大切なものにはGPSつけよう

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神楽さんの寝息が上がったのを確認して体を起こす。

隣にいる人の気配を確認すると、タオルケットを蹴飛ばす神楽ちゃんがいて、さらにその奥には坂田さんの背中が見えた。一定のリズムで背中が動いているあたり、彼も眠りについたようだった。

てんやわんやで三人で川の字に寝ることになったのだが、なるべく今晩中にやっておきたいことがあって眠らずにいたわけである。

脱衣所でいつもの作務衣に着替えると、定春さんが玄関前で眠そうにして横たわっていた。
恐らく坂田さんに私が出るようなマネしたら引き止めるように言われてるんだろうか…、眠い目をしていたけれど私の出方を伺っているようにも見えた。

「ちょっと散歩に行くだけですよ。すぐ戻ってきます」
「くぅん」
「うーん、信じてもらえないか…」

ポケットの中にあった重みに「これなら」と思い立って、中に入っていた銀時計を床に置く。初めて見るものなのか、定春さんは置いた銀時計の匂いを嗅いだ。

「これ、私が肌身離さず持ち歩いてきたとても大切な物です。人質のような感じで持っていてもらえますか?必ず戻ります」

意外にも私の気持ちが伝わったようだった。彼は銀時計を守るようにして身体を横たわらせると、前足の上に顔を乗せて目を瞑った。まるで「それなら行ってよし」と言われているよう。

「ちょっと行ってきます」

手入れがされた柔らかい毛並みをひと撫でしてから玄関を開くと、ほんの少し澄んだ空気を孕んだ夜風が頬をかすめる。秋、という季節が少しずつ近づいている気がした。


散歩名目にやってきた場所はまずはあの場所。


昨日最初に襲われた金具屋あたりだ。争った跡として刀傷や建物の一部が壊れたりしていて、逃げ方が悪かったなと自分の行動を猛省した。少しだけ心のどこかであの出来事が夢だったら、なんて思ってたのに現実を突きつけられた気分だ。

両手を合わせて壊れたり欠損した壁も修理していく。

「うーんやっぱりダメだったか」

近くに転がっていた愛車のバイクを見つけるが、かなり大破していた。これは錬金術では直りそうになく、座面収納の中から買ったパーツを取り出し、改めて廃棄業者を手配することにした。

「あったあった」

その後は土方さんと沖田さんと会った場所まで。
沖田さんを封じ込む塀だったり、土方さん達の動きを防ぐために作った枷がそのままのはずだから元に戻しに来た。
特に枷はよく見たら壊されていて…あの二人が力ずくで枷を壊したのかとあとから気付かされて驚いた。だからあのピンチ助けてもらえたのかと納得。

「……」

ジンが目の前に現れた場所を見た。なぜ生きているのか。そもそも本当に人間なのか。……なぜホムンクルスなんかと一緒に…。信じたくないあの昼間の出来事が脳裏に過った光景を振り払うようにしてその場を後にする。



それから置いてけぼりだった盗難車を町奉行所までバイクを走らせて、その近くにバイクを駐車。変えていたナンバープレートも錬金術で元に戻す。

町奉行は所謂警察のような組織らしい。最近知ったが、真選組は武装警察と聞いた。となれば、盗難車の件は町奉行に頼むのが適切だろう。
ここに置いておけば不審車両とみなして持ち主を割り出してくれるだろうと信じて「あとはお願いしました」と勝手に任せて足を進めた。

「…ふぁ……眠い…」

ともかく今晩中にやっておきたかったことは全部終わって安心したのか、大きなあくびが出た。自分が原因で引き起こしたことはできる範囲で直しておきたかったのだ。

「あぁ…結構明るくなってきちゃった…」

ふと見上げると空は少しずつ白くなっていた。早起きの人たちはもう活動をする時間だろう。どこからか引き戸を開けたり、朝食を作る香りが漂ってきた。思えばこの国に来てからこの時間帯に町を歩いているのは初めてだった。

「ーーお疲れさん」
「あれ、坂田さん。早いですね」

早々に万事屋に到着して二階へ続く階段に向かうと、最下段に腰をかけた坂田さんの姿があった。まだ寝間着のままだ。
そしてその手には私が定春さんに預けた銀時計。

「あれ?その時計…」
「ほら」
「えっ」

それに気付いた途端こちらに投げ寄越されて受け取った。手元で鎖が鳴る。

「ったく、こんな時間にどこほっつき歩いてやがったんだこの不良娘が」
「散歩ですよ散歩。枕が変わると寝れないタイプなんです」
「そんなに家帰してもらえなかったの根に持ってたのかよ」
「でも、楽しかったですよ夜中の散歩も」
「定春に大事な時計預けてまで散歩、ねぇ」
「じゃなきゃ外出してくれる気配無かったですもん。誰かさんの命令のせいで」
「んーそんな命令したのは誰だろうなァ」

なんとなく受け取った銀時計を手中で見ると、外灯の明かりに当たって嫌みったらしく銀色が反射した。銀時計の竜の紋様がウロボロスの紋様と重なって見えてしまって、すぐにそれをポケットにしまう。

「なぁ」
「はい」
「俺達ャ万事屋なんだが」
「存じております」
「…」
「…なんですか」
「…依頼言ってけば?ちょっと金欠気味で仕事欲しいんだよな」

ちょっと笑ってしまった。なるほど、依頼待ちってことか。

「それじゃぁ、この件首突っ込まないでください」
「なんでも屋だが仕事は選ぶ。却下」
「なんでですか!!楽じゃないですかこの依頼!」
「なんでもいいだろ。俺ァこれでも社長だ。社長たるもの仕事の見極めは大事だ。なんでも引き受ける会社は潰れんだよ」
「屁理屈…。仕事選ぶから金欠なんじゃないんですか。お金が有り余るようになってから仕事選んだ方が良いんじゃないでしょうか」
「あー眠ィなーもう一眠りすっか」
「聞こえないフリですか」

階段から立ち上がって階段を登り始める坂田さん。自分で決めたことは曲げ無さそうな背で、小さく小さくため息を吐いた。

「…何があっても決して死なないでくださいね」
「…承った」

ひらひらと手を振るその背中を追った。


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