スーパーは戦場であって墓場でもある
◼︎
「あ、ファースト」
食料が尽きかけてきたので、3日ぶりに大江戸スーパーへ買い物へ来た。
適当に数日は食べて行けそうな食材を特になにも考えずにカゴに突っ込んでいると、横からかけられた声がまさか自分に向けられたものとは思えなくて。少し理解する時間を取ってから目線を上げると見覚えのあるサーモンピンクの髪色に青い瞳の持ち主がそこにいた。
「カグラさんお久しぶりですね」
「買い物アルか?」
「はい。カグラさんも?」
「そうだヨ。銀ちゃんは漫画雑誌コーナー、新八は新鮮コーナー、私はお菓子コーナー担当ネ」
「どういうことですか。どういうフォーメーションの組み方ですか」
「スーパーは主婦どもの戦さ場アル。三人揃えば文殊の知恵とも言うヨ」
「知恵、いります?」
どこから取り出してきたのかもわからないスーパーの店内マップを取り出したカグラさんは、それを床に置いて坂田さん、新八さんが担当するエリアをぐるっと赤ペンで囲った。
スーパーでフォーメーションも何もあるのか…?というか坂田さんの意味ほぼなくない?
「ファーストさん!偶然ですね!」
「あ、新八さん。お久しぶりです」
「ファーストさんもここへ買い物に来てるんですねー。なんか家庭菜園なイメージがあったので意外です」
「あー、家庭菜園かぁ。あそこなら出来そうですね」
それもアリかも。庭の裏を錬金術で耕しちゃえば一瞬だ。自宅の手入れのされてない庭を想像していると、新八さんはしゃがみ込んでいるカグラさんを見た。
「えっと…」
「新八ィ!お前ここに来たらダメアルよ!」
「それで…神楽ちゃんは何してるの……?」
「お前がここに来るとフォーメーションBが崩れるネ!お前のポジションに主婦が雪崩れ込むヨ!!」
「勝手にフォーメーション組まれてたのコレ!?全然知らなかった!全然知らずに周ってたよ僕!!」
「ほらぁポジション離れるから雪崩がー」
カグラさんが近くにあったお菓子をばっさばさと新八さんの持つ籠へと放り込んだ。
「神楽ちゃんが勝手にお菓子を入れてきてるだけでしょ!今月カツカツなんだから買わないよ!」
「ケチ!そんなんだからモテないアルよお前!どうせ「100人に好かれるよりたった1人の自分が好きな人に好かれる方がよっぽど幸せだ…」とか意味不明なこと言ってるんだろ」
「辛辣な標準語やめてェエエ!!」
ブー垂れてるカグラさんとそれをピシャリと言い除けながらお菓子を元の場所に戻す新八さんのやりとりは兄妹のような家族のような。2人の仲の良さがよく伺えた。うらやましい。
「あ、いたいた。新八ィこれやっぱ買うわ」
振り返ると、またもやそこには坂田さん。手には週刊誌。
「こんにちは。坂田さん」
「またお前ェ?あんなところからそんな頻繁に来てんの?あそこに住んでる意味ある?」
「しばらくは篭ってる予定なんで心配要りません」
「山籠り?えらいねェ、さながら修行僧だわ」
「えぇ、町中で仕事もらえなくてぐーたらしてるよりも辺鄙なところで仕事もらえるならそっちの方がずっといいです」
「一々嫌みったらしいなオイ」
自然な流れで新八さんの持つカゴに週刊誌を入れようとした坂田さんだったが、新八さんの方が一枚上だった。さっとカゴを引っ込める。
「今月カツカツなんで勘弁してください銀さん。買うんだったら先に仕事もらってきてくださいよ」
「新八さんなんかお母さんみたいですね」
「ふざけんじゃねーよこんなん母親だったら俺とっくにグレてっから。母親がオナベなんて死んでも願い下げだよ俺ァ」
