すと、近くでお茶を啜っていた新八さんが「うーん」と唸った。美味しそうに冷たいお茶を飲む新八さんにつられて、私も氷の入ったグラスの器を手に取った。冷たいお茶が喉を潤してくれたお陰で少し頭が楽になった。

「僕もそこまで詳しくはないのですが…、簡単に言ってしまえば神様や先祖に感謝の気持ちを伝えたり、お祈りをしたりする儀式のようなものなんです。僕ら一般客はお祭りに並ぶ屋台っていうお店の食べ物とかを楽しんだり、夜になると夜空に花火というものが打ちあがるので、それを見て楽しんだりするんですよ。夏の風物詩ってやつですかね」
「この2人は神様云々よりも食べ物が目当てな気もしますけど気のせいですか?」
「祭りに来る人たちの大半が目的はそっちですからね」

新八さんが苦笑した。
神様にお祈り、か。私には程遠い話だけれど、人が神様とやらに縋る文化は万国共通らしい。

「かぶき町の女王が案内してやるヨ!」
「どうせなら皆で浴衣に着替えてみんなで行きましょうか」
「浴衣…?」
「着物よりも薄手で、動きやすい着物のことです」
「薄手の着物…ですか」

自然と声が強張る。前に着物を着た帰りにえらい目に遭ったしね…。
そんな私の様子を見た新八さんがまた苦笑いした。

「帰りはここで着替えて行っても大丈夫ですよ」
「あ…すみません。話は聞いてましたか」
「はい。何も、誰かの運転する乗り物がダメだとか」
「お恥ずかしい話なのですが…」
「ファーストさんはその感じだと浴衣は持ってなさそうですね?姉上に着ていない浴衣ないか聞いてみましょうか?」
「いえ…!前にも着物を頂いているので……」

その時、大袈裟な表現かもしれないが万事屋の建物が少し揺れた気がした。

あれ?また地震?パラパラと天井から降ってくる埃を見ていると、坂田さんが慌ててデスクの下に逃げ込んだ。いよいよ本当に地震かと思って腰を上げた時、玄関の方で物音が立った。

「銀時ィィィイイイ!!!てめっ!いい加減三ヶ月分の家賃払いやがれってんだァアア!!」

荒々しく玄関が開かれる音がしたかと思えば、今度は罵声が響き渡った。
その声の持ち主は坂田さんの断りもなく廊下を音を立ててかけてくると、居間に姿を現す。中々良いお年の女性で、鬼のような形相で居間に乗り込んできたかと思えば、坂田さんの居場所が分かっているのか、真っ直ぐにデスクに向かった。

「いだだだだだっ!何すんだクソババア!家賃三ヶ月分の働き此間しただろーが!客のコンタクト探し!」
「ンなモンで三ヶ月分賄えると思ってるなんてアンタ暑さに頭でもやられたんかァア!ふざけんのは毛根だけにしろ!大体ね、あんなカピカピなコンタクト探しだけじゃかぶき町の最低賃金にも届きゃしないよ!」
「ババアもジジイもカピカピ同士でちょうどいいだろが!見つかっただけでも喜べよ!使えねェかもしれねぇけど!」
「本当口だけは達者だね!さっさと出すモン出しな!」

仮にも職場の上司が喝上げされているというのに新八さんと神楽さんは何故か眉一つ動かしもしなくて妙だった。
不思議に思って二人のやりとりを見届けていると、新八さんがひっそり耳打ちをして教えてくれた。このギャングばりに坂田さんからお金を巻き上げた女性は、どうやら一階でスナックを営むお登勢さんと言うらしい。二階の万事屋の大家的立場であるようだ。

「一ヶ月分足りてないけど…ま、大目に見ておいてやるよ。ったく、かぶき町祭りで支出が大変って時にアンタは呑気なもんだね」
「これが呑気に見えるか。日本文化も知らねェ女の面倒見てんだこっちは」
「あん?日本文化を知らないって…」

ローテーブル前にノートを広げて座る私に目線が降りてきて、何故だか自然に背筋が伸びた。まるで品定めでもされているような目線だ。

「もしかして、アンタがかい?」
「あ…初めまして。ファーストと言います。かぶき町の端で修理屋をやっています」
「…あぁ、アンタがあの修理屋かい。理吉の小僧からそれとなく話は聞いているよ」
「!」
「ちょうど修理してほしいモンがあったんだけど、後回しにしちまっててねェ」

