転職するなら前職の奢りは捨てなさい
◼︎
「あぁぁあア゛あああっ!!!!」
ごっそり持っていかれた己の右腕。血溜まりの中で叫ぶ自分の姿。
「…、うっ…!!…こん、なことが…っ!」
銃弾を身に受けたことはあれども、身体の一部が無くなるなんてことは生まれてこの方一度も無かった。
激痛に意識が飛びかける中、視界の端に見えた錬成陣の文字がその意識をつなぎとめる。
ーー錬成は成功したのかこの目で確かめなければならなかった。
「ジン!!…返事して…!ジン!!」
必死に叫んだ。必死に手を伸ばした。その先に在った双眼と目が合った瞬間、
「ーーーっ!」
びくりと体が動いて目を覚ました。
また夢だったようで、うんざりしたようにため息をついた。脈が激しく鼓動を打っていてそれを落ち着けるようにして細く長く深呼吸を繰り返す。思わず右腕を確認してしまったが、機械の腕がそこにあった。
夢がどんどん’あの日’に進んでいた。
「?」
不意に手に握っていた布の存在に違和感を感じて、それを手繰り寄せて確認してみた。
布団とはまた違う肌触りのそれをゆっくり握り開くと、着物であるのが分かる。のそのそ起き上がって握っていた着物を広げると、真っ白い生地に見覚えのある青い波模様のそれ。
「…ここは一体…」
それから部屋の中を見渡す。自分の身の状況を整理しようとする中、部屋の外から人の気配を感じた。
「おや、目が覚めたかい」
「おはようございます、ファースト様」
「…お、登勢さん…?たまさん…?」
カラリと襖が軽い音を立てて開かれた。襖の向こうに立っていたのはお登勢さんとたまさんの姿。ますます混乱状態に陥ってる間にお登勢さんは私の側に膝をつくと、額と首筋に手を当てた。
「熱は下がったようだね。たま、念のため熱を測っておやり」
「かしこまりました。ファースト様、失礼します」
「熱…?…あっ」
たまさんの人差し指がおでこに触れた。熱、そのセリフで漸く昨日の祭りのことを思い出した。
「36.8ですね。正常かと思います」
「ありがとうございます…」
確か神社の近くの公園で土方さんと会って、それから坂田さんとも会って、2人が私を間に挟んだまま揉めるから抗議の声を出したら…。
大変だ。そこからの記憶が全くない。
「あ、あの私…!」
「思い出したかい?祭りに出かけたばっかの銀時が鬼の副長なんかと珍しい組み合わせでウチに来たんだ。なんの用かと思ったら、ぐったりしたアンタを連れてくるわで……何事かと思ったよ、全く」
「そうだったんですか…。す、すみません」
「粥作ったけど食べるかい?」
「…はい。何から何まで…すいません本当に」
「…あたしゃ酔っ払いの介抱なんてしょっちゅうでね。あんなのに比べたらアンタの面倒ぐらい可愛いもんさ。…それに、そういう時は謝ってばっかじゃなくてお礼の方を言ってもらいたいね」
「…!ありがとうございます」
にへらと笑ってお礼を伝えたら返事の代わりに笑みを返された。
第一位印象とは全く異なるお登勢さんの人柄を噛みしめながたまさんに運んでもらったお粥を頂き、お風呂まで借りさせてもらった。
こんなに人にお世話になるなんていつぶりくらいだろうか。久しぶりに人の暖かさとやらを身を持って体感した気がした。
「本当にお世話になりました。このお礼はまた改めてさせてください」
「このくらい気にするんじゃないよ。かぶき町の人間なら互いに助け合って当然さ」
でも、と言いかけた私にお登勢さんが煙草に火をつけて、深々と吸い込んだ。それから私を見てニヤリと笑う。
「そうさね、また何か壊れたものがあったら修理をお願いできるかい?」
「はい!もちろんです!」
自分の身の回り品を整えて、玄関の方へ向かう。
草履を履いて進んだその先はスナックのフロアと繋がっていた。なるほど、家兼お店になっていたのか。
そこでふと自分が持っていた着物の存在を思い出す。
「ちなみに、坂田さんは、」
「あぁ、コイツを起こしてやってくれるかい」
「え?」
「自分の家にゃエアコンが無いからって勝手に寝泊りしてきてね。良い迷惑だよホント」
お登勢さんが顎でしゃくった先をつられてみると、ソファーに横になって寝息を立てている坂田さんの姿。
「坂田さん」
着物のない黒のジャージ姿で寝っ転がっている彼に近寄って、軽く肩を叩く。きっと着物は私が掴んでいたせいで、脱いでくれたんだろう。代わりにお腹にはタオルケットが乗せられていた。着物…また洗って返そう…。
「坂田さーん」
「…んぁ?」
何度か肩を叩いて揺さぶったところで、ようやく重たい目がうっすら開かれた。自分の家じゃないと思ったのだろう、天井にふらふらと視線を彷徨わせてからようやく私の顔を見た。朝弱いタイプなのかな。
「おはようございます」
「…あぁ……もう良いの?」
「おかげさまで。昨晩はご迷惑をおかけしました」
「あ、そう」
「着物、また洗ってお返ししますね」
「いやいーって気にすんな、よこせ」
「でも、」
「寒ィんだよ」
あれこれ言ってるうちに着物をひったくられて坂田さんが袖を通す。もしゃもしゃの頭を雑にかきながら「バーさん朝メシまだ?朝は卵かけご飯つったろ」と言うと「ウチは定食屋じゃねーよ」と頭を叩かれていた。
「しんどかったら一度病院に行っておきなよ、ファースト」
「はい。ありがとうございました」
一晩お世話になったお登勢さんとたまさんにお礼を伝えてスナックを出る。まだ朝方にもかかわらず外は既に暑く、もうじんわり汗をかき始めている。
このままだとせっかくお風呂に入ったのに家に帰ったらまた入ることになりそうだった。万事屋の階段の下にある原付に向かいながら、その鍵を探す。
「…お前もう帰れんの?」
「へ?」
振り返ると坂田さんの姿。寝ぼけ眼な感じがまだ完全には覚醒してないようにも見えた。いや、どちらかというと暑さでうんざりした表情にも見える。
「送ってってやろうか」
「いやいいです」
「即答か」
「私の乗り物酔いの酷さ覚えてますよね?」
咄嗟に車酔いが頭をよぎって丁重に断りを入れた。あ、鍵みっけ。ヘルメット着用よし、エンジン始動よし、
「では」
「待て待て待て待てェエエエ!!」
バイクを走らせたら坂田さんが全力で真横につくように走ってきた。
「なんなんですか。こんな暑い中むさ苦しいですよ」
「お前そこは送られとけよ!可愛げもあったもんじゃねェな!」
「一度送られ済みですし、バイクどうするんですか。また新八さんに無免許運転させるつもりですか」
「ていうかお前ピンピンしすぎだろ!昨日熱あったの嘘か!?」
「元軍人ですしたかだか熱で一日ダウンしたからって次の日まで持ち込みませんよ」
「それ言えばなんとでもなると思ってんじゃねーぞ。職歴おごり高ぶっと足元すくわれるからな」
「出会った当初に私に足元すくわれた坂田さんに言われたくないです」
「うまいなソレ。…じゃなくてェエエエ!!」
結局お互いにバイクに乗る感じで家まで送り届けられた。…意味あったのかな。
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