送別会ってあんまり送別感ない

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「なぁおっさ「おっさん言うな」…」

何でも屋を営む白髪のおっさんに、錬成時に必要な素材を揃えるのを頼むことになって半日。高かった日が少しずつ傾き出し、ふと昨日のこのくらいの時間にファーストに再開したな、なんてことをぼんやり思った。

買い占めた材料をバイクの座面に乗せ、手押しでひく白髪のおっさんに声をかけたら即答で冒頭のようにセリフを遮られた。

「んで?後は?揃えるモンはいいの?」
「あぁ。お陰で全部揃った。まさか今日一日で全部手に入るとは思わなかったよ」
「随分マニアックなモン探させやがって。銀さんじゃなかったら絶対一日で揃わなかったな」
「悪かったな。帰るのに必要なんだよ」
「……あっそ」

妙な間を空け、興味なさそうな返事をして足を進めるおっさんの背中を見る。

「……なぁ、サカタさん。こっちでのファーストはどんなんなんだよ?」
「あぁ?」
「いや、ふと気になってさ」
「どんなだ、なんて言われてもなァ…。そうさな、一言で言やァ……なんだ?堅物?」
「ブッ」
「ともかくよく学者みてェなことぶつくさ言ってんだよ」
「まぁ…俺たち錬金術師は科学者みてェなモンだしなァ…」
「…ふーん。ま、聞いてて耳にタコでもできそなこと言ってっけど…、不器用で真っ直ぐなヤツだなアイツは」
「それは今も前も変わらねェ、か。なんか安心した」

おっさんと肩を並べて町の往来を歩いていると、前方に人混みに紛れてファーストの姿が見えた。片方しかないその手には袋を持っていて、店先で野菜を選んでるように見えた。

「ファーストせんせーい!」
「!」

後ろから聞こえた子どもの声。

その声の持ち主は再びアイツの名前を呼ぶと、俺たちの横を駆け抜けてファーストの元へ向かった。それにしてもさっきのは…、

「先生…?」
「あー、アイツこっちじゃ修理屋やってんだよ。なんでも物を直す、物の医者だっつーことで先生って呼ばれてんの」
「修理屋…」
「錬金術でパパッと直せばいいのによー、自分の手で直せるものは直したいなんて面倒ェプロ意識持ってんだよアレ。お前からもなんか言ってやれよ」

そのセリフに口元が緩んだ。
なんともアイツらしいかった。俺たちの横を走り抜けた子どもが手にしているものはきっとファーストが直したんだろう。そいつを持って嬉しそうに礼を伝えていた。それにファーストが微笑んで応える。

「俺の……俺たちの師匠がそういう人だったんだよ」
「ならその師匠とやらに言っとけ。才能は最大限に生かして儲けたほうが賢いぞってな」
「(それ言ったら俺がぶっ殺される)」

…そんな恐れ多いことあの師匠に言うつもりは毛頭ないが、言った後の情景を想像したら自然と体が身震いした。

「明日…か」

ぼんやりとファーストの方を見ていたおっさんがそんなことをボソッと口にした。

「なんだ?アイツに言いてェことあんなら今のうちだぜ?」
「……バーカあるわけねェだろ」
「ふーん」
「じゃ、荷物は一旦ウチに置いときゃいいか?」
「あぁ、そうしてくれると助かるよ」
「ついでだしファーストに声かけっか。…あ?神楽と新八もいんじゃねーか」

「誰だそいつ」と思いながら一歩前に踏み出すと、ファーストがこちらに視線をよこしてきた。

「エドに坂田さんじゃないですか。もう用は終わったんですか?」
「あっ、銀ちゃん!」
「銀さんどこ行ってたんですかー」
「依頼だよ、いーらーい!」

ファーストの後ろには中華服の女に眼鏡の青年の姿がそこにあった。サカタさんの知り合いらしい。

「…誰アルか?」
「あぁ、もしかしてこの方がファーストさんが言っていたエドワードさんですか?」
「そうです。彼がエドワード・エルリックです」
「ども」
「エド、この方達は神楽さんと新八さんです。坂田さんの所で働いてるんですよ」
「へぇ…」

男の方は俺と年は近そうだ。女の方は弟のアルフォンスと同い年くらいに見える。

「お前がファーストを連れ戻しにきたアルか」
「は?」
「ちょ、コラ!神楽ちゃん!」

ファーストの影から仏頂面で俺を睨めるガキが確かにそう言った。シンパチ、とか言う男が慌ててその中華服の女を止めに入る。

「すみません、エドワードさん。神楽ちゃん、ファーストさんが帰るのが寂しいらしくって…」
「あ…いや…こっちこそ急に…その」

ファーストに張り付く中華服の女を見て、気づかされた。そうか、ファーストは…。
どうやら俺は無意識にファーストの顔を見ていたらしい。ファーストは俺と目が合ったかと思えば眉尻を下げながら微笑んだ。

