黒歴史を思い出した時のあの破壊衝動辛い

◼︎


「…ファースト、お前は俺を踏み台にし幸せ せになろうとしているのか?」

血塗れのあの人はそう言った。

「ーーっ」

ビクリと体が震えて目を覚ます。酷く耳鳴りがし、心臓が激しく脈打っていた。あぁ…またか。
寝起きだというのに既に倦怠感を感じながら上体を起こし、ふと窓の外を見ると日は随分と高く上がっていた。今日は結構寝てしまっていたらしい。

最近、またジンが夢に出るようになった。ちょうど、坂田さんとあの真っ白い部屋に閉じ込められた辺りからだ。結局あの後は他愛無い話をだらだらと続け、お題をクリアして無事脱出する事ができた。ただ、少しだけ、ほんの少しだけ彼と離れる時に寂しさを感じてしまったのがいけなかったのだと思う。

まるで私に釘刺すかのように夢に出てくるようになったのだ。そういった感情は持ち合わせては成らないと、まるで警告してくるようにジンが夢に出る。

「……分かってるよ」

はぁ、とため息を吐いて布団から抜け出すとひんやりとした空気に包まれて身震いした。ここ最近、冷えてきたなぁ。ずび、と鼻を啜りながら寝室を出た。


ーーーーー


「よ」
「こんにちは、ファーストさん」
「あ、妙さんに神楽さん。こんにちは」

修理の作業中に、不意に開かれた引き戸に顔を上げると、妙さんと神楽さんの姿があった。どうしたんだろう、と思って作業場から立ち上がると、妙さんが持っていた風呂敷を持ち上げては「お茶にしませんか」と、あのかわいらしい笑顔でそう言ったのを私はうなずいた。

「突然押しかけてしまってすみませんファーストさん」
「いや、押しかけだなんてそんなこと!ここへ来るのは仕事の依頼者かぼろ小屋が好きな物好きくらいですからね」

二人を居間に案内し、お土産にいただいた団子に合うお茶をテーブルの上に置いた。

「後者は銀ちゃんのことアルな」
「…まぁ、そうですね」
「そいやあの天パ、ファーストが真選組から免許証を貰って、バイクを買おうとしたら、「はぁ?バイクぅ?ばっかお前、銀さんがいるだろうが」とか言ってたアルな」
「そうねぇ、ファーストさんのその右腕のことも、「機械鎧ハメる時は絶対銀さん呼びなさい。間違っても他の野郎に絶対頼むんじゃねぇぞ」って言ってたわね」
「ファーストが軽い体調不良で適当にご飯を作ろうとしたって聞いた時は「お前メシ錬金術で作ってんの!?待て待て待て!俺が作るわ!なんならデザートも作ってやっから!」って言ってたヨ」
「そういえば、ファーストさんが「パチンコ行ってないでお給料ちゃんとあげてるんですか」って聞いてた時は「あ?パチンコ打ち行くなんざ時代遅れだろ。今どきは惚れた女のハートを撃ちに行くのが今時よ」って言ってたわ」
「……よく覚えてますね、お二人とも…」

一通り坂田さんのエピソードを語った神楽さんと妙さんは眉間にシワを寄せながら私を哀れそうな眼差しで見つめた。それから二人同時にため息をつくと、神楽さんは畳に寝転び少々下品ながら小指で鼻をほじり始めた。

「…銀ちゃんすっかりファーストにぞっこんネ。発情期のゴリラの如しのウザさアル」
「やっぱり…。最近やたらファーストさんにベタベタネチネチ、金魚の糞か靴底についたガムみたいに付き纏うから害虫駆除でもしようかと思ってたところなのよね」
「銀ちゃんは一度決めたらG並みにしつこいアルよ。パピーに宇宙一の殺虫剤手配してもらうか?」

…一体どんなお父様ですか。
内心ツッコミながらお土産にいただいたお団子の串をお皿に置く。

どうやら私に対する坂田さんの一連の行動が気になった二人は何があったのかこうしてかぶき町から離れた我が家へ足を運んでくれたらしい。

「ファーストさんと銀さんが例のあの部屋に閉じ込められたと聞いた時は血の気が引きましたよ。大丈夫だったんですか?」
「…あー…」

なんと言おうか、選ぶ言葉を考えながらお茶に手を伸ばす。この感じ、下手に言えば坂田さんの身が危ない気がする。この二人ならやりかね…いや、殺りかねないような気がするのだ。
心配そうに見つめてくる妙さんに申し訳なさを感じながら、数日前に部屋に閉じ込められた時のことを思い返してみた。

「部屋の仕組みは私にも解明できなかったんですけどね…。なにも身の危険はありませんでしたよ」
「どうしたら出れたアルか?」
「紙があったんですよ、お題と書かれたものが。坂田さんから聞いた話によれば、いろんなお題があるらしいんです。黒歴史を語れだの、ゲームに勝てだの。難しすぎてクリアできないようなお題は無いみたいなので、危害を加えるような部屋ではなさそうでしたよ」
「きっと天人の遊びで作った部屋アルな。作ったそいつ暇人ネ」
「ファーストさんと銀さんが閉じ込められた時はどういったお題だったんですか?」

うまーく私と坂田さんに当てがわれたお題をスルーしたつもりだったがやはりそうきたか。なんてことはない風を装いながらしれっとお題について話す。

「一時間くっつくだけでした、ね」

やや間があってから、静かな二人の表情を盗み見た。神楽さんの顔が今までに見たことがないくらい険しいものに変わっていて、妙さんは笑みを浮かべているというのに顔のあちらこちらに青筋が浮かび上がっている。

「だだだ大丈夫だったアルか!?銀ちゃんに何もされてないネ!?」
「良いんですよファーストさん。ここには女しかいません。もし卑猥なことされたならなんでもおっしゃってくださいな。私が野郎をブチのめしてきますから。なんなら股間の袋をブチのめしてさしあげますよ」
「いや、あのー…」

土間側から引き戸が開かれる音が聞こえた気がして顔を上げると、誰かがドタドタと足音を立ててこちらに近づいてくるのがわかった。もしかして、なんて思っていると、襖の向こうから顔を出してきたのはやっぱりあの人だった。

「おーい、ファースト。神楽ぐげふ」

まぁ、なんとも間の悪いお人である。神楽さんと妙さんの膝蹴りを食らった坂田さんは見事にひっくり返った。うーん、面白いくらいに一気に騒がしくなったもんだ。
「てめっ、一旦表へ出ろォ!」と鬼の形相の妙さんは見なかったフリしようとすると、服の裾をクイ、と摘まれた。あ、お客さん。

「修理屋のファーストさんとやらは、ここで合ってるかね?万事屋さんに案内されてここへ来たんだが」
「あぁ、そうですよ。こんな所までありがとうございます」
「早速修理をお願いしたいのだけれど、頼めるかな」
「どんな修理案件でしょう?」

坂田さんのことは一旦忘れることにした。


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