誰かがペットと言ったらタコでもペット
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「それこちらのセリフなんですが」
「またお前なの?」のセリフにそう言い返した。またあなたですか。それから私のヘルメットと見てすぐそばに置いてある原付を見て一言。
「修理屋に原付バイクキャラって、お前。俺となんか微妙に被るからやめてくんね?著作権で訴えちゃうけどいい?」
「いやちっとも被ってないと思うんですけど。1ミリも掠ってないと思うのですが」
「被ってないアルな。銀ちゃんは天パだけどファーストはサラツヤストレートだヨ」
「被ってないわね。ファーストさんの方がお仕事丁寧ですし」
「僕も被ってないと思います。ファーストさんは銀さんと違って仕事できますから」
「お前いつのまにコイツら手駒に取った!?」
いや、そんなつもりないけど。
何故か最近知り合ったばかりの私の肩を持つお三方。え、普通自社の社長を持ち上げること言うんじゃないの…?
「大体万事屋はなぁ、万事の中に修理の仕事も承ってんだよ。こんなヤツ出てこられたら万事屋の仕事減んぞマジで。コイツが修理屋から「迷子猫探し手伝います」なんて言い出した日には三食たまごかけご飯からお茶漬けに降格すんぞ。そんなんでいいのか万事屋が。毎食ローストビーフ丼だろやっぱ」
「言っても普段そんなに修理の仕事回ってこないじゃないですか。お登勢さんの所のほらアレ、ビデオデッキなんて本体バンバンして終わりだったじゃないですかアンタ」
「猫バンバンみたいアルな」
「あれはあれでいーんだよ家賃の代わりなんだからよ。ローストビーフ丼くれるなら犬バンバンにしてやるわ」
「意味かわんねーよ!何故にそんなローストビーフ丼にこだわってんですか!」
ふうむ、こうやってみると万事屋さんはなんだかんだ仲が良いのが伺える。本当に何でも屋やってるのか。修理に関しては頼むことはないが、困ったことがあったら相談してみようかな。
「というか、お前らこんなところで道草食ってる場合か。見つけたのかアイツ」
「いえ…。探してる時に近藤さんが勢い良く駆け抜けるのが見えて追いかけちゃって…」
「近藤さん?あぁ、コレな。丁度いいやゴリラの脳筋借りるか」
穴が開いたままの壁を覗き見ると、白目剥いて幸せそうな顔でぶっ倒れてる男の人が。会話の流れ的にこの人がコンドーさんのようだ。なんて幸せそうな顔をして気絶してるんだろう。その姿に正直ちょっと顔が引きつった。
「いざ目覚めよ!!ムーンメークアーップ!!!」
坂田さんはコンドーさんの胸ぐらを掴んで起こすと、勢いに任せて額に何かの装置を取り付けた。ピ、と短い機械音が鳴った。それから継続的に、一定のリズムで鳴り続けている。側から見ると触覚のようなものにも見える。
気になっカグラさんがその触覚のようなものを突いた。
「コレ何アルか?」
「源外のじーさんに作ってもらったんだよ。ペット探しのグッズ、名付けて発情期大作戦だ。獣の本能である繁殖能力を刺激するカラクリよ」
「下品すぎて僕その大作戦に参加したくないんですけど」
「誰かの脳磁波を使えば、この辺にメスがいるってェのを発信できる。そこに来たヤツを捕獲する作戦ってわけだよ。こりゃもう晩飯豪華になるわな」
「かっこいいこと言ってるけど結構バカっぽい作戦アルな。ムラムラしてるところをとっ捕まえるってわけネ」
………確かにバカっぽいけど正直そのシステムが気になる。何かしら錬金術の研究に使えたら嬉しいし、知識と技術を持って帰れるなら持って帰りたい…。…ソワついてるのバレてないよね…?
しかしそんな大規模な機械を使ってまで探してるペットとはなんだろう。隣の新八さんに尋ねてみる。
「ちなみにペットってどんなのですか?猫?犬?」
「あぁ、地球生命外の生き物なんです。えっと確か写真は…」
「そんなポンコツカラクリに簡単に引っかかってくれるなら最初から苦労しないネ」
ペットの写真を見せようとポケットの中をゴソゴソする新八さんの隣でカグラさんが頭の後ろで手を組んだ。「あ、これです」と新八さんが差し出した写真を覗き込む。
その途端に頭上に暗い影が覆った。皆して頭上を見上げる。
『タコォオオオオオ!!』
ふにゃふにゃした軟体に複数の触手、丸い頭についた2つの目に、とがった口。
「……なるほど。ペットに見えなくても誰かがペットと言えばペットなんですね」
「「「ギャァァアアア!!」」」
ポツリと呟いた瞬間、触手がコチラに飛んできた。慌ててタエさんの腕を引いて避ける。
「いや、アレ、絶対違いますよね!?写真とサイズ感違いません!?」
「写真は1ヶ月前に撮ったって聞いてたんですけど、何アレ何アレェエエ!?僕聞いてないです!あんなサイズなの!?」
「甘ェぞ新八。子どもってェのはちょーっと目ェ離した隙にどんどん成長してるもんなんだよ。ついさっき生まれたかと思えばちょっと目ェ離したらもう立ち上がってんだよ」
「嘘だろ適当なこと言うなァア!!」
「サッカーボールサイズのペットが1ヶ月足らずで家サイズになるなんて……。いやいや、これ夢ですよね?成長って言っても限度が…。細胞分裂の速度どうなって…!?」
