流行語の生み親は確認しておこう

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「さぁ全部吐いてもらうぞファースト」

開口一番に土方くんが臭ェ煙草を吐き出しながらそう言い放った。いや、当の本人は尋問室の机に突っ伏してダウンモードだけどな。

「うっ…ぎもぢわるっ……」
「土方さーんこの調子だと何か違ェモン吐きそうですぜ。なんか、もんじゃ的なアレとかアレとか」
「お前の運転のせいだろ総一郎くん。運転荒すぎんだろ」
「旦那、総悟でさァ」
「山崎、一応アレ、紙袋持ってこい」
「あ、はい」

沖田くんが運転するパトカーの迎えがあってから、グロッキー度MAXのファーストは真っ先に尋問室に押し込まれた。

「ホラ両手出しなせェ。吐き気抑えるツボ押してやりまさァ」
「お、お願いします…うぇ…」

ファーストから見て机を挟んだ向かいには土方くん。それから右手側には沖田くんで左手側には俺だ。
そんな中、素直に沖田くんに吐き気のツボを押してもらおうと持ち上げたファーストの両手に木製の手枷がはめられた。ファーストの双眼がマジマジと手にあるそれを見つめた。

「えーと……あの…え?どういうことですかコレ」

…いや、まぁ、そうなるよな。
思ってた反応にニマつく口元を手で覆いながら固める。

「何って逃げださねェように決まってんだろ」
「逃げるも何も…昨日話すって約束してここに来てるはずなんですが…」
「しらばっくれてもいいんですぜィ?その方が調教しがいってモンがありまさァ。…どう甚振ってやろうか…、その余裕そうなツラが苦痛に歪むのを楽しむのもまた一興ですぜ」
「土方さーん、私よりこの人捕まえた方がいいのではないでしょうか」
「悪ィな。残念だがこう見えてコレが平常運転だ」
「単純に人に枷して楽しんでるようにしか見えないのですが…」
「大丈夫大丈夫。よく似合ってるよファーストちゃん」
「さてはあなたの差し金ですね坂田さん」

あ、バレた。
ま、念には念をだ。いざとなりゃコイツ手パンで何しでかすか分かんねェしな。

木枷なんて尋問にゃおあつらえむきじゃね?ってノリで沖田くんに進言してみたら野郎ノリノリで手枷用意してくっから、存外ノリで生きてくのも悪かねェなって思いました。アレ、何コレ作文?

「それで、何から話せば良いんでしょう?」
「そうさな、まずはお前さん自身のことから説明してもらおうか」
「悪ィがいろいろ調べさせてもらいやした」
「山崎」
「はい」

土方くんが部屋の隅にいたジミーの名前を呼ぶと、野郎は紙束を机の上に置いた。その紙にゃいろんな情報項目が書いてあったが、不明なことが多すぎたんだろう、何もかもバツ印がついてやがった。

当たり前だ。かぶき町が情報の庭の俺でさえちょっとした気まぐれでコイツの素性探ろうとしても見つからねェんだ。そんな自分のことを調べあげられた紙束を眼前に特に動揺も浮かべないファーストの様子が面白くなかったのか、「ちぇ」と沖田くんが拗ねた。

「免許証も身分証もねェ…。家があんなら素性ぐれェ知れるとも思ったが、身分証の必要ねェところから買いやがったな?違法だぞテメー」
「あはは…すみません。そうですね…自分のことか…何から話そう…」

まぁ戸惑う気持ちもわからんでもねェ。自分のことを話すなんざ滅多にねェだろうからな。

「とりあえず手始めに名前から言っとけば?」
「あ、名前はファースト・ファミリーです。先に名前でそのあとが苗字です」
「ファミリーってェのは旧姓ですかィ?」
「はい?」
「旦那側の苗字かって聞いてんでィ」
「あれー?沖田くん知らねェの?こいつどくし、…いってェエエ!!?」
「シャラップ坂田さん」
「いってェェエ!!!テメっ、何すんだ!!」
「なんかイラっとしたのでつい」

独身、と言いかけたところスネを思っくそ蹴り上げられてのたうち回った。まるで人のことを汚物を見るような眼差しで人のことを見下ろしてなんなんだコイツゥゥウ!!
その横には何かを察したのか意地悪い笑みを浮かべている沖田くん。

「へェ、アンタ今フリーってワケか」
「だからなんなんですか。大人をおちょくるのも大概にした方が良いですよ沖田さん」
「そうさな。ンなら正々堂々とアンタを口説きに行きまさァ」
「「「…はっ?」」」

皆して同じ声を上げる。…え?今、え?どういうこと?

「えーと、アレ?総一郎…くん…?今のセリフ…どういうこと…?」
「旦那、総悟でさァ。俺に構わず続けてくだせェ」

今のセリフどういうことだ?いや、なんかすげェ汗出てきたんだけどなんで。
三人して目を丸くしていると沖田くんはかったるそうに手をヒラヒラさせて続きの話を催促してきた。

いや、なんかすごいここの空気変わっちゃったんだけど。ファーストもなんか言いにくそうなんだけど。

「えっと…続けますね…?ここへ来る前にはアメストリス国というところで軍人兼国家錬金術師をしていました」
「…錬金術ってのは俺らに手枷を作ったあの珍妙な技のことか」
「はい。錬金術は私たちの国ではよく栄えていました。基礎を学べば誰もが扱える術で、私はそのアメストリス国軍の直属の錬金術師…国家錬金術師として働いていました」
「…軍人、ねェ。身体能力の高さに納得がいくやい。旦那は知ってたんで?」
「ん?まぁな。半信半疑だったけどな」
「とまぁ、この辺が私に関する情報になります」