そこでピンときた。

「その修理費と坂田さんの家賃一ヶ月分は等価ですか?」
「…まぁ、そりゃアレが直れば嬉しいことこの上ないよ」
「はぁ!?お前マジか!」
「ひとつ貸しです」

ニッと笑った。貸しをつくってなんぼだろう。


場所を変えて一階に降り立つと、煙草臭い空間が広がっていた。二階の万事屋と打ってかわって涼しい空気が身を包む。あぁ…エアコンって素晴らしい。

入り口を入って右手にはカウンターがあり、その向こうは酒瓶が並べられて、反対に左手にはボックス席。こういう場所をスナック、というらしい。

「こいつの調子が悪いんだけど、どうにかならないもんかね」

お登勢さんがコンコン、と軽く叩いた物を見た。自立式の箱に、有線のマイクが二つくっついている。アメストリス国では見たことのない機械だった。

「…これはなんですか?」
「おや?知らないのかい?カラオケさ。こいつに番号入力すると、歌が流れるんだよ。それをこのマイクを使って歌うのさ」
「へぇ…」
「ファーストさんの国ではカラオケは無いんですか?」
「私が知っている範囲では…無いですね。普通にスピーカーとかならあります。…とりあえずバラしてみないことには」
「ンなもんパンってちゃちゃっとやっちまえば良いじゃねーか」
「中の構造が分からないと直しようがないんです。工具ならバイクにあるので取ってきます」

バイク座面に置いてある工具を取りに行き、お店の床にブルーシートを敷かせてもらってからデッキを分解していく。電源部分の接触不良とプラグ部分の変形、それから所々見られる錆び。いろいろ重なって壊れたのだろう。


最初こそは分解されていく機械を面白がっていた新八さんと神楽さんだったが、次第に飽きたのか今はカウンター席でお登勢さんお手製のお昼ご飯を食べ始めた頃、隣には私の作業を飽きもせず眺める坂田さんがいた。

「…お前、前職なんだったっけ」
「軍人です」
「その手さばきっぷり見ててホントそうは思えねェな」
「まぁ、戦地でいろいろ自分で物を手直ししてましたしね」
「ほぉ…」

パンと軽く両手を付けてからパーツに両手を翳すと、短い錬成反応の後に壊れたパーツがくっついた。錬成で修理しながら手で組み立てていく。

『カラクリが喜んでおられます』
「…えっ?…はい?」

驚いて顔を上げると、坂田さんの隣にはいつのまにか女性がしゃがみ込んでいた。艶のあるグリーンの髪に変わった瞳をした女性だった。

『ファースト様が手直しされているカラクリからとても喜んでおられる声が聞こえました』

ニコリと微笑んだ女性を呆然と見上げていると、「こいつ、たま」と坂田さんが親指で横にしゃがむたまさんを指差した。

『名乗るのが遅くなり申し訳ありません。たま、と申します。ここスナックお登勢で働いています』
「えっと、ファーストです…。たまさんは…この機械の声が聞こえるんですか?」
『はい。私、カラクリなので』
「…えっ?」
『ファースト様には一度お会いしてみたいと思ってました』

突然カパンと取られた彼女の頭に驚いて持っていた部品を派手に落とした。

恐る恐る外れた首部分を覗くと、機械ならではのコードやパーツがみっちりと埋められているのが分かる。それにこの周りのなんとでもなさそうな反応からして、信じられないことに事実らしい。

『ファースト様が修理屋を始めた頃からでしょうか。たまに町中で生き生きとしたカラクリ達の声が聞こえるのです。古ぼけた小型ラジオからだったりバズーカ砲からだったり』
「へ…」
『銀時様の原付はぶっちゃけますと、銀時様の物としてはお役御免したかったみたいなのですが…。ご本人には内緒でお願いします』
「それは悪い事をしましたね。なんでもかんでも直したらいいとは限らないのですね…勉強になります」
「おーいたまちゃーん。ご本人隣にいるよ。隣に」
『私としたことが』

もし彼女が本当にカラクリだとしたら…。カラクリが自我など持つのか?生体錬成ですら自我の開拓はロクに進んでいないのに…そんなことありえなくないか?

