男なら潔く拳突きつけて語り合え

◼︎


「旦那ァ、右腕のねェ女とスリル満点のドライブデートたァよくやりやすね。吊り橋効果ってヤツですか。コノ、コノ」
「うっせーな。コノ、コノ、って言うなコノヤロー」
「で?この腕どうしたんでさァ」
「野良猫に引っかかれたっつってんだろ」
「いや今俺初めて聞いたんですけどねィ」

右腕がごっそり落下して慌てて坂田さんにブレーキを止めてもらった場所が悪かった。
土方さんと沖田さんが運転する真選組のパトカーにぶつかりかけ、その後は当然引き留められたワケである。

「ほらよ、腕」
「ありがとうございます」
「ったく、なんでこんなモン落とすんだよ」
「あはは…ちょっと接続が緩くなったみたいで…」

落下した腕を土方さんが取りに行ってくれて、それを恐る恐る受け取る。

「それにノーヘルだったろお前ら」
「えっと、エアーメットです。最近流行ってるんですよ?知らないんですか土方さん」
「無理あるだろ!!」

うーん。今はまだ顔なじみってことで詳しくは聞かれていないが、そのうち無免許がバレそうで怖い。いや、怖がるところはそこじゃないんだろうけど。無免許運転の罰則ってどんなものなんだろうか…。

「旦那は怪我してやすし、アンタは腕外れてるし…。なんか一悶着あったらしいですねィ」
「…」
「ともかく屯所で聞かせてもらうことには変わりねェ。洗いざらい話せよ」
「…ハイ」
「ったく、攘夷浪士が町中で暴れてるってのに先にこっち捕まえちまったわ」
「まァまァ、たまには他の隊士たちにも働かせて手柄立てさせてやんねーとですぜ土方さん」
「オメーは働かなさすぎな」

確かにノーヘル無免許だったけど、それ以外のことについてははっきり言って私襲われた側だ。別に悪いことしてないのに一体なんだろうかこの罪悪感。

「一先ず気にくわねェが万事屋の手当てとテメーらの聴取ってことで屯所に同行してもらうぞ」
「え、何、俺の手当てしてくれんの?うわ、やっさしー。明日槍でも降ってくんじゃねェの?」
「粗塩でもすり込んでやるよ。ついでに仕上げにマヨネーズな。一晩で治る」
「治るモン治らねーだろ!!あっ、いたたた!!腕すげー痛い!救急車!救急車呼んで!もしくはこんな煙草くせェボロ車じゃなくて高級車手配してくれないと腕もげそう!」
「てめェはンとに口が減らねェ野郎だな…。腕もいでからブタ箱コースにしてやったっていいんだぞ」
「あ、坂田さん腕もげたら私とお揃いコースですね。機械鎧仲間です。あ、しかも同じ右ですね!」
「お前なんなの!?ソレ触れられたくない話題じゃないの!?違ったの!?」
「だァアア喧しい!!今すぐ叩っ斬るぞ!!」
「お前の方こそうるせェんだよ!一言二言目にゃァ叩っ斬るしか言葉が出ねェなんてよ!!お前絶対偏差値低いだろ!知能叩っ斬られてんじゃねェのか!?あん!?」
「うるっせェな!!お前こそ偏差値悪そうな頭しやがって!!直毛が生える信号叩っ斬られてっからそんなもじゃもじゃになってんじゃねェのか!?あん!?」
「おまっ、天パ馬鹿にすんじゃねーよV字ハゲェェエ!!」
「誰がV字ハゲだコルァァア!よく見ろ一ミリたりとも後退してねェエ!」

相変わらず仲良いんだか悪いんだか…。

二人の様子に呆れながら受け取った機械鎧の付け根を見ると、根元が衝撃で歪んでいた。よく上手くここだけ狙えたものだ…。あのサムライ、なかなかの腕だったのかもしれない。


「ーー!」


一瞬殺気を感じ、咄嗟に振り返ると刀の切っ先が眼前に迫ってきた。瞬時に身を捩って回避すると、足払いをされて背中を地面に強打。
転ばされたんだと気づいた時には既に目の前には沖田さんがいて、首根を掴まれた。

「くっ…」
「総悟!!」
「…」

土方さんの抑制の声にも耳を傾けず、沖田さんが持つ刀が真っすぐ振り落とされたが、幸い土方さんがその刀を薙ぎ払ってくれたおかげで、串刺しは免れた。

が、

「っう!!」

首根を掴む沖田さんの腕を掴んでいた私の左腕を思い切り噛まれた。長い前髪の隙間から見えた沖田さんの目は先程の攘夷志士達と同じような、心ここに在らずな眼だった。


――まさか。


ある一つの可能性に考えが至ると同時にもう一つの殺気。ここまでくるともう嫌な予感しかしない。

「すみません!」

それだけ言うと沖田さんの綺麗なお顔に膝蹴りをお見舞いし、噛み付きがゆるんだスキに逃げ出す。手頃な小石で簡単に錬成陣を描き、ちょっとしたトラップとして沖田さんを囲うように塀を作った。

