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「坂田さん!沖田さん!」
突然後方で爆発が起こった。
思わずあそこにいた筈の二人を呼んだが返事はない。一体何が起こったのか…、様子を見ようにも飛びかかるホムンクルスを薙ぎ払うのに手一杯だった。
「よそ見してる場合?」
「!」
足元で一瞬影が揺らいだかと思うと途端に身体が動かなくなった。目だけ凝らせばホムンクルスの足元にある影が私の影へと伸びている。
この技は…、
「スロウスからの遠征の餞別だよ」
「…スロウス…!?」
「なぁ、慧眼の。君は考えたことあるか?」
「…!」
「お前の愛しい愛しいアレが死んだ理由だよ」
ジンが死んだ……理由?今更それがなんだというのか。
ゆっくりと此方へ歩み寄るホムンクルスの足元でパキンと錬成反応が起こった。足元から徐々に胴へと登り始めるその変化の仕方には見覚えがある。ソレは嫉妬の言葉がついたホムンクルスが成す技の筈だった。
「まさか単純に自分に向けられた鉛玉を庇って死んだと思ってた?能天気なヤツだね」
「なに、を……言っ…」
視界と聴覚から入る情報に感情が錯綜する。
目にはホムンクルスの足元が軍服の足元に変化していく様子が見え、耳には今までの自分が見てきたことを全て否定する言葉が入る。
「ちゃーんと鉛玉の品番を確認した?」
なぜそんなことができる。いやだ、その先を語るな。
「キングブラッドレイが持つ銃の品番も確認した?」
ホムンクルスが目の前に立つや否、私の顔を掴み上げニタリと笑った顔はジンだった。
「聞くなファースト!!」
後ろから聞こえた坂田さんの声に一瞬我に返ったが遅かった。顔から首根を掴まれて喉元の圧迫感に顔を歪める。
「死体は回収した?届いた骨は本当にアレのものだったか確認した?」
「は… 待て、……はっ……はぁっ…」
「あぁ、周りくどかったかな。そういえば君は気が短い方だったね。単刀直入に言うよ、
アレが死んだ理由がお前に人体錬成をさせるために仕向けたことだと知ったらどうする?」
「ーー!!」
片手を後ろに引き下げたジンの格好をするホムンクルスのその手、その指先には鋭く鋭利な爪。それを見た瞬間痛みを覚悟した。
「ーー耳を貸すなファースト」
力強く身体を押されて鈍く嫌な音が耳に残った。目の前で鮮血が散るその光景は、昔見たあの日ジンが私の目の前で撃たれたそれと重なって見えた。
「さか、たさん…?」
本来私が串刺しにされていたであろう場所に立っていたのは坂田さんだった。一気に血の気が引いた。
「ん?違うの刺しちゃったな」
「坂田さん!!!」
「うるせェ…聞こえてら…」
「なんで、こんな…っ!」
ホムンクルスの爪先が抜かれ、坂田さんが崩れ落ちるのを慌てて抱きとめた。息はある。急所は外れている。…早くこの人の手当てをしなければ…!浅くなる呼吸を抑えて一度深呼吸してから辺りを見渡す。誰かに渡せればいいものの、皆眼前の敵に精一杯そうだった。
「なんかアレだね?そのもじゃもじゃが死んだらまた人体錬成をやりそうな匂いがするね?いっそのことぶっ殺しちゃう?」
ホムンクルスの格好がジンから元あった少年の形に変わった。スロウスの影といい、エンヴィーの変身能力、それにラストの矛まで…。
コレは一体なんだというのか…信じがたい光景を目の前にして唖然としていると坂田さんが鼻で笑った。
「げほっ……残念だなベッキーさんよォ」
「…だからヴァニティだってば」
「俺ァ死なねェさ。どっかの馬鹿みてェに惚れた女残して逝けるほど腐っちゃいねェんだよ」
「坂田…さん…何言って…、」
背後で爆音が響いた。
恐る恐る後ろを振り返ると双剣を手に突っ立つジンに、その足元に転がるのは血だらけの沖田さん。それから土手沿いを見上げると攘夷志士たちを相手に苦戦を強いられている土方さん達の姿。
