マウンテンゴリラはマウン取るゴリラ

◼︎


「「えっ……はいィィィイイイ!?」」

背後から坂田さんと土方さんの驚いた声が同時に聞こえたような気がした。気がした、と思うのは私の意識はそちらではなく、目の前に向いていたからだ。

「ファースト…っ」

ぎゅう、と力強く包まれる身体。赤いコートに、太陽に透けて美しく靡く金色の髪が視界の端で揺れる。
バシン、と一瞬だけ小さな、本当に小さな錬成反応の音が聞こえた。

「エ…ド…?」

恐る恐る、思い浮かぶ人物の名前を呼べば、拘束してくる腕が一層強まる。つまり、それは肯定であることを意味すると悟った。

「エド…ワード?」

信じられずに再度彼の名を呼べば、私を抱きしめてくる人物は耳元で軽く安堵のため息をつき、ゆっくりと私の身体を剥がした。
肩に手を置かれ、ゆっくりと見上げると見事なくらいに美しく揺れる髪と同じ金色の瞳と目が合い、その人は優しく細めた。

「あぁ、俺だ」
「う、そ」
「大マジだっつの。コレでも信じらんねーかよ」
「いたたたたっ」

ぐに、と頬を摘まれて「分かった!分かった!」と声を上げると、摘まれた頬を優しく撫ぜられる。信じられないけど、これは間違いなく現実だ。

「エド……背…伸びてないですね…」
「はぁ!?おまっ…!いきなりそれ!?どっんだけ俺が心配したと思って…!!つーか、おまえ腕!腕どうしたんだよ!?一体何が…っどわぁ!?」

優しい眼差しで私を見ていたエドが、私の腕に驚き、それから私の上にチラリと一瞬視線を移したかと思えば慌ててその場から身を翻し、私と距離を取った。久しぶりに会ったというのに表情がコロコロ変わって忙しない奴だな、と呑気に思っていれば目の前が粉塵で見えにくくなった。驚きつつも手で粉塵を払い、そこにいた人の姿を見てまたもや驚いた。

「…さ、坂田さんに土方さん!?」
「オイオイ、なんつー胸糞悪ィモン見せつけてくれちゃってんのクソガキィ」
「迷子か?迷子ならお巡りさんが手厚く保護歓迎しちゃうよー?」

エドが立っていた場所は、坂田さんと土方さんの得物によって陥没。地面に食い込んでいる刀からして、何故か本気でエドのことを仕留めに行ったのだろうと伺えた。さらにあろうことか坂田さんはそのままエドに向かって駆け出す。

「な、なんなんだよおっさん!!」
「だぁれがおっさんだァ!まだ加齢臭出てねェから多分!!つーかテメー金髪サラサラヘアーとかマジでなんなの!?銀さんに対して喧嘩売ってるようにしか見えねーんだけどコレ。お前マジで今すぐ天パになれ。五秒待ってやるクソチビ」

「あ」と思った時には既に遅かった。

ぶちんと何かが切れる音がするや否、エドは目元を吊り上げれば両手を合わせ、右手の機械鎧に手を翳すと腕が刃に変形した。このまま放っておくのは流石に不味い。

「どぉあああれが豆粒クソチビじゃぁあああ!!」
「あぁ!?なんだこのクソガキ!!ファーストと同じタイプかよォ!?」

激しい衝突音に顔が引きつる。
どうしよう、と土方さんの方を見上げると、彼はもう二人に向かって足を進めていた。あぁ、良かった、止めてくれるのか。土方さんになら任せても良さそ、

「クソガキィィ!!銃刀法違反で逮捕すんぞコルァアア!!」

前言撤回。頭を抱えた。


ーーーーー


「「「ずびばぜんでじだ…!」」」
「解れば良いんですよ、解れば」

五分後には片頬をパンパンに腫らした三人、坂田さん、土方さん、エドを真選組の庭先に正座で座らせた。
状況が読めずに混乱している近藤局長が「えっ、えっ、何があったの?ファーストさんが帰ってから何があったの総悟」と背後で沖田さんに確認を取っている声が聞こえた。…すみません。
あまりにも酷くぎゃんぎゃんと騒ぐ男たちに地面から拳を錬成し、それぞれの頬をぶん殴ることで抑制に成功させた訳である。