のだが、刀によってあっさりと斬り落とされてしまった。どう対応するか悩んでいると、背後から感じた殺気。今度は背中を押されてつんめのった。

「何やってんだァァア!!」

坂田さんの罵声と刀を弾く音が一緒で、少しだけ振り返った。
先ほど散々言い争いしていた坂田さんと土方さんが互いに刀を突きつけ合いながら対峙。さっきまで普通だった土方さんの様子がおかしい。

「女取り合うってんなら、男は拳で語れ拳でェエエ!!」
「どう見てもそんな感じじゃないでしょう!!」
「知るかァ!!」
「ーーッ、沖田さんいい加減にどいてください!」

沖田さんを足払いして転ばせ、簡単に描いた錬成陣を発動させ、地面から湧き上がってきた枷で彼の両手を封じた。

完全に沖田さんの身動きを封じたことを確認してから坂田さんの方を見ると、ちょうど坂田さんが土方さんをねじ伏せたところだった。すぐ駆け寄ってを作成し、沖田さんと同じように枷を作る。

「…はぁっ…はぁっ…」
「…ったくなんだってんだ…。クソ、無線でクレームつけてくらァ」

パトカーの無線機に向かって「コルァァアア!!市民を守る真選組が一般人を襲うなんざどーいう了見だァァア!請求書送り付けてやるから耳揃えて払えよコンチキショー!!」と坂田さんの罵声が響いた。
その間に土方さんの様子を見に行くと、目が合った途端に思い切り威嚇をされた。

先ほどのサムライたちとは違ってまだ白目剥き出しだったり牙が出ている様子が見えない。あそこまでのレベルにはまだ至ってない、ということだろうか。

「…一体なにが…」

乱れた呼吸を整えながらここまでの状況を整理する。
共通しているのは私を襲い掛かること。誰かに遠隔操作をされているとしか考えられない。そしたらその首謀者は…?

「…やっぱり…アレとしか…」

この国で私はファミリーネームを名乗った覚えはない。私のことを知っている者としたら…アメストリス国の関係者だろう。それもこの人間離れした操り方…、やはりホムンクルスの仕業としか思えない。

一通り真選組へのクレームが済んだらしい坂田さんが無線機を思い切り叩き壊す音が聞こえた。

「チッ、真選組の頭呼び出しといたけど、ストーカーなうだってよ。んま、すぐ来るだろ」
「え、ストーカー…?」
「ま、いつものことだ」
「あれ、もしかして妙さんの…?」
「よく分かったな」
「…アレが頭って真選組大丈夫なんですか…?」
「まァお察しの通り大丈夫じゃねェな」

改めて土方さんの大変さがよく分かった気がする。ストーカー上司と命を狙ってくる部下…。仕事増やさないようにしないと。

「ちなみに応援呼んでもらえそうです、」

「か」と言葉を最後まで言葉が続かなかった。

視界の端に見えた人影に目が止まる。真選組二人が暴れた現場に群がる野次馬たちは驚き入る者たちが多いというのに、その中にいたマントを羽織った二人組は何故か楽しそうにこちらを見ていたからだ。

片方は背が低くて少年の様ーーーー。噂の魔法使いの話とよく合った。

「……坂田さん…」
「ん?」

特に少年らしき方はフードを持ち上げて私と目が合うとニタリと口角をさらに吊り上げる。思っていた人物…ホムンクルスのスロウスかと思ったが違った。

しかし、その笑みを見た瞬間に直感が追いかけろと告げる。

「すぐ戻ります!」
「あぁっ!?ちょ、なんだよ!」

坂田さんには悪いが返事は最初から聞くつもりはなく、近くにあった土方さんの刀を借りて駆けだした。
私も恐れられている対象なのだろう。野次馬たちに紛れるその男に向かって走ると、一般人たちが逃げるように道を開いてくれた。

「えっ…?」

恐らく避けられると思って、牽制を兼ねて背の高い方に向かって投げつけた刀は予想と反して少年が庇い、その腹部に刺さった。それにまた周りが悲鳴を上げる。


バキンーーーーー


その音は少年の腹部から放たれていて、錬成音と錬成反応で私はとうとう確信してしまった。少年が何であるかを。


「あぁ…一度死んじゃった…」


普通の人間ならば血反吐を吐いて倒れるはずなのに、その男は自分の腹に刺さった刀を面白おかしそうに笑いながら抜いた。周りの悲鳴なんてもう耳に入ってこなかった。


ーーーホムンクルス。


思わず息を呑む。あの化け物と…それもアメストリス国とは違う場所で合間見ることになるとは思いもしなかった。


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