「ファーストさん現実逃避しちゃってます!?」
「ファースト!あんなやつ地球以外の星に行けばいくらでもいるアルよ!アレくらいで驚いてたら宇宙でやってけないヨ!」
「いや、私やってくつもりないんですけど!?」
地響きを起こしながらゆったりとした動作で私たちの目の前に姿を現したのは8本の腕がある生き物。その外見はどう見たって、その、タコにしか見えないのだが、その、サイズが笑えないのだ。
写真ではサッカーボールに絡まって遊んでる愛らしいサイズなのに、今目の前にいるソレはもうその辺にある2階建ての家と比べてもいいサイズ感になっていた。
『タァコォォオオオオ!!!』
「「ああぁぁあああ!!」」
コンドーさんを目掛けて振り下ろされた触手。
咄嗟に坂田さんと新八さんが抱えて逃げ出したお陰で難は免れた。力加減も知らずに思いっきり地面に叩きつけた触手からビリビリと振動が走る。いやいやいや。合成獣よりは可愛い見た目してるけどさ…してるけどさ、アレはいくらなんでも…。
「銀っさァアアん!!それ!近藤さんのそれ取ってくださいよ!なんか暴走してます!絶対それ原因ですよ!発情期どころかなんか錯乱状態に入ってますよ!!」
「取る取る!あんなん暴走されてたら捕獲するにもできねーわ!……あれ?んぎぎぎぎっ…!」
「ちょ、嘘でしょ!?」
「新ちゃん!銀さん!上!!」
タエさんが叫んだ。
坂田さんはコンドーさんに付けた機械を取り外そうとするが、何やら外れないらしい。外そうとするとタコの天人がそれを阻止させようとまたあの触手を振り下ろしてきた。
「ぶはぁ!!死ぬ!死ぬ死ぬ!死ぬかと思った!!」
「『タァコォォオオオオ』なんてなんの捻りもない叫び声してるくせになんつー馬鹿力だよアイツ!!」
間一髪で触手を避けたものの、もう次の触手が上がっていて今にも振り下ろされそうだった。
ーー錬金術の存在しない国。どんな反応されるかわからなかったけれど、地面を錬成して彼らの盾を造ろうと両手を上げようとした瞬間、横から赤い影が飛んだ。
「ほあちょー!!」
『タコォオオオン!!』
何かの攻撃を喰らったタコ天人は軽く吹っ飛ばされて地面に倒れた。
「でかした神楽!!」
「た、助かった…!!」
「新八!ゴリラの身体押さえてろ!!」
「「ふんぎぎぎぎぎっ!!」」
地面に降り立った赤い影はカグラさんだった。あの巨大がすっ飛ぶほどの飛び蹴りを食らわせた彼女は軽やかに地面に降り立った。あの小柄な体から生み出されているとは想像もできないくらいの力だ。
『ダァゴォオオオ!!!』
怒り心頭のタコ天人はカグラさんに向かって触手を伸ばすが、彼女はそれをいとも簡単に避けてはカウンターを返す。
踊るように綺麗に攻撃を避ける光景に戦闘傭兵部族っていうのは本当だったったことを思い知らされた気がした。
「うおらァァアアア!!」
横で坂田さんの勇ましい声が聞こえてそちらに目を向けると、コンドーさんのおでこにあった機械は粉々に壊れていた。
いや、多分坂田さんが木刀でコンドーさんのおでこごと叩いたのだと思う。
…顔が血塗れ。
「(ちょっと手伝ってあげますか)」
タエさんに気付かれないように後ろに下がり、両手を合わせてから近くにあった乗り捨てられた様子の自転車に触れる。スチールを錬成すればあっという間にワイヤーロープと釘が出来上がる。
「カグラさん!コレ使ってください!」
カグラさんにワイヤーロープを渡すといとも簡単にタコの頭と触手を縛り上げてしまった。並々ならならぬ身体能力が羨ましいとも正直思ってしまった。
「銀ちゃん捕まえたアル!」
「よくやった神楽!これで晩飯はたこ焼きだな!」
「違うでしょ。どう見ても。ペス王子に引き渡ししないと報酬もらえませんよ!」
「懲りずに似た様なペット飼う野郎からもらう金なんざいらねェよ。こいつうまいこと調理してローストビーフ丼にしてやっか」
「だからなんでそんなにローストビーフ丼にこだわってんですかアンタは!タコが牛になるわけないでしょうが!」
「知ってるか新八。味は思い込めばなんとでもなるんだぜ」
「いらん貧乏知恵ですね」
ペットのタコ天人は専用の輸送機に乗せられてどこかへ連れて行かれてしまった頃、新八さんは改めて私に頭を下げてきた。
「ファーストさん、姉上。巻き込んですみません。怪我は無かったですか?」
「私は大丈夫よ。ファーストさんは?」
「私も平気です。にしても凄かったですねカグラさん…あっという間に片付けちゃって…!」
「あれくらいなんてことないネ。赤子の手を捻るのも同然ヨ。ファーストの方こそロープ助かったアル」
「お前いつもあんなロープ持ち歩いてんの?」
「あぁ、その辺にあったんです」
意外と洞察力のある坂田さんに心臓がはねた。
こんな適当な言い訳で納得してもらえるのかと内心ハラハラしたが、帰ってきた返事は意外にも「ふーん」だった。
しばらくは大人しくしてようとひっそり胸に誓った。
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