世話話はほどほどに要点を先に言おう
◼︎
「じゃ、俺はぼちぼち職務に戻るとします」
坂田さんと入れ替わるようにして沖田さんが席を立ち上がった。
「旦那。いけやせんよ、女呼ぶんなら居留守使わなきゃ」
「はァ?………はァアア!?」
すれ違い様に沖田さんが何やら坂田さんに耳打ちをしたようだけれど、私には聞こえなかった。一言目は心底意味が分からないと言いたげに素っ頓狂な声を上げた坂田さんが、二度目には何かを察したのか、私を一瞥した後にまた意味のわからない声を上げて遠ざかる沖田さんの背に向かって「誤解だっつの!!」と叫んだ。だから何が?
「とりあえず座ってください坂田さん。他のお客さんに迷惑です」
「あ…あぁ…」
むしろなぜ坂田さんはさっきからそんなにテンパっているのだろうか。
「まぁ確かに天パですけど」
「なんで急に悪口?」
渋々着席した坂田さんから不意に香ってきた女性の香りにまた身体のどこかが痛んだ気がした。機械鎧の付け根でも痛んだのだろうか。無意識に付け根を摩ると、それを見た坂田さんが「いてェの?」と聞いてくるので「別に」と答えてコーヒーを一口飲んだ。
坂田さんは沖田さんが手をつけたドリンクとお皿を通路側に押しのけると、「ねーちゃんいちごパフェ一つ」と手を挙げたので即行で「キャンセルで」と私も手を挙げた。
「あのな、一応言っとくけど、さっきの」
「あぁ、早速なんですけど、機械鎧の修理ができそうな修理工房を紹介してもらえませんか?」
「え?あ、うん、それは分かった紹介するわ。でもちょっと待って。まずはだな」
「一応図面なら持っているのでその手の道の人ならそんなに難しい話では無いと思うんです。組み立てくらいなら最悪私がなんとかします。それで、紹介料はおいくらになりますか?」
「ちょっと、ちょっとちょっと!」
「何か?」
「何かってお前…。さっきの怒ってんだろ?居留守使われたの。ちょっとは弁明させろや」
居留守…。
私は坂田さんに居留守を使われたことに怒ってた…のか?思わず顎に手を当てて自分の気持ちを俯瞰してみる。
「あー、さっき家に居たのはお妙な。怪我の手当てでウチまで来てくれてたってワケ」
なんだか違う気がする。でも、ほんの少し苛立っていたのは本当の話だ。一体私はどの辺りに苛立ったというのだろうか。苛立つということはセロトニン不足か?先日の一戦で受けたストレスや疲労は思った以上に大きいものだったかもしれない。
「まぁ確かに新八と神楽は居なかったけどよ、あんなマウンテンゴリラと何かある訳ねェだろ。取って食えるような女じゃねェよ。つーか取る気も起きねェから…って聞いてんの!?ねぇ!?聞いてるの!?」
「えっ、あっ!ハイ!妙さんのマウント取って、」
「いやいやいや待て待て待って。お願いもう一度聞いて三百円あげるから」
坂田さんに全力で口元を抑えられた。
ーーーーー
再度坂田さんに先程万事屋で起こってた出来事についての説明を聞かされ終えたあと。こちらも再度万事屋に依頼する内容を伝えた。
「あーそんなら源外のじーさんのところが良いかもな」
「ゲン…ガイ?」
「そ。あ、字はこうやって書く」
「へぇ源外さん」
ファミレスの紙ナプキンにアンケート用記入用の筆ペンを手にした坂田さんがサラサラと源外の二文字を書き起こした。
「こっから近ェし行くか」
「あ、はい」
ファミレスを後にして数分が経った頃、坂田さんが歩みを止めたので私も止めて目の前にある建物を見上げた。
源外庵と書かれた立派な看板だ。機械を動かす蒸気の音やポンプ音が戸の向こうから漏れていた。
私が建物を見上げているうちに坂田さんが源外さんの名前を呼びながら入っていってしまうので、慌ててその後ろに続いた。
「ーーあん?銀の字か?どうした何の用だつーかこないだの原付のモニター設置費用まだだぞコノヤロー」
「一息で捲し立ててくんなコノヤロー。せっかく人が客連れてきたってんのに」
