人生はほぼ六角ボルトと六角ネジでできてる

◼︎


「本っ当になんも収穫ないなぁ」

作業机に向き合って、ノートにペンを走らせていた手が止まる。まぁ、所謂研究書兼メモ帳で、ここの世界のこととか、見たことない成分物質のメモを書き記してある。

英文字で、だ。ここがまた不思議なのだ。

「話はできるのにこの国の文字が全然読めない…」

あのホムンクルスに頭の中を何かいじられたのか。もうそんな気がしてならない。あーあとため息に近い不満の声を漏らしながら机に突っ伏す。

本当不思議なことに言葉はある程度通じるのに、字体がアメストリス国とはてんで違った。ここの国では文章は平仮名、漢字、カタカナから成り立っているらしい。人の名前も聞き取り言葉では理解できるが、漢字にされると全くわからないので、影ながら子供向けの学習書を読む日々だ。最近ようやく平仮名を一通り読めたくらいだ。今は10歳そこらの子供たちが学ぶ漢字まではなんとか読める様になった。持ち前の研究者根性のおかげで学ぶことに苦は感じない性で助かった。

ふと前にもらった万事屋の2人の名刺を机の中から取り出す。

「これで万事屋か。志村、新八、坂田、銀時」

すごいなぁ、こんな難しい棒の塊の字を読むのか…。この国の人たちはもしかしたら頭がいい国なのかもしれない。でもなんでこの国では錬金術が発達してないんだろう。机の前で1人唸る。

「ファーストさーん!来たよ!」
「あ、理吉」

3日前と変わらない明るさで理吉がやってきた。頼まれていた小型ラジオの入った箱を持って土間に降り立つ。

「うおおおおおお!ちゃんと聞こえる!すげェや!」
「でしょう?」

修理したての小型ラジオにイヤホンを差し込んで理吉はその音を確認すると、歓喜の声を上げた。嬉しい反応だ。
パーツについていたサビ、油は錬成で分解して取り出し、あとはネジが緩んでいる部分を締め直して、割れていた部品も修復した。

「すげーやファーストさんなんでも直しちゃうのな!」
「大抵はね。ほら、お金はいいから早くお爺さんに持って行ってあげてください。きっと喜びます」
「え…良いの?本当に?」
「その代わり!」

ズイ、と理吉の顔に近寄る。

「近所の人にすすめておいてください」
「!…もちろんだよ!俺もう色んなところにここ勧めてるよ!!そのうちドーンって仕事入って弱音吐くんじゃないやい!」
「あら、嬉しい」
「ファーストさんありがと!爺ちゃんのとこ持ってく!」
「気をつけてね。さようなら」
「さよーなら!」

嬉しそうに手を振りながら走って家路に着く理吉の背を見送る。コケて壊したりしないよね?と内心ハラハラしながら理吉の背が見えなくなるまで表に立った。

「さてと、部品の買い出しに行来ますか」

最近なかなか良い仕事が入ってきたのだけど、部品が足りなくて町に調達しに行かなければならないことになった。
表に置いてあるA字型の自立式の看板を下げ、土間の端っこに置いてある原付きバイクのカバーをとって外に出る。

引き戸の鍵を閉めたらさぁ出発。


ーーーーー


「すみません。3Zの8号サイズありますか?」

最近行きつけの金具屋さんで自分で探しても見つからなかったから新聞と虫眼鏡を持つ店主にそう声をかけた。

「あん?……珍しい品番だなァ…。ちと待ってろ」
「ありがとうございます」
「オメーさん最近良く見かけんなァ?ここらへんに越してきたのか?」
「はい、かぶき町の端で修理屋を始めたんです」
「へェ…ま、困ったことがありゃ何でも聞いてきな」
「ありがとうございます」
「…っと、3Zの8号だったな。あったよ。いくついるよ?」
「3つお願いします」
「まいど」

欲しかったパーツを無事見つけて、バイクの座面下にある収納庫に仕舞う。ここまで来たついでだ。スーパーも寄って帰ろうと思いつつヘルメットをかぶる。

「あら?ファーストさん?」
「ん?」

後ろからかかった声に振り返ると、和傘の修理依頼をしてきたタエさんの姿があった。片手にはスーパーのビニール袋を掲げている。

「タエさん…?」
「やっぱり!ここで見かけると思わなかったから…!傘、新ちゃんから受け取りました。本当にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお仕事ありがとうございます」

新八さんからも聞いていたが、あの傘がお母さまの形見であったことを教えてもらった。

「お礼に今度ご馳走させてくださいな」
「修理屋として当然の仕事をしただけですから。喜んでもらえて何よりです」
「もう壊れてたのが嘘なんじゃないかと思うくらい綺麗に直していただいて…」
「あの…ゴリラの駆逐?には使わないで下さいね」