この辺で土方くんが煙草の灰を灰皿に落とす。

「…じゃあ、俺たちが操られていた原因ってのはその錬金術とやらと関係があんのか」
「直接的な関係はないのですが…話せば長くなりますよ?」
「構やしねェ」
「…まず、私はこの国に来る前に自国のある秘密を知りました。それは自国がある連中によって意図的に作られた国家であり……、その連中の野望を叶えるための舞台であることを、です。そして知りすぎた私は錬金術によって生み出された人造人間、ホムンクルスによって一度抹殺されました」
「いやいや抹殺って…生きてんじゃん。お前がっつり生きてんじゃん」
「そうなんですよねェ…。死んだと思ったんですけど、気付いたらこの国にいましたテヘペロ」
「お前なー全然テヘペロの使い方なってないよ。また神楽に仕込まれたのか知らねーけど生み親の日笠陽子でもンな命の危機が迫ったところでテヘペロ使わねーよ。いっぺん本家の使い方見て来いテヘペロ」
「旦那も使い方見て来たほうがいいんじゃねェですかィ?テヘペロ」
「なるほど。この国言葉ってってやっぱり難しいですね。テヘペロ」
「とりあえず語尾に付けりゃいいってモンじゃねェェエエ!!!話進まねェからマジで黙っててくんない!?」


ーーーーー


「んで、口封じのために殺されたハズが気付いたらここに居たと」

デジャヴ。土方くんがまたもや紫煙を吐いた。ここに来てもう二本目だけど大丈夫なのコイツの肺。

「はい。この国に来てから間もない頃に坂田さんと一度会っています」
「…あぁ、あん時か。確かに今思えば血まみれ傷だらけだったな」
「はい。あの時は本当に目が覚めたばかりで状況が全く読めず…、そんな中坂田さんに原付でひき逃げされ…」
「ちょっ、待て待て待てェェエエ!!誤解されるような言い方すんじゃねェ!それに逃げたのはおーまーえー!!」
「しつこく付きまとって来ておいて何を言ってるんですかストーカー」
「旦那ァ、アンタにも枷がいるみてェですねィ」
「万事屋…、鉄製と木製どちらが好みだ。この際だ、選ばせてやるよ」
「どちらにしろ俺捕まっちゃうの!?そんなことある!?」

ガチャンと小切れの良い音が手元で鳴って項垂れた。いや、だからなんで俺まで。おかしいだろ。誰か一話から読み直してくんない。銀さん無実なの誰か証明してくれない。

「私が狙われていると確信したのは…」
「オーイ、俺のことは無視か。ガン無視か」
「旦那のことは後でいくらでも聞いてやりまさァ。牢屋にブチ込んだあとでねィ」
「実は昨日土方さん達に会う前に攘夷志士達に襲われてたんです」
「!…確かに昨日は攘夷浪士が暴れている通報が入ったが…お前らが関わっていたのか」
「はい…すみません。…それで、その中の1人が私のフルネームを口にしました」
「そいつァひょっとして…」

察しの良い沖田さんが真っ先に反応した。私はそのセリフに小さく頷く。

「私はこの国ではファミリーネーム…いわゆる苗字は一度も名乗ったはずがないんですよ…」
「そうか。じゃぁそれを知ってるのはそのアメストリス国の関係者ってことか。だからテメーが狙われてるかもしれねェって考えに至ったワケか。」
「はい」
「まァ妥当だな」

土方くんががため息と共にまた紫煙を吐く。空間に溶け込む胸糞わりィソレをなんとなくぼんやり見つめると目の前にいた沖田くんがパイプ椅子に持たれた音が響いた。両手を頭の後ろで組んでぼんやり天井を眺めてやがる。

「しっかし解せませんね。黒幕が他人を操る能力があるってんなら、その黒幕は相当腕が立つんじゃねェんですかィ?直接ファーストさんのタマを狙いにこねェで何で回りくどいことしてくるってんですかィ」
「それなんですが…多分黒幕はホムンクルスなんです。アレは昨日の引き際にまるで私を探していたかのようなセリフを言っていました。…殺すのが目的ではないみたいです」
「なら余計に分からねェですね。生きてりゃ半殺しにして連れて帰ればいいんじゃねェと違いますかィ?」
「…確かに」
「そのホムンクルスとやらに狙われてる理由は心当たりあんのか」
「ーー扉を開けた人間っつってたな」
「…はい」

俺が一番知りてェことだった。

俺のセリフにほんの僅かにファーストの瞳が揺らいだのが分かったが、動揺を悟られまいとしているんだろう。…っんとに気丈な女だ。元軍人なだけのことはある。

「ソレが一番知りたいんだけどなー俺」

躊躇っているのか、視線を自分の手元に落とし一度瞳を伏せてから顔を上げた。あ、まつ毛長ェな。

「…土方さんと沖田さんは生き返らせたいと思う人はいますか」

ンな話してる時に不謹慎な話だろうが、コイツのこの眼が意外に気に入ってることに気付いた。

何編も地獄を見てきては這い上がってきたであろう眼に真っ直ぐ見られるとゾクリと背筋が粟立つような感覚に襲われる。さて、その眼が見て来た景色を聞かせてもらうとするか。


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