一生のうち厠で過ごす時間は約三年

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「ぎもぢわるい…うぇっ……」

コイツのこんなこと言ってるの、一体何度見たことやら。宙ぶらりんになってるファーストを見上げながらふとそんなことを思う。こんなえずくヒロイン良いの?

「オィイイイイ総悟ォオオ!?何してんの!?お前ホント何してんの!?名案とか言うから黙って従ってりゃおまっ…これ何ィィ!?」

沖田くんの言う名案てヤツがコレだ。ファーストは今ロープに縛られた上に橋の欄干から宙吊りにされてやがる。
町行く人が俺たちとファーストを見てくけどコレ…大丈夫だよね?通報されたりしないよね?

「土方さーん、何って見たら分かるでしょう。宙吊りにしてんでさァ」
「見りゃぁ分かるわ!!俺が聞いてんのそこじゃねェよ!!なんで宙吊りにしてんだっつってんだボケェエ!」
「ファーストになんてことしてるアルかクソガキャアアア!!」
「コイツはホムンクルスの野朗を誘き出すエサでさァ。いつどこで襲ってくんのか分かんねェならいつ襲われてもおかしくない状況を作っちまうんでィ」
「何さも俺天才みたいなトーンなんですか!?名案もへったくれもありませんよ沖田さん!」
「これでおびき出せること間違いなしでさァ」
「うぶっ……うっぷ」
「だからなんか違うモン出ちゃうってェエエエ!!夢小説のヒロインにあるまじき事態引き起こしかねませんよォオオ!?」
「おーいファースト。空見ておきなせェ。お前は今広い広い大空を飛んでるんでさァ。時々ふわっとするけど気持ちいいだろィ?」
「最低だァァアアアこの人吐き気催してる人に追い討ちかけてきたァァ!!ファーストさん大丈夫ですか!?今降ろしに行きますね!」
「ありゃ聞こえてねーよ新八。俺より目が死んでらァ」

ありゃ悟りの域に達してる目だな。新八がファーストを助けに行くべく土手へと上がる階段へと走っていった。

「しっかしホントにこんなモンでおびき出せもんかよ?」
「まんまと引っかかってくれたみたいでさァ旦那」
「!」
「銀ちゃん!」

一瞬聞こえた真剣を鞘から引き抜く音に後ろを振り返ると切っ先がギリギリ目の前を掠めた。

「な、なんなんアルか急に…!」
「…オーイ、こいつはいよいよマヨネーズの過剰摂取でホルモンバランス崩れたんじゃねェの?」
「マヨネーズとニコチンのどっちのせいかは分かりやせんがね」
「ははっ、言えてらァ」

土方くんが抜いた刀を構えるのに合わせて俺たちも得物を構えた。さて、どうしたもんか。

「けど、心配にゃ及びませんぜ旦那」
「あん?」

顔を見なくても隣にいるコイツが笑ったのがわかった。どーいうこった、そいつを口にする前に土方くんが先に動いた。

「うぉおおおおお!!!」
「!」

力んだ腕で何をするかと思えばテメーでテメーの頬をぶん殴りやがった。
暫く俯いていた土方くんはぴくりと指先を動かすとようやく顔を上げた。それから懐から煙草を取り出しふかし始める。

「…チッ、俺の身体乗っとんなァ百万年早ェんだよ」
「おま、正気取り戻したのか!」
「さっすが土方さん。妖刀をねじ伏せただけのことはありまさァ」
「…チッ、気にくわねェが自我を取り戻すコツは掴んだ」
「マジか」
「旦那覚えてないんですかィ?アンタも自分で自分の顔殴ったじゃないですか」
「…あ?そうだっけ?」
「無自覚ですか…まぁいいや。俺が思うに自我を取り戻すにゃ二つ。一つは衝撃です。完全に自我が乗っ取られるまでに少し時間があるはずなんで、そん時に自分に衝撃を与えることで未然に防ぐって方法でさァ。んで、もう一つは、」