「いやぁ、本当うちのお妙さんがお世話になりました。がっはっはっは!」


しばし間が空いた。

私とタエさんと、何故かもう1人男の人が豪快に笑っていた。
ーーーえ、誰この人。

「えっと、どなたで……」
「なんでテメーは此処にいるんだどるぁああああああ!!!!」
「ゴフッ!!」

目の前の景色が信じられなくて、自分の頭がフリーズした。あの可憐で可愛らしいタエさんの細腕が男の首にのめり込んだ。

男の人はタエさんのラリアットを避けられずにそのまま壁へと衝突した。「なんのこれしき…これくらい受け止めないとお妙さんの旦那には…ぐふっ」と穴の開いた壁の向こうからいかにも死にそうなら声が聞こえてきた。顔を痙攣らせながらタエさんを見上げると、一仕事したと言わんばかりに両手をパンパンと叩いている。それからこちらを振り返ってにっこり一言。

「見苦しいものお見せしちゃいましたね」
「い、いや………その…ゴ、ゴリラの駆逐大変ですね」
「早く保健所に連絡しないと危ないですよね」

少し乱れた着物をピシリと整えるタエさん。何となく、何となくでしかないが、傘が壊れた理由が垣間見えた気がした。うん、絶対あの勢いで振りかざしたな。そりゃあんな感じで折れたりもするわ。
それにしてもタエさんのあの細腕からどんな腕力が…。見た目とパワーが伴っていないように見えるけど本当は何か武道でも鍛えているんだろうか…?

「あれ?やっぱり姉上でしたか。向こうで近藤さんがすっ飛んでいくのが見えたから来てみたら…」
「アネゴ!!久しぶりアル!!」
「まぁ、新ちゃんと神楽ちゃん。お仕事かしら?」

新八さんとそれから小柄の可愛らしい女の子がこちらに寄ってきた。小柄の女の子の方はサーモンピンク色の髪に青いどんぐり眼が可愛らしいかった。「カグラちゃん」とタエさんが言っていたから、そう言う名前なんだろう。

ぼんやり女の子を眺めていたら新八さんがヘルメットを被ったままの私に気付いたらしく目を見開いて驚いた。

「こんにちは新八さん」
「ファーストさん!!気づかなかったです…!奇遇ですねこんなどころで!」
「そうですね。買い物に来てまして」
「この女誰アルか?」
「ファーストさんって言って、修理屋さんなんだよ。この間姉上の傘壊れて、この人に直してもらったんだ」
「修理屋?源外のじーさんみたいな感じアルか?」
「ま、まぁ…源外さんはどちらかというとロボット派だよね…。それに比べたらこの人は修理を専門に仕事にしてる人なんだよ」
「フーン、それって凄いヤツなのか?」
「物の医者みたいなものだしね」
「新八さん、それは大袈裟すぎますよ。…初めまして、ファーストと言います。新八さんが言っていた通り、修理屋の仕事をしています」
「そんなにすごいヤツなら私の友達にしてやっても良いアルよ。私、神楽。万事屋で働いてるネ」

差し出された右手を見て、断りを入れながら左手を出す。「左手ですみません、右手を怪我してるもので…。よろしくお願いしますカグラさん」手袋越しだったけど、小さくてあったかい手だった。

「こんな可愛らしい子も働いてるんですね、万事屋さん」
「神楽ちゃんは天人なんです」
「えっ、天人って」

確か天人はいわゆる宇宙人と聞いた。まさかカグラさんが本当に天人と言うのなら、自分が想像していたイメージと違いすぎた。失礼だとは思いつつも、つい無害そうなカグラさんをマジマジと見てしまった。

「それも宇宙最強とも謳われてる戦闘傭兵族ですよ。こう見えてものすごく力持ちでとっても強いんです」
「う、宇宙最強の戦闘傭兵部族…。…とても見えないですね…!私には普通の可愛いらしい女の子にしか…」
「ほ、褒めても何も出ないアルけどな!褒めても何も出ないけど万事屋の中で一番仕事ができる女アル」
「違うでしょ、一番ご飯食べる女の子でしょ」

フフン、と嬉し恥ずかしそうに、それでいて得意げにふんぞり返るカグラさんをわたしとタエさんさん、新八さんと笑う。

「あれ、何してんのお前ら」

背後に原付きバイクが止まったような気がして振り返る。嫌な顔と目が合った。

「なに、またお前?」

いや、それこちらのセリフ。


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