「大体なんなんだよこのクソガキャ。いきなり馴れ馴れしくファーストにひっつきやがって」
「ハン、ガキに嫉妬たァ見苦しいな万事屋」
「ア゛ァン!?ニコチンで目もイカれたかコノヤロー!どの辺が嫉妬だコラァ!マヨネーズでも啜ってろマヨ中が」
「ニコチンなめんじゃねーぞ!つーか今しれっとマヨネーズのことディスった?お前マヨネーズのこと馬鹿にしたかぁ!?」
「うるせーんだよ!どっちかっつーとニコチン野朗言われたことにキレろよ!」
「ニコチンよりマヨ中呼ばわりしたこと撤回しやがれ!」
「事実言ったまでだろーがマヨチン!!」
「あっ、お前今言ったな!?マヨネーズの悪口言ったな!?」
「……なぁ、ファースト。このおっさんたち何…」

隣で騒ぐ坂田さんと土方さんを訝しげに見るエド。とりあえず簡単にと説明をしようとすると、彼の喉元に一刀の刀が音もなく現れた。

「!」
「テメーこそ何モンでィ。ここが真選組と知っての狼藉かィ?」
「んだァ?シンセングミィ?聞いたこっちゃねーな。つーかアンタさ、誰にそれやってんのか分かってんの?」
「…は?」
「鋼の錬金術師って聞いたことないわけ?」
「!」

エドが刀身を両手で挟むと、ばちんと錬成音が響き渡り、沖田さんの持つ刀がぐにゃりと曲がってしまった。…なんでこうも血の気が盛んな人が多いのか…。

「エド」
「あん?」
「それ、直してください」
「はァ!?だってこいつ俺に刃物………ハイ、直します」

私の表情から何かを悟ったらしい。エドは素直に沖田さんの刀を元に戻す。エドや坂田さんたちから事情を説明して欲しそうな眼差しを受けて、一度考える。

「うーん、何から説明したらいいのか…。まずエド、この人たちは真選組と言って、アメストリスでいうと憲兵や軍みたいな人たちです」
「…まぁ格好見りゃ察するけどさ、……なんか一人違う感じの毛玉のおっさんいるけど?」
「んだとテメェ…喧嘩やるってんならガキでも容赦しねェぞコラァ。こちとら毎週ジャンプ読んでっからよォ、見た目はおっさんでも心はまだまだ少年なんだよ。人は見た目で判断しちゃいけねェって教わんなかったか?ガンガン系主人公みてェなツラしやがってコノヤロー」
「出会い頭から人のこと見た目で判断してきてんのはそっちじゃねーかよおっさん」
「落ち着いてください…!この人は坂田さん。何でも屋をやってる人です」
「何でも屋ァ?錬金術でもやってんのおっさん」
「だから誰がおっさんだっつってんだクソチビィ…!」
「(ぶちん)」

あぁもう話が進まない…。噛みつき合う坂田さんとエドはもう放置だ。この国で錬金術が発達していないことは追々話そう。

「皆さん、あの人はエド…エドワード・エルリックです。私が元いた世界の人間です」
「はぁ?あのガキンチョがか?」
「はい。彼は私と同じ国家錬金術師です。あちらの世界では史上最年少で国家資格を取ってる有名人なんですよ」
「はぁ…人間見た目じゃ分かんねェモンなんだな…」
「俺ァ史上最年少で真選組入隊してやすけどね」
「お前何張り合ってきてんの総悟」
「ということはあの少年はファーストさんを迎えに来た…ということか?」
「そこは私も聞いてみないと…うわっ」

近藤さんと話していると、片方しかない腕を引かれる。

「そーだよ!お前を迎えに来たんだファースト!モタモタすんな、アルが今向こうで帰還用の錬成陣描いてくれてる!」
「帰還用の錬成陣…!?」
「俺が到達したポイントに錬成陣が描いてある。そこに立って、あとはアルが錬成陣を発動してくれるのを待てば良い」

うそ、そんなことが。急に見えたアメストリスへの道筋に驚き戸惑っていると、背後で沖田さんが「あ」と、声を上げた。

「それ、もしかして地面に書いてあった魔法陣みてーなやつですかィ?あまりにも町の景観を損ねるんで、悪戯かと思って山崎にセメントぶち込ませて均しちまいやしたよ」
「「……え」」

エドの悲鳴が木霊した。


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