真面目な話も冗談も交わせる友達は一生モン

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「こ、…ここがこっちでの私の家…です、うっ…うっぶ……気持ち、悪い…」

俺の元上官こと、ファーストはヨロヨロとした足取りで木製の建物の中へと足を進めていった。…大丈夫かコレ…地震でも来たら一発で終わりなんじゃないのかコレ…。
入り口で戸惑う俺の姿を振り返ったファーストは「錬金術で補強済みだから大丈夫ですよ」と安心させてくれる台詞を言うから思い切って入る。
室内は薬草のような…、独特な植物の匂いと木の香りで充満していた。…アメストリスの建築とはまた随分違う様式の家なこった。埃っぽく見えるが空気は軽やかだ。通気性が良い家なのがわかる。

「しっかし…お前相変わらずなのかよ乗り物酔い…」

履き物を脱いで草を編み込んだ床に突っ伏すファースト。よく見慣れたその姿を見て、コイツはホムンクルスが化けてることはないな、と今更ながら本人であることを確信した。

「水はどこだ?取ってくるよ」

コートを脱いでファーストにかけ、飲み水の場所を訪ねると、部屋の奥から間延びした声が耳に入る。

「だーいじょーぶでーす。ファーストは銀さんがしっかり責任持って面倒見るんでー。ほれファースト、水飲め」
「あ、ありがとうございます…」
「……なんでおっさんまで付いてくんだよ」

クソ、なんか腹立つなあのおっさん。
シンセングミとかいう基地を抜け、タクシーでこっちの世界のファーストの家に向かえば、何故だかちゃっかりこのおっさんもついてきやがった。

…ファーストが寝転ぶ床に俺も大人しく腰を下ろすと自然とため息が出た。

アメストリスとエド…いや、俺のことじゃねぇ。この国である"エド"を繋ぐ錬成陣を消された俺はファーストの自宅で寝泊りすることになった。あの錬成陣の発動条件の一つとして、日が昇ってる時でないとダメだ。それから、完成させるのにニ日。今はもうすでに日が沈んでいるし、陣を描くところから始めなきゃなんねェから作業は明日に持ち越すことになった。

まぁ、それは別いいんだが、何故かこのおっさんもついてきてる。何でも屋らしいけど何かと胡散臭くて敵わねェ。
しかもやたら食ってかかってきやがるし、なんなんだよホント。俺がジト目で見ていることに気づいたおっさんはしてやったり顔で俺を見下す。

「別に珍しいことじゃねぇよ?銀さんはファーストの家行くのしょっちゅうあることだしー?俺らの仲っつーか?なぁ、ファースト」
「フン、甘ェなおっさん。俺はファーストの本宅に行ったことあんだよ。おっさんより早ェ段階でお呼ばれしてるよこっちは」
「あ、ファースト。その腕だと晩飯作れねぇよな?銀さん作ってやるよ。あ。それとも流行りのウーバーでも頼んじゃう?」
「あ、ファースト。お前そういえばアレが好きだったよな。こっちの世界では食えてるのか?」
「ちょ、なんなんですか二人して…」
「………はぁ、もういいわ…。ファーストが色々世話になってるみてぇだから黙っといてやるよおっさん」

…フフフ…俺は最年少国家錬金術師だしな。不毛なやりとりはしねェに尽きる。すると、気分は良くやったのか、ファーストは緩慢な動作で床から上体を起こした。

「それで、どうしてエドはここが…?私のことは今頃軍内部では殉職扱いになってるはずですが…?」
「……あぁ」

それは間違いなかった。クソ大佐からファーストの殉職を聞いたときは信じられなかったし、思わずアイツの胸倉を掴みかかった。

ファーストの殉職を聞かされてからその数週間後だ。俺は軍の本当の目的を知る否や、国家錬金術師である"鋼"の称号を捨てるべく大総統キングブラッドレイ…いや、ホムンクルスに銀時計を投げ捨てた。その後に言い放たれた台詞は未だに鮮明に覚えてる。

