公開プロポーズ、フラれたら一生生き地獄
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最悪だ!
本当に最悪のタイミングでホムンクルスが来た。新八さんに引き上げられながら眼下でホムンクルスと対峙する坂田さん達から瞬きもせずに目を離さないでいる。お願いだから何もしないで…!
「うえっぷ…あぁあ気持ち悪い新八さんお願いだから早くあげてくださっ…うぶっ…!」
「今に引き上げますからもう少し耐えてくださいファーストさん!」
「うっ…」
ぐん、と引き上げられるたびに込み上げる吐き気を抑えながら、この戦いが無事済んだら沖田さんを一回シメようと心に決めた。
「ーーファースト」
私の名前を読んだ声の持ち主はすぐに誰だか分かった。振り向くや否、頭上に伸びていたロープが大きく揺れて、私の身体はそのまま地面へと落下していく。
「ファースト!大丈夫アルか!」
「あ、ありがとうございます神楽さん…!」
神楽さんに咄嗟に助けてもらったおかげて地面にぺっしゃんこは免れ、ロープを解いてもらってから坂田さんの背中に自分の背を向ける。私たちはまさに今ホムンクルスと…、ジンの間に囲まれてしまっている。
「…ジ、ン」
「よ。昨日ぶり」
清々しいくらいに笑みを浮かべて片手をあげるジンに、本当は生きていたのかとさえ思えてくる。アレは一体なんだというのだ。
「う、わっ!?」
突然腕を引っ掴まれて後ろに引き摺り込まれたかと思えば、今度はホムンクルスと対峙する向きに変わった。背には相変わらず坂田さんがいる。私を引っ張ったのは彼のようだった。
「さ…坂田さん…?」
「汚れ役にゃ慣れてらァ」
「旦那、俺ァ随分昔からどろどろに汚れてますぜ」
坂田さんの隣に沖田さんが並んだ。まさか、二人でジンを相手するとでも言うのだろうか。
「よォ元婚約者さん」
「ん?お前誰?」
「お前こんな良い女遺しておっ死んだらしいな」
「あぁ、ファーストのこと?だろう?俺には勿体ねェくらいの女だ」
「じゃあ俺にくんない?」
「旦那ァそいつはズリィや。俺も名乗りあげまさァ」
「…ははっ………ふざけろよ」
ワントーン下がったジンの声。それは開戦の合図だった。
「うぉらァァアアア!!」
どちらからともなく駆け出す坂田さんと沖田さん…それからジン。賢者の石を持つジンが相手だと正直気掛かりで仕方ないが、私も私で片付けなければならない輩がいるのを思い直して前を見据えた。隣に立つ土方さんが煙草を吐き捨て、足で踏み潰す。
「アレがホムンクルスで間違いなさそうだな」
「はい。気をつけてください」
「僕、ファーストとサシで話がしたいんだよね。そこのおにーさん、悪いんだけど二人きりにさせてもらえないかなぁ?」
「はんっ、女口説くつもりなら他人の目があるところにしとけ。男気を見せつけられて良い事尽くしだ」
「僕はシャイだからね。意地でも二人きりにさせてもらうよ」
ホムンクルスがニタリと笑った瞬間、おびただしい数の殺気を感じ取った。見上げると土手沿いに立ち並ぶのは刀を持ったサムライたちの姿。
「攘夷志士か…!」
「コイツらがなんなのかは知らないけど剣持ってたからね、僕のおもちゃにさせてもらったよ」
「…、奴らは俺に任せろ!お前はアイツをやれ!」
「ひ、土方さん!」
「心配いらないヨ。私もついてるアル。ファーストはベンピーを頼むアル」
「いや、アンジーの間違いだろテメー」
「いやだから僕ヴァニティだってば。確かに悪役っぽい顔してるけど、僕ヴァニティ」
土方さんと神楽さんが同時に砂利を蹴った。新八さんはもう既に土手沿いの攘夷志士達を倒しに行っている。
完璧に皆を巻き込む形となってしまったことに憂い目を伏せた。けれどここは彼らを信じるほかない。再び顔を上げ、目の前にいるホムンクルスと向かい合った。
「君のその眼…慧眼の名を与えられただけのことはあるね。ねじ伏せたくなるようないい眼をしてる」
「目的は?」