「……」
彼らの姿を見るとそれまでざわついていた心が一気に落ち着いて静まり返るような不思議な感覚に襲われた。着ていた作務衣を坂田さんの身体にキツく巻き止血すると、立ち上がって一歩前に出ながら手袋を外す。
「オイ…」
「ここまで付き合っていただいて…ありがとうございました」
「ファースト…何する気だ…」
あなた方と出会えて良かったです、そんな言葉を飲み込んで両手を合わせると頬に何かが伝ったような気がした。
ーーーーー
鳴り響く轟音が静まり返った後、ホムンクルスは辺りを見渡して一言。
「…何をした?」
河原に円筒状の塀が現れた事で錬金術を見たことがない人には驚かれるだろうな、なんてまるで他人事のように地面から手を離す。
ーー個人的には過去最大規模の錬金術だった。
坂田さんと沖田さんを塀の外へ追い出し、ジンをとっ捕まえて引き寄せ、あとは私たち三人を囲うようにして円筒状の分厚い壁を作り、ほかの人たちと私たちを完全に遮断した。私たちの様子を見ているのは、お天道様だけである。
塀の外から聞こえてくる坂田さんの罵声を聞かないフリしていると、ホムンクルスが笑った。
「あのもじゃもじゃ、怒ってるっぽいよ」
「あなたは私と話がしたかったんでしょう?」
「僕にはとても君が冷静に話ができるような精神状態とは思えないけどね」
「ま、いいか」ホムンクルスはどうでもいいかのように肩を竦め、壁に手を当てると何かを思慮するかのように宙を眺めた。
それから何かに気付いたのだろう、こちら見る。
「…いつから気付いてた?」
「正直ただの勘でしたが…あなたのその発言でたった今確信に変わりました」
「ふーん?」
不意にガーゼが貼られている自分の腕を見た。このガーゼの下にあるのは沖田さんに噛まれたときの噛み跡だ。
「最初に私に接触してきたサムライ達の人間離れした容姿、それから沖田さんと坂田さんに噛みつかれた時からずっと気になってたんです」
「へえ」
「直接触れたわけでもないのに人間の身体を乗っとるなんて……。理論的に考えられる音も匂いも特別変なものを感じられなかったとすれば、超音波の類しか思えない。ホムンクルスなんて名乗っていますが…元はヴァンパイアかそれ系から出来ているんじゃないですか?」
円筒塀の中でホムンクルスの笑い声がよく響いた。目に涙を浮かべながら大笑いするソレは肯定してもよさそうに見える。
「全く…ラースのおじさんも慧眼なんてよく付けたもんだよ。…そうさ、僕は他のポンコツ兄弟とは違うんだ。ご明察通り、ヴァンパイアに賢者の石を流し込まれたホムンクルスさ」
ホムンクルスは己の腹に両手を差し込むと、腹の中を広げるようにして中を見せつけてきた。中心に居座る真っ赤な物体に心臓が強く脈打った。
…ソレが……ソレが奴らホムンクルスの不死身の訳、もとい弱点というわけらしい。
「元々僕らヴァンパイアが放つ超音波は獲物を気絶させたり縄張りアピールとして使われていたんだ。でも賢者の石のお陰で少しは人間が操ることができるようになった。ただヴァンパイアの特性上、おまけで吸血衝動がついてくるらしいけどね…」
吸血衝動は嫌というくらいにこの身体に叩き込まれていたので何も驚きはしなかったが、やはり頭は抱えた。正直非現実的なことは好きじゃないのにな。
「全く…こーんな分厚い壁作られたんじゃあ届かないね…。あのおもちゃ共も今頃正気に戻っちゃってるかもしれないなぁ、勿体ない」
「…半分は推測だったのでそうでなければいいと思ってましたが…。賢者の石は…本当に私たちの理屈をはるか上回る物質らしい」
「知ってるよ。鋼の兄弟も君も喉から手が出るほど欲しいってね。無くした物を取り返すために…ね?」
「…」
