みんなやっぱり一度はやってみたい事がある

◼︎


「よ…っと」

たし、と壁面に両手を合わせると瞬く間に壊れたブロック塀が元に戻った。居合わせた子どもがすぐさま直したての壁に張り付いて、叩いて様子を見た。

「うわぁあああ!!すげぇええ!姉ちゃん魔法使い!?」
「うーんと、まぁ、そんな感じですかね」
「俺もやりたい!できるかな!?」
「そうですねぇ、いっぱいご飯を食べていっぱい眠って、いっぱい勉強すればできるようになると思いますよ」
「分かった!俺たくさん勉強頑張るよ!」
「いやぁ、ファーストさんありがとう…!車に突っ込まれたのが嘘みたいだよ。本当にありがとう」
「お役に立てたのならば光栄です。また何かありましたらお気軽にどうぞ」

何度も何度も頭を下げて見送ってくれる依頼主さんに軽く手を振って足を進める。

ホムンクルスとの死闘の時に作った円盤の壁面は思った以上にかぶき町の人達の目に触れていたらしい。修理屋としての仕事を再開してからはびっくりするほど仕事が雪崩れ込んできた。小物はもちろん外壁修理の依頼まで来るように。
ありがたいなぁ。それから流石にそろそろバイクを買わないと。郊外からかぶき町の町中まで毎回タクシーなのもなかなかお金がかかるし。

「あら、ファーストさんじゃない」
「あ、鹿屋の女将さん」
「前は風呂の修理ありがとうね。助かったわぁ」
「いえいえ!その後は如何ですか?」
「なぁんにも問題無いわ!すっかり元通りよ!すごいわよねぇ、何度かお願いしてるし目の当たりにしてるのに、どうやって直したのか全然わからないわあ」

鹿屋の女将さんはかぶき町では高級に入る旅館を経営している方だ。以前客室の浴槽修理を担当したことがあった。

「そうそう、ファーストさん。あなた今良い人いないの?」
「……はい?」
「良かったらお見合い、しない!?」
「……はい!?」

まるで噂好きの少女のように目を輝かせて女将さんは私の手を取った。

「お、お見合い、ですか」
「えぇ!貴方のような撫子にぴったりの相手がいるのよー!前にねぇ、その方と世間話で貴方の話をしたのだけれど、大層気に入られたみたいで!どうかしら!?」
「あー、えーと」

お見合いかあ。坂田さんのことが頭をよぎる。先日あんなこと言っておいて流石にちょっとそういう類の物には行くことはできまい。「近江屋の御曹司なんだけれど、美形なのよう!タッパもしっかりあるし、聡明な方よ!それからね、」と次から次へとその、オウミヤさんとやらの話をされて頬を掻く。うーん、この状況でなんと断ろうか。


「ーー悪いな鹿屋のばーさん。コイツには先約がいるんだわ」


不意に横へと身体を寄せられた。背中から左腕にかけて回された腕を、私はよく知っている気がして、横を見る。やっぱり思った通りの人だ。

「坂田さん」
「ったく、ほっときゃあっちへフラフラこっちへフラフラ話かけられやがって」
「いや、そんなことは」
「はぁ?昨日はスーパーで声かけられてただろうが!」
「違いますよ!あれはただ売り場が分からなくて尋ねられただけです」
「その後家庭的ですねウフフって言われてただろうが!そういうのはな、大体結婚を見据えた会話されてるってことなんだよ!」
「想像と依枯で物を語るのは得策とは思えませんね」
「長年の勘と言え」
「…まぁ、貴方達そういう関係だったの!」
「「…ん?」」
「いつから?いつからお付き合いされてたのよう!やっぱり男らしく銀さんからー?やっぱ身を固める年頃だものねぇ!」
「ちょっ、女将さ、」
「んー、もうちょっとで手に入りそうなんだわ。コイツ見た目以上にシャイな奴でな」
「銀さんも普段はちゃらんぽらんだけど、ここぞという時は頼りになるからねぇ。所帯でも持てば仕事も捗りそうねえ」
「いや、あの、」
「野暮な誘いして悪かったわねファーストさん。この話はなかったことにしておくれ!じゃあ、私はそろそろ仕事に戻るから、また修理するものがあったらよろしく頼むよ!」

「面白い話聞いちゃったわー!」と楽しそうに去っていく女将さんの背をしばし見送ると、未だに坂田さんに肩を抱かれていることに気づいて脱しようともがく。

「もう、人前であまり寄らないでくださいよ…!」
「へー人前じゃなきゃいいの?」
「…!」
「はは、真っ赤にしちゃってかーわいだだだだだ」

左腕にある手を機械鎧の手で握り締めると漸く坂田さんは手を離した。機械鎧は万力だ。人間の骨を砕くくらい造作もない。

「で、なんでここに居るんですか?相変わらずお暇なんですね」
「オイなんで仕事無い前提で話すんだコラ」
「寧ろあるんですか」
「ありがたく思え。報酬は弾むぞ」
「?」

ニヒルに微笑んだ坂田さんに首を傾げた。


ーーーーー


「…どういうことか説明していただけませんかね」
「どうもこうもあるか。とにかくカップルらしく振る舞え。ほら、腕組め」
「嫌です無理です帰ります」
「待て待て待て!これは万事屋の仕事だがちゃんのお前にも報酬分けるから!な!頼む!銀さんの気持ち的にもデート気分味わいたい!」
「後半私情ガン挟みじゃないですか。恋仲のように振る舞うことになんのメリットがあるんですか」

右も左も分からないまま、坂田さんの知り合いがいる女装バーに連れて行かれてあれよこれよと着付けとヘアメイクをされたかと思えば、今度はかぶき町の中でも恋人たちのデートの場として有名なポイントに連れて行かれた。
とりあえず腕組みは却下して町の往来を進みながら坂田さんから事情をきちんと説明を要求した。

「かぶき町の怪奇現象究明の依頼が来てんだよ」
「怪奇現象、ですか」
「何も突然真っ白い部屋に連れてかれるんだと。瞬く間にな」
「瞬く間に、ですか」
「そ。んでなんかすると、元いた場所に戻ってるらしい」
「うーん、元いた場所に戻るんですか…」
「お前なら何かわかるかもしれねぇだろ?」

「得意分野じゃねェかそういうの」と坂田さん。顎に手を当てて少し思案を巡らせる。どうやらその話は私がアメストリス国からかぶき町へ来たのとは違う内容のようだ。
そこでふと最近読んだ文献のことが頭をよぎった。この国の学べる書物を最近読んだことがあった。

「うーん、そうですねぇ…最近読んだ文献で日本の風土の中には昔から伝わる奇怪な出来事も多いんですよね。神仏、妖怪、幽霊とか。四季が移ろう中でそれだけ日本人の心は豊かに培われたんでしょうね。素敵な文化だと思いますよ。はい、これにて一件落着」
「どこに落ち着いてんだよ!解決どころか中ぶらりんのままじゃねェか!」
「というか、私たちいつのまに真っ白い部屋に来てますけどこれのことですか?」

直後に響いた坂田さんの悲鳴に両耳を押さえた。


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