「あん?逆だぁ?」
源外さんとは思っていた以上に小柄な老人だった。工業用ゴーグルを付けた顔が私の方を見上げたところで名前を名乗る。
「あの、初めまして。私、」
「あんだ、銀の字のコレか」
「そうする予定の子」
「やっぱ他所の修理屋さんでお願いします」
「なんでいなんでい、流行りのツンデレってやつかい」
「いいだろ?やんねェからなクソじじい」
「…お邪魔しましたー」
「あー待った待った!悪ふざけし過ぎました!」
出口を目指して踵を返したら全力で坂田さんに引き止められたので、渋々案内された座敷に着席する。
「んで?何を修理してほしいんだァ?」
「これです」
鞄から機械鎧の図面と壊れてしまった機械鎧を取り出して差し出す。源外さんはむむ、と難しげに顎に手を当てながら機械鎧を覗き込んだ。
「こいつァ…腕か。すげぇな」
「そ。こいつ、右腕がねェんだよ」
右側に居た坂田さんが私の作務衣の袖を取って持ち上げた。布切れだけがそこにある。特別驚くこともなく、右袖を一瞥した源外さんはまた図面と機械鎧を睨めっこをした。
「ふーん」
「できますか?」
「何言ってんでェ、江戸一番の機械技師平賀源外様だぞ。ンなの朝飯前だ」
「ほ、ほんとですか…!」
「ただ、なかなか骨が折れそうな仕事だなコイツァ…。報酬は弾ませてもらおうとするか」
「もちろんです!」
納期は二週間ほしいと言われた。二週間…まぁ、仕方がない。作ってもらえるだけありがたいものだ。承諾の意を見せると、修理依頼書を記入して工房を後にすることにした。
先に出た坂田さんにつられてその後を追うと、後ろから「ねえちゃん」と源外さんから声をかけられた。
「アンタのことはたまから聞いてらァ」
「え?」
「アンタに直された機械共はこぞって幸せそうにしてるってな」
「!」
「同じ作り手同士末永く付き合い頼むよ」
「…はい!」
差し出された手をぎゅっと握った。
「…さっき何話してたんだよ?」
「え?」
「帰る時に源外のじーさんになんか言われてただろ?」
「あぁ、同じ修理屋同士仲良くしましょう、と言った感じですよ」
「ふーん」
興味なさそうに鼻を弄る坂田さんを横目に今日の用事はもう終わったなぁ、とぼんやり考えていると、道の奥に大江戸スーパーの看板が見えた。久々に町まで来たし、大江戸スーパーで買い物してから帰ろうかな。
「じゃあ私はこれで。紹介料はまた請求書下さい」
「は?」
「え?」
「お前どうやって帰るつもり?てか、ウチまで来る時何で来たわけ?まさかポリ公どもの…」
「いや、普通にタクシーで来ましたよ。帰りも拾ってくつもりなので大丈夫です」
「いやいや、金勿体ねェじゃん。いいわ、送る」
「いや、良いです。また吐き気催してご迷惑おかけしたくないので。想像しただけでもうムカムカしてくるので」
「…乗り物酔い余計に酷くなってね?」
ムカムカしてるのはあながち嘘ではない。何が落ち着かないのだ。この人といると。今まではそんなことなかったのに急にムカムカというかイライラというか…。情緒不安定とやらだろうか。女性特有の月の物のせいもあるかもしれないな…食べ物を見直したほうがいいのかもしれない。
「おーい、また考え事ォ?それとも調子悪ィのか?」
目の前でひらひらと掌を振られてハッと我に帰った。なんでもない旨を伝えてさっさとその場を去ろうとすると大きな手に腕を掴まれる。
「う、わっ…」
そのままズンズンと先を歩かれてつんのめるようにして坂田さんの後を歩くと、着いたのは万事屋。階段下にある原付バイクに向かうとさっさとヘルメットを被せられた。
「ん」
「あ……ハイ」
この眼はダメだ。折れるつもりない。それを察すると渋々後ろに跨った。大人しく送られるのが一番賢いと悟った瞬間だった。
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