「ーーそう、ウィンリィ・ロックベルだったか」

アイツの口から幼なじみの名前が出た途端、血の気が引いた。

「エド」
「ッ」

諭すように再度呼ばれた自分の名前にハッと我に返り、ファーストを見る。

「…ウィンリィが…人質に捕られた」

ファーストがほんの少しだけ息をつまらせたのがわかった。それからすぐにその言葉を理解したのか、次の言葉を紡ぐ。

「……ここへきたのは大総統の指示、ですか?」
「…あぁ」

勘の良いファーストには大方分かっていることだろう。ウィンリィを人質に取られた俺は、大総統キングブラッドレイから指令を受ける。それは国家錬金術師であり続け、引き続き元の体に戻る方法を探すこと。それからここではない別の世界に飛ばされたファーストを連れ戻すこと、だ。

俺は自分の身に起こった出来事を全て話すと、ファーストは特段驚く様子もなく、強いて言うならば司令部で会うときのような、言わば仕事時のような面持ちで俺の話に耳を傾けた。
そういえば、慧眼の名があったな。その眼を見ながらぼんやり二つ名が脳裏を過ぎった。

「…そうですか。やはり大総統はホムンクルス…」
「知ってたのか」
「確証はなかったんですけどね。別の事件を追っているうちに、上層部に違和感を感じ…それを突き詰めていたら大総統とはまた違うホムンクルスに口止めと言わんばかりに抹殺されかけました」
「そうだったのか…。俺がもっと上に気づいていれば…、お前はこんな目に合わなかったのに…!」
「悔いても仕方ありません。それよりもウィンリィさんの身が心配ですね」
「その件で俺の推測だが、ウィンリィはあくまでも俺を下手に動かせないための人質と見ている。お前を連れ戻すことは正直奴らにとっては"うまく連れ戻せたらいい"くらいのモンだろう」
「なるほど…。実際に連れ戻しに一度失敗してますし、その可能性が高いですね」
「俺たちが…いや、今俺がここにいるのは確かにホムンクルスの命令でもある。けど、連れ戻した所で奴らには引き渡すつもりはねェよ。
ーーー俺は、ジンさんに代わってお前を助けに来た」
「!」

僅かにファーストの目が開かれた。慧眼と付けられた二つ名を持つファーストの目をしっかりと見る。

「錬成陣を完成させるのにニ日はかかっちまうが…向こうに着いたあとの算段はつけてある。もちろんウィンリィのことも助ける。だから……だから俺と来い、ファースト」
「…」

沈黙が空間を包んだ。
俺たちの三人の中で一番に動いたのは、意外にも銀髪のおっさんだった。「よっこらせ」と親父臭い台詞を述べると、ファーストの頭を雑に撫ぜた。

「ファースト。今日は疲れたろ、早く寝ようぜ」
「…坂田さん」
「…なんだよおっさん、人が話ししてるって時に」

「特にファースト自身に関わる話をしてるっつーときに」と小言を並べながら立ち上がるおっさんを睨める。おっさんはそんな俺を一瞥すると軽くため息を溢した。

「コイツは一週間かそんくらい前におたくの世界から来たホムンクルスとやらと戦ってんの!おまけに腕もねェし、不慣れな生活に疲れてんだよ」
「あぁ…そうか、腕か。そう、……」

そうだよな、確かに片腕の生活は不便だ。と同意しかけたところで、おっさんの台詞が蘇る。

「……はぁ!?ホムンクルス!?来たのか!」
「さっき言ったじゃないですか。実際に一度連れ戻しにきてるって」
「いや……っ、言った!確かに言ってたけども…!ホムンクルスとは聞いてねェぞ…!マジかよ」
「虚飾のホムンクルス、名はヴァニティと名乗っていました。知っていますか?」
「いんや、聞いたことねェな。……新手か」
「いえ、あちらの戦力としてカウントしなくてもいいと思います」
「は?」
「不死身の身体が崩れ去っていく姿をこの目で確認しましたから」

その言葉の意味をやや間があってから飲み込んだところで自然と口元が緩み、乾いた笑いが出た。

「…ははっ…流石だよ……ファミリー大佐。異世界にいながら化け物退治かよ」
「アレは私一人では勝てませんでした。正直坂田さんや、昼間の人たちがいなければなんとも言えませんでしたよ」

いやいやそんなまさか。と思いつつファーストの目を見るも、本気なようだった。

「…そうか。……おっさん、強かったのか。ファーストを守ってくれてありがとうな」
「…」

自然に出た言葉におっさんはなにも言わなかった。暫し間を空けると、不意に俺に近づいてきては頭をぐしゃぐしゃに撫ぜつけた。

「オメーも早く寝ろ。背ェ伸びねェぞ」と余計な一言を言いながら。


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