「母乳も出ないくせに母親顔しないでヨ!母乳出てから言うヨロシ!!」
「勝手に性別変えてくんなァアア!!例えの話だよ例えの!!なんでリアルガチな性転換させてくるんだよ!!」
「もうお会計しないと先に僕のスタミナが切れて買わされそうなのでレジ行きます!」と新八さん。私ももう買うものがないので一緒にレジに向かうことにした。その間も坂田さんとカグラさんは新八さんの周りをウロウロしている。
「なー新八ィ。今週マジやべェんだって、神回すぎてコレ、買っとかないと俺この先一生今日のこと引き摺りそう」
「あー私も今日お菓子買っておかないと翌朝には死んで新八に一生後悔させることになるアル」
「一生言っててください。すいませんファーストさんこんな見苦しいところ」
「いえ、結構楽しませてもらってま、」
突然グン、と髪を引っ張られて後ろに倒れた。
倒れたけど、後ろに何かがあって正確にはもたれた、に近い。
持っていた買い物カゴはつい手放してしまって、派手な音を立てて中身をぶちまけてしまった。あらあらと拾いに行こうとするが、喉元にある何かがぐっと止まって身体が動かない。
身をよじったら頭に硬いものが押し当てられて、ちょっと痛くてそちらを確認しようにも首にある何かががっちりと私の頭を固定するものだから動けない。なんだこれ。
「ん?」
「全員手ェ挙げろ!こいつの命はねェぞ!」
「「「ん?」」」
万事屋3人組の視線がこっちに揃った。かと思えば、素直に両手を上げた。
あれ?
ーーーーー
「さ…最悪ですよ銀さん」
隣で新八が小声で言う。
「あー最悪だな。どうせならジャンプ持ったまま待っていたかったね。今なら絶対じっくり読めてた。買えなくても海馬に叩き込めるくらいじっくり読み通せてたね」
「フフン、甘いアルな銀ちゃん。私なんてあろうことかパプリコ用意してたヨ」
「あっ、ずりィぞ神楽!それよこせ!」
「ちょっ、神楽ちゃんそれお会計した!?」
「うるせェぞお前らァアア!!」
ズガンと銃声が響いて新八が飛び跳ねた。「ひぃいい!すみませんすみません!!」って平謝りしてやがる。お前そんなんだから童貞なんだよ分かってんのか。
「この大江戸スーパーは今我ら魔熊団が占拠した。てめーらは人質だ。余計な動きをしてみろ。この女の頭ブチ抜く」
「ポケGOでもしに来たアルかあいつら」
「オイオイその女とっ捕まえてもメリットねェよオッサン」
「そそそそうですよ!やめておいた方が良いですよ!」
「うるせェエエ!俺様に指図するな!ドタマぶち抜くぞオラァア!!」
「チッ、面倒くせェことになった。何やってんだ真選組の奴らは」
スーパーの表は基本ガラス張りだが、今はシャッターが降りていて状況が読めねェ。パトカー聞こえねェけど税金泥棒どもは来てんのか?
ファーストの様子を見るが特に変わった様子もねェ。ビビってるわけでもなさそうだ。
状況わかってんのか。能天気かアイツは。
「ふぇ、ふ、ふぇえええええん!!」
人質の中にいた子どもが泣き出した。声のする方を見れば、巻き込まれた母親にまだ小せェガキの親子の姿。
「うるせェな!さっさと泣き止ませろ!!ぶっ殺すぞ!」
「ヒィ!す、すみません!ね、ねぇお願い!新太!泣き止んで!良い子だから!」
「ふぇええええッ!!」
「チィッ!!」
「きゃぁああああ!!」
ファーストの頭に銃を当てていた野郎が親子の方へ銃口を向けた。誰もが目を背ける瞬間に自然と腰にある木刀に手が伸びたがすぐに止まる。
こっから投げたら軌道修正くれェはしてやれるが、そのまま撃たれたら誰に当たるかわかりゃしねェ。
どうするのが一番いい…?