「エド、今日は万事屋で晩ご飯食べましょう。こんばんは、おでんです」
「………ん?オデン?」


ーーーーー


「お前凄いアルな!!ファーストと同じキンタマジュツシだったかヨ!」
「錬金術師って何度言ったら分かるんだよ!頭ン中どーなってんだ!ついでにお前の胃袋も!」

ピシリとエドが指差した先にはパンパンに膨れ上がった神楽さんのお腹だ。

「神楽さんは大食いなんですよ。かなりの」
「質量保存の法則どうなってんだよその腹…」
「フッ、少年よ、目に見えることが全てじゃないアルよ」
「…心底ムカつくけど間違っちゃいねェな…」
「オイ錬金術師ィィイ!金玉は自前の付いてっからそれよりモノホンの金塊くれェエ!」
「つーか誰だよこのおっさん!」
「まるでダメな男でマダオ、アル」

エドと坂田さんが材料集めに町に繰り出した後。

受託中の修理品を直し終えて、新八さんと神楽さんにアメストリスへ帰還する旨を伝えに向かった。二人にはたくさん泣かれたりもしたが、最後に一緒に食事をすることに。

最初はエドのことを邪険に扱う神楽さんに、一時はどうなるかと思ったけれど、心配はほぼ杞憂に終わった。万事屋でおでんパーティーなるものを開催することになってから、材料を買い込みすぎて鍋に入りきらず、鍋を錬成しようかと思った所、エドが寸胴鍋を錬成してくれたことをきっかけに二人は急に距離が縮まった。
騒がしくも仲良くしてくれる二人の様子に一安心した。

「坂田さん、まだおでんありますけど、おかわりいりますか?」
「…あー、自分で取るわ。お前腕無いし」
「…」

エドと神楽さんはあぁも仲良くしているというのに対して、こちらは……坂田さんとはあの日の夜を境に急に溝が生まれたように感じた。少しだけ寂しいと思うが仕方がない。私がはっきりしなかったのが悪い…。たぶん。そんな気がしてる。
なにも言わずに湯飲みを手に取ると、隣に座っていたお登勢さんが紫煙を燻らせた。

「なんだい銀時、愛想悪いわね。ファーストが明日帰るってのに」
「思春期カー!?オ前今更思春期デモ来チャッタカヨ。ヤレヤレココハ一ツキャサリンオ姉サンガ…」
『キャサリンさんいけませんよ。思春期はそっと生暖かい眼差しで見届けてあげるのがオツだそうです』
「喧しいんだよ!つーかなんでお前らもちゃっかり居座ってんだ!鍋の中腐るだ、ギャァアアアア!」
「口の利き方に気をつけな!あたしゃここの大家なんだからね!」

お登勢さんに背負い投げされた坂田さんが派手に床に張っ倒された。今日と言う今日はいつもより一段と騒がしく感じる。騒音の中で僅かに聞こえたインターホンの音に、玄関へ向かうと風呂敷を抱えた妙さんの姿。

「妙さん…!」
「こんばんは。ファーストさん、話は聞きました。私もご一緒させてくださいな」
「突然ですみません。皆さん奥で騒いでますから、先にどうぞ」
「お邪魔します」

妙さんが居間の方へ向かうと、途端に断末魔が聞こえたような気がしたのは恐らく気のせいだろう。

「…涼しい」

外の空気を少し吸ってからまた中へ入ろうと思ったのだけれど、少し冷気を孕んだ風がお酒の影響で熱った肌を沈めてくれるその心地よさに足が止まった。

もう少しだけ休んでてもいいかな。開けっぱなしの玄関を閉じて、引き戸のすぐそばに置いてあった瓶ケースに腰を下ろす。お登勢さんがスナックから持ってきてくれたのだろう。腰掛にうってつけの高さだった。
壁に背を預けるようにして座り、屋根の隙間から見える空を見上げる。今日はこちらの世界に来てから一体何度目の夜だったか。初日の夜は一体これからどうなってしまうのかと夜空を仰ぎ見たあの日が懐かしい。

「…どのくらい…こっちの世界にいたんだろう」

次第に重たくなる目蓋に逆らえずに両目を閉じる。耳には万事屋の中から響く騒がしい声やどたばたと騒がしく駆け巡る足音。それから引き戸が開かれる音が聞こえたような気がした。私の姿がなくて誰か探しに来たのかもしれない。
けど、目蓋が重たすぎて指一つ動かせない。

「ファースト?」

誰だっけ、この声。

あ、そうだ、この家の家主の声だ。少し考えているうちにまた心地よい良い風に吹かれて、意識を掻っ攫われそうになる。

「オイオイ…んな所で寝てんのか。馬鹿だろ」

失礼な。と心の中で反論しかけたところ、額に柔らかい感触が当たった。

「…風邪ひくぞー」

どうしてか、彼の声は思ったより近くで聞こえた。しかし私は過った疑問を解決するするために目蓋を開く気にもなれず、そのまま目の前の眠りの沼に身を放り投げた。


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