「図星?お父様に頼んで用意してもらおうか?」
「守れない約束はするんじゃないとお父様に言われたのでは?」
ホムンクルスは薄く笑うだけだった。あちらさんも図星なようで、返事の代わりに鋭い爪が伸びてきた。それを避けて反撃に移る。その合間にジンを盗み見するが、自身の身体に巻き付く錬成物の枷から抜け出すのに苦戦しているようだった。その方が都合が良い。枷を壊される前に始末するしかない。
「この際だからもう単刀直入に言うよ、僕と元の世界に戻ってもらうよ。慧眼の錬金術師さん」
「!…元の世界?」
「そ。実はスロウス兄さんの影は不安定でね。ごく稀に別世界へと落ちる時空の歪みが生まれることがあるんだ。本当はスロウス兄さんの影によって消される筈だった君は、まさにその時空の歪みの狭間に落ちてこの世界にやってきたってワケ」
「まさか…」
「言っただろ?ありえないことはありえない。んで、君が時空の狭間に落ちてから間もない頃、向こうの世界で人柱が足りないことに気づいてね…回収係にこうして僕が駆り出されたってワケ。その遠征の餞別としてほかの兄弟の能力をもらってね、ラストおばさんの能力とかも使えるんだ」
伸びてきた爪を避ける。餞別、の意味がようやく分かった。つまりこのホムンクルスの体内には他の七人分の能力が詰まっているというわけか?まだ三人分の能力しか見ていないがそういうことだろう。なんとも厄介なものが来てしまった。
「ジンは…ジンは何故」
「愚図る子どもにはおもちゃが必要だろう?帰りたくなるおもちゃを持ってきただけの話さ」
ホムンクルスの矛先がジンの方に伸びると、錬成物が粉々に砕けた。
「…んま、大人しく一緒に帰ろうぜファースト」
私とホムンクルスの間にジンが割り込む。元恋人と刀を交えるというのは想像以上にやりづらいことこの上なかった。最初の時に坂田さんが私と入れ替わってくれたありがたみが今更身にしみる。
けれど、
「違う!!!あなたはジンじゃない!!!」
自分に言い聞かせるように声を張り上げた。
持っていた軍刀を捨て、両手を合わせながらジンの懐に入り込みすぐさまその胸に右手を当てると一瞬錬成反応が起こる。やや間があってからジンの身体は地面へと倒れた。その一連の流れを見ていたホムンクルスが空笑いをした。
「ははっ…馬鹿な…!何をした…!?まさかまた恋人を殺したっていうのか…!?」
よっぽど計算外だったのだろう。動揺が隠しきれていないのが見てわかる。
「殺してまでは…いませんよ…。生体錬成で手足の腱を断たせてもらいました。コレはもう動けない」
地面に倒れたまま身じろぎするジンを見下ろす。賢者の石で修復される前にもう一度枷を作り直してから立ち上がった。
「虚飾のホムンクルス…でしたっけ?…また上手い名前のホムンクルスが生まれましたね」
「なん…だと?」
「スロウスの影の能力。エンヴィーの変身能力。ラストの矛。…他の兄弟たちの能力があるのかどうかは知りませんが…虚飾の名によくお似合いです」
「なんだと…!」
自分でもたまに思うことがある。慧眼の錬金術師…なんと皮肉な名前を付けられたのだろうと。
「本物を味わった私には分かる」
「やめろ…」
「あなたのソレは他の兄弟たちの能力を寄せ集めたただの虚飾……つまりはハリボテ、ですね」
「やめろォオオオオオ!!!」
激昂に身を任せて突如突きつけられた爪先を避けられずに右腕が刺され、次の相手の動きに対処を考える間もなく相次いで片手の爪が振り下ろされるのを見上げた刹那、視界の端で銀が駆け抜けた。
「おっ、便秘解消されたか?」
ホムンクルスの爪を木刀一本で叩き折ったのは、血まみれの白いサムライだった。
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