「危ないですから、やめましょう?」
ファーストの声だった。
迷うことなく伸ばされた右手は銃口を覆うようにして銃を握る。一瞬アイツが何をしているのか、思考が追いつかなかった。
「な、にしやが、る?」
途端に銃が暴発し、店内は客の悲鳴が上がった。辺り一帯がパニックとなり、客達は店の奥へと逃げ出す。
騒音の中で煙と一緒にバチッと電気のような何かが弾ける音が聞こえたのを聞き逃さなかった。煙が薄くなると、野郎の持っていた銃の姿が見えたが、その変わり果て様に自分の目を疑った。
まるで銃口が捻じれたような…。あれじゃあ打てねェのは誰が見ても分かった。
ーーそして何より目に焼き付いて離れないのが、ファーストの焼け焦げた手袋の隙間から見える、あの日見た銀色に光る金属製の手。
「な、な、な、なんじゃこりゃァァア!!」
暴発時に手袋と袖が少し焼け焦げたのだろう。布の隙間から見える自我で動く指先は、その下に生身の腕があるんじゃないかと思わず疑っちまうくれェにしなやかに動く。
「ッ、ファースト!!」
ファーストを見ると、こちらには真っ直ぐとした視線を寄越してきた。何故だか俺にはその一瞬でファーストが言いたいことが分かっちまった。
「アニキ!どうしたァ!?」
暴発音に散り散りになっていた仲間が集まり始める。瞬時に背後の新八と神楽の名前を叫んだ。
「新八神楽!」
「「あいさー!!」」
神楽は銃付きの傘集まって来た仲間を蹴散らし、新八は親子を助けに。野郎は変形した銃を捨てると、腰から刀を抜き何の迷いもなく振りかぶる。
木刀投げれば間に合うか…!?
「女ァ!!死ねェエ!」
真っ直ぐに振り下ろされた刀をファーストは避けなかった。直後に甲高い音が響く。
「…な、なんなんだよお前ェエ!!」
金属同士が鬩ぎ合う音を聞きながらそこに視線を移せば、状況のヤバさを身をもって体感した野郎が狼狽え始めるのが分かった。
斬られると思ったファーストの右腕が刀を受け止めていたからだ。
「だから、危ないって言ってるじゃないですか」
受け止めてた刀を掌を翻して刀身を握り、そのまま割った。その間に俺は腰にあった木刀を槍投げのように野郎へ。クリーンヒット。
「ーーーガフっ!?」
「今私のこと狙いましたか?」
「ンなわけねーだろ、やっこさん狙いに決まってんだろ」
「でも顔面スレスレでした」
「何かとイチャモンつけすぎだろオメーは!!…ったく、無茶しやがってよォ…心臓と銀さんの銀さんが一瞬縮こまっちまったじゃねェかコノヤロー」
「木刀、同じような感じで投げ返せば良いですか?」
「あぶねェなオイィイイ!!投げ返してるわ既に!!」
転がっていた木刀を足で引っ掛けるように起こし、槍投げの如く坂田さんに投げ返した。後ろからパタパタと駆け寄る軽い足音。
「ファースト!大丈夫アル……か」
カグラさんの声に振り返る。少し剥き出しになっている右腕に視線を奪われていたようだった。ちょっとびっくりさせてしまったか…。
この国は天人とかよくわからない生物は多いが、鋼の義手の技術は無いのかもしれない。
「な、なんなんアルか…?お前のその腕…」
「義手です。不慮の事故で」
なるべく暗くならないように軽くそう簡潔に答えるとカグラさんが俯いて震え始めた。次に顔を上げたときには大きな瞳を輝かせてこちらを見上げてくるもんだから、思っていた反応と違くて逆にこちらが反応に困った。
「……か、」
「?」
「カッコいいアルゥウ!!」
「…はい?」
「ワケあり感満載でめちゃくちゃヒロイン向きヨ!いーなー私もカラクリの身体欲しいアル!」
「どーん!!」とロケットパンチを繰り出すような動作をして走り回るカグラちゃんの反応に呆気取られていると、頭に何かがかかった。
「わりーな。テレビ教育させすぎた」
肩にかけられたものは、坂田さんが着ていたあの白い羽織りだった。振り返る時には「おい。おめーら面倒くせェ奴らが来る前にトンズラこくぞ」と頭をボリボリかきながら店員に裏口を尋ねる坂田さんの黒い背中。
「ファースト、面倒な奴らに聴取される前にトンズラこくアル!」
「はい」
この羽織は…機械鎧を、隠してくれた…のだろうか?
何を考えているか分からないその背中を追いかけた。
あ、そういえば買い物できなかった。
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