四人が一斉に呼吸を止めた。今まで感じたことのねェ気配が一つ。

「…で、もう一つは何だって?」
「…テメーの魂(タマ)が震えるような、精神的衝撃も効くらしいでさァ。前に俺がそれで自我取り戻せやした」
「…はっ、テメーの魂(タマ)なんざより股間のタマの方が先にビビって震えちまいそうだわ」

気配の方を振り返るとそこにゃ神楽とさほど年の変わらねェガキが佇んでいた。

「ーーサムライってのは厄介らしいや」

てっきりあの銀時計の蓋裏にあった写真の野郎を想像していたが全くの別人だ。

「…」

なんでだ。なんで指一つも動かせねェ?操られてるワケじゃねェ。

「…ふぅ…」

既に四方に真剣を突きつけられているような重く鋭い威圧感に指一つ動かせなくなっちまっていた。言われなくても本能が「コイツがホムンクルスだ」と云う。


「ーー早く逃げてください!!」


ファーストのはっきりと通る声が身体の強張りを解かす。アイツのお陰で金縛りみてーなのが解けちまうたぁ…。思わず苦笑いながら木刀を構え直した。

「オイオイまんまとエサに釣られてやってきてくれたぜ」
「やっすいエサにしては随分大物が引っかかってくれたモンだな」
「捌き方はオリジナルで良いですかィ?俺ァ手順てモンを知りやせん」

ホムンクルスの片眉が上がるのを見た瞬間手に力が入る。天人なら散々ぶった斬ってきたが…不死身となりゃちったぁ俺も気構えが変わってくるらしい。

「…違う」
「あ?」
「そこにあったら食べるのが僕のモットーだ。たとえそれが拾い食いになろうともな」
「それがエサだっつってんだよ。何気拾い食いしてたのかよお前。腹下しても知らねェぞ」
「お前まんまとひっかかってるアルよ」
「で、お前さんは何モンだ」
「君たちこそ何者だ」
「お前こそ何者アルかァアアごふぁ!?」
「うるせェんだよチャイナァア!黙ってろィ!」
「あんだとコルァ!チビって身動き一つ取れなかったオメーに言われたくねーアルよ!」
「てんめっ、それ言うってんならさてはお前も…!」
「お前ら二人ともうるせーんだよォオ!!」

土方くんのキレッキレのツッコミ手刀が二人の頭にめり込んだ。ついいつものノリでベラベラ食っちゃべっちまったが仕切り直して話を元に戻す。

「で、お前さんがホムンクルス?」
「あ、僕のこと知ってるの?そうだよ、ホムンクルスのヴァニティさ」
「え?ごめ、今なんて?ヴェンキィ?便器?」
「あぁ拾い食いして腹下して便器とケツが離れたくなったって噂のヴェンキィさんですかィ」
「君たち…」

ヤツの端正な顔が怪訝そうに目を細める。それに合わせて得物を持ち上げた。

来るか?

「便器を愚弄する気かぁァアア!」
「いや愚弄されてんのオメーだドアホォオオ!!つーかテメーらさっきから黙って聞いてりゃ戦場でなんつー話してんだよ!」
「あの、僕最近なんだか便秘気味なんで逆にお腹下せるものあれば助かります」
「下してるどころか便秘だったアルかアイツ!銀ちゃんおすすめの下剤ないアルか!?可哀相だよ!ウンコ腹に溜めたまま過ごすのはなんだか可哀相ネ!」
「…あー、そうさなァ。便秘にゃコーラックあたりなんかがおすすめだな俺ァ」
「もうやだ新八くん戻ってきて。俺一人でこんな量のボケ捌ききれねェ」
「まぁまぁ土方くんそんな気落ちしなさんな」
「ベンキーさんや、ここは一つ俺らの中で誰が一番ウンコのキレ悪ィか競い合いやせん?」
「この国ではそういう勝負がはやってるのかい?」

ホムンクルスが笑うのに合わせてこちらも苦笑いした。さァ、緞帳は上がった。

もう後には引けねェ。


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