「短気は損気とも言うよ慧眼の。改めて挨拶しよう…僕は虚飾のホムンクルス、ヴァニティ」
「虚飾…?ホムンクルスは七つの大罪から生まれたと聞きましたが」
「惜しいね…。僕らはどこかのポンコツ宗教から生まれた罪ではなく、お父様の感情を切り離して生まれた人間。即ち僕はお父様の虚飾の感情ということだ」
「全く…ただでさえあなた方ホムンクルスの存在が信じがたい物だと云うのに…感情から生まれた物体なんて…」
「ありえないことなんてありえないんだよ。クリード兄さんの口癖さ」
「どうでもいいものはどうでもいいです。それで、目的は」
「あはっ、それにしても後ろのもじゃもじゃと小僧、アンタがジンとやり合うのに躊躇うのを知ってるのかい?斬られ役に買って出てくれたみたいだね」
これ以上は話をしても無駄なのかもしれない。小さくため息を吐いた。
「…軍属時代…一時期ある任務を任せられたことがありました」
「ん?」
両手を合わせて足元の砂利に手を触れ、軍時代に使っていたものと同じ刀を錬成した。まさかこんな国に来てまでコレを手にする日が来ることになるとは。
「ーーそれも拷問官!…ブランクあるので加減できるか分かりませんが、とっ捕まえて目的を吐かせます」
「…ははっ、一度くらいは手合わせしてみたかったんだよね!」
緞帳は上がった。もう後には引けない。
ーーーーー
「旦那ァ!見惚れて斬られるなんざやめてくだせェよ、クソダサいんで」
「ふざけろよ沖田くん、俺がンなタマかよ!」
ファーストがついにホムンクルスに仕掛けたのを視界の端で見た。
戦況としては俺と沖田くんとファーストの元婚約者組に新八と土方くんと神楽の攘夷志士組、それからファーストとホムンクルスの三つに分かれた。
「!…ははっ、アイツ軍属時代の刀錬成してらァ」
「俺たち二人相手でも余裕ですかィ…バケモンが」
ファーストとホムンクルスたちの方をよそ見する野郎の手には二つの刀。俺と沖田くんの二人の攻撃を涼しげな顔で薙ぎ払うのが気にくわなくて仕方がねェ。随分ナメられたモンだ。
木刀で叩き折った筈の刀が、電撃を浴びては再度復活するなんていうマジックショーが繰り広げられていてうんざりしてきた。
「ーーチッ、なんで斬って斬って斬りまくってんのに次から次へと剣が出てくんだよ!」
「さっきから得物ばっかり狙いやがって。ちゃーんとコッチ狙いなよ」
「…後悔すんじゃねェよ」
「オイ沖田くん乗んじゃねェ」
野郎は笑みを浮かべながら己の心臓を指差す。完全な挑発だ。
「アイツ綺麗に戦うよなァ。戦地に舞う踊子だなんて……たった今俺が付けたんだけどどう?」
「そう呼ばれてたのかと思ったら今かよ!随分適当キャラだなオイィイイ!!しかも同意求めてくんなァアア」
「つれないねェおサムライさんとやらは」
「元カノの話する野郎は万人受けしねェよ」
「安心しな。少なくとも野郎にモテるつもりはねェ」
双剣を逆手に持ち替えた野郎に構える。さて、軍人と侍が本気でぶつかりゃ何が起こるか分かったもんじゃねェな。
「んで、お前ら何だったっけ。ファースト狙い?そんなんで良く俺に挑んできたモンだわ」
「口が減らねェ野郎だ。亡霊は大人しく地に還りやがれってんでィ」
沖田くんの剣撃に合わせて木刀を振りかざす。双剣とは言えそれを操作する身体は一つしかねェんだ。二人同時の攻撃に脳みその処理が追いつくはずもねェ。
「あぁ、そうさせてもらうよ」
「「!?」」
途端に目の前に電撃が光り、足元の地面がボコボコに膨れ始めた。この感じ…ファーストのあの錬成とかいうやつと似てる…!
「…ぐ、…っくそ…っ!」
「あ、間髪のところで避けたんだ?すごい反射神経じゃん」
「ナメた真似しやがって…!」
地面から飛び出してきた刺を二人して斬り倒しながら避けることでなんとか串刺しは免れた。
「じゃあ、コレはどう?」
目の前の空気がチリッと一瞬なってから焔が広がった。
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