けれど、ありえないことなんてありえない。前に対峙したホムンクルスの男がそう言っていたのを思い出した。もし彼女が自我を持つカラクリで、他のカラクリたちの声が聞こえるのなら、

「…彼らの声を教えてくださってありがとうございます」

修理屋としてこんなに嬉しい言葉はない。顔が綻んだ。

「ファーストおまえ…」
『ファースト様…』
「えっ、なんですか」
「いんや、なんでもねェ」

お礼を言っただけなのに二人に驚いた表情をされた。なんだこの空気。そんなにおかしかったか?なんだか居た堪れなくなって目の前のパーツ修理に専念すべく両手を合わせた。

「おや、お前さん魔法使いかなんかかかい」

パーツが出来上がるとカウンターの向こうにいたお登勢さんから声がかかった。

「いや、コレキンタマジュツとかいうらしいよ」
「しばき倒しますよ坂田さん。錬金術です」
「錬金術…どこかで聞いた覚えがあるね」
「…えっ!?」
「はてどこで聞いたんだか…。悪いね、年寄りになると記憶がね」
「顔のシワは深く刻まれていくクセして記憶だけはぽろぽろ落ちちまうもんなァ。老いは怖ェな」
「銀時、家賃値上げしてやったっていいんだよ」

坂田さんが黙った。本当、例えるなら口から生まれたような男なのにお登勢さんには頭が上がらないらしい。

しかし、お登勢さんのセリフも気になるところだ。どこかで聞いたことがあると言ったというのなら、国に戻れる可能性は0ではないような気がしてきた。


ーーーーー


「−−よし、これでどうでしょうか」

カバーも全部はめ込んで機械を起こすと、お登勢さんが手慣れた手つきで機械の電源を入れて番号を入力した。途端に店内に音楽が流れ始めて歓声が上がった。これがカラオケ、か。不思議な機械だ。

「いやぁ、助かったよ。腕は本物だねェ」
「ありがとうございます」
「ファーストーお祭りー」
「あぁ、神楽さんすみません」

工具を片付けていると背中に神楽さんが乗ってきた。お祭りの約束をしておきながら作業時間を早くするのを忘れてた。

「この時間だと姉上は家に居なさそうなので、今回は浴衣なしで行きましょうか」
「そうですね」
「何、あんたら祭り行くのかい?」
「はい。ファーストさん初めてだそうなので」
「どうせなら浴衣でも着てきゃいいのに」
「それがファーストさん浴衣持ってなくて…」
「私はお祭りの雰囲気がわかればそれで良いですよ」

紫煙をくゆらせたお登勢さんは不意に私の隣に立っていたたまさんへ視線を動かした。

「それならたま、お前の貸しておやり」
『かしこまりましたお登勢様』
「着付けは私がやってやるよ」
「えっ」
「あの修理費用は銀時の家賃だけじゃ見合わないからね。これくらいさせておくれよ。神楽、アンタも浴衣持ってるだろう?持ってきな」
「うひょー!!サンキューバーさん!」
「コラ神楽ちゃん!ありがとうございますお登勢さんでしょー!」

お登勢さんに背中を押されて、フロアに併設された従業員用の出入り口に向かうことになった。


ーーーーー


『…銀時様』

神楽とファーストがババアに着付けしてもらってる最中、エアコンの直風エリアを陣取ってジャンプを捲っていたら横から名前を呼ばれた。たまだった。

「ん?なに?」
『ファースト様のあの右腕…』
「…あぁ、オメーも気付いてたのか。機械鎧って言うらしいわ。アイツの身体とつながってんだとよ」

ジャンプをもう一枚捲りながらさっきコイツが言ってた、カラクリの声が云々つってたことを思い出した。そうか、義手も一応カラクリってェことになんのか。

「もしかしてだけどさ…お前あの右腕と会話できちゃったりする…?」
『…それなのですが、あの右腕、対話というよりは何か助けを求めるような声が一方的に聞こえてくるのです』
「助け?」
『私のデータの中にソレを表現できる言葉がないのですが、アレはただの義手ではないような気がしています。銀時様はあの右腕が取り付けられた経緯をご存知ですか?』
「それっぽい原因は聞いたけど、直接的な関係があんのかはわかんねェ…」

そうか、気になってんのか。
そのアイツの右腕の助けの声とやらが。「銀ちゃーん!ババアに着付けてもらったヨー!」と店の奥から神楽の声が聞こえた。

「悪いな、たま。今はまだそっとしといてくれるか」
「銀ちゃん!見てヨ!!ねェ!!」
『はい。私も不意にあの右腕の声を聞いてしまっただけですので。…ただ、あの方は私達カラクリからするとお医者様のような方です。だからどうか、』
『わーってるよ」
「銀ちゃん!聞いてるアルか!?」

「俺もなんかアイツからは目ェ離せねェんだわ」なんて言いかけた言葉は神楽のラリアットで消えた。
クソ、締まらねェ。


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