さっぱり味な恋


 編入初日。無事編入試験を満点でパスしてやって来た学園、天照大神学園(アマテラスオオミカミガクエン)――生徒会室前の廊下で、月弓琴夜(ツクユミコトヤ)は菓子折り片手に目の前の部屋に入るか入らないか一秒程迷った。が、元来の性格からやらないよりはやるほうがいいと扉をノックし、返事があってから扉を開いた。
「こんにちは、突然お邪魔してすみません。弟がいつもお世話になっております」
 明るく優しい声音で、気持ちの良い感じの美形の登場に、業務で疲れきっていた数名の役員らには眩しく映った。


 ここで、少しだけ天照大神学園の現状をお話しておこう。
 著名人、地方の有力者、政界、皇族の親族の子女らが通う男子校である天照大神学園は、家柄だけではなく学力面でも非常に優れた者だけしか入学を許可されていない進学校だ。当然のように優秀な生徒が集まり、学園内の統制も完璧というくらいに取れていた。が、それは以前の話だ。
 丁度ひと月前、この学園に一人の問題児がやって来た。彼の名は月弓遊夢(ツクユミユウユ)。彼は、転校してきてから一度も授業に出ず、また、その必要性を理解できずにおり、いつの間に仲良くなったのか、生徒会の役員らも巻き込み授業をサボって遊びまわるようになった。更に悪いことに、遊夢は自己中心的な考えで肩がぶつかったと喚いて、相手を暴行。それを役員らも擁護して事件をもみ消そうとするのだ。おかげで、遊夢は暴れ放題。秩序を守らなければならない地位にいる人物らが秩序を乱し始め、ものの一ヶ月で学園内は荒れてしまった。もちろん、それを食い止めようと遊夢に感化されなかった残りの生徒会役員とその補佐は学園内の治安の強化の必要性を十分理解していた。が、他の役員らが抜けてしまった穴は小さくなく。生徒会運営だけで手一杯となってしまった。
 風紀委員会も遊夢の対応で時間と手間を取られ、学園全体の犯罪を防ぎきれなくなり、こうして無法地帯となってしまったのだ。
 

 そんな状況下、突如として彼らの前に現われたきらきらとした眩しい人物。誰かの兄らしいが、いかんせん彼の煌きは役員らにとって眩しすぎる。とりあえず、訪ねてきたのだから対応しなくてはと、会計補佐の一年生がよろよろと席を立って応対する。今にも倒れそうな声で「どちら様、ですか…?」と尋ねると、彼は人の良さそうな顔をして「申し遅れました。俺は月弓琴夜といいます」と名乗った。はぁと、生返事をしつつ、どこかで聞いたことのある名前だなと思うと、琴夜はにこっと笑って爆弾を投下した。

「遊夢の兄です」

 兄。それを訊いて、役員と補佐は絶叫した。予想以上に己の声が出てしまい、それに驚くと同時に立ちくらみを覚える役員ら。過酷な業務の疲れでふらふらとしながら、琴夜を見る。
 相変わらずきらきらしいオーラを放っている。目を引く美形だ。金髪が良く似合っていて、人好きのする顔。口調からはっきり、すっきりとした性格が覗える。とてもあの遊夢と兄弟とは思えない。もう一度云おう。遊夢と兄弟とかありえない。似ても似つかない。
 驚いて口をあんぐりと開けたままでいると、琴夜はそれを察したのか、笑いながら「よく似てないと云われます」と答える。

「実は俺も今日付けでこの学園に編入することになったんです。それで、遊夢から生徒会の方々と友達になったと聞いていたので、ご挨拶させて頂こうかと」

 これつまらない物ですがと、菓子折りを渡され、そろそろと手を伸ばす会計補佐。ちらりと見てみれば、老舗の高級菓子。
 あの問題児の転校生、遊夢を見てきてばかりだったから、常識ある対応、言葉使いに感動すら覚えた。むしろ、あの問題児の兄とか嘘だろう!?
 心の中でほろほろと涙を流すと、あの問題児の暴れっぷりを知っているのか、いや、兄弟だから知っているかもしれないが、琴夜は眉を下げた。

「遊夢はご迷惑をおかけしていませんか?」

 そりゃあ、もう山ほど!!と、答えられればどれだけいいか。だが、日本人の性質上、はっきりともの申すことは苦手なのだ。しかも、遊夢の肉親にそんなはっきりと云えるはずもない。だから、引きつった笑みを浮かべて八橋とオブラートでぐるぐるに包んだ遠まわしな表現しかできなかった。
 疲れた笑みを向け、遊夢をわんぱくと表現した一年生の会計補佐に、琴夜はカラッとした爽やかな笑みを向ける。

「もっと、はっきり云ってくれても構いませんよ?遊夢が迷惑かけてますよね?」

 さっぱり、はっきりとした発言に、周囲が度胆を抜かれると淡々とした、けれど明るい口調で琴夜は続けた。

「今までもそうだったんですけど、遊夢が生徒会の方々と仲良くなると学園中を巻き込むような問題になるようで。今回も皆さんの疲れ切った顔見てピンと来ました」

 あいつ迷惑でしょう?と。
 あっけらかんとした発言に、状況に理解ある発言に、思わず会計補佐はぼろりと漏らした。

「そうなんですッ!もう、アイツ最悪なんです!」

 わかってくれますかッ、お兄さん!と、口から言葉が飛び出すと、眺めるようにして経緯を見守っていた周囲の者たちも今まで抑えてきた言葉を吐き出した。あっという間に愚痴合戦になってしまったのを嫌な顔もせず、どちらかと云えばうんうんと頷きそうなくらいの楽しげな表情で彼らの言葉に耳を傾けている琴夜に、この場のリーダー的存在の三年生が頭を掻きながら謝った。

「…何かすまないな、ウチの奴らが」

 銀色の短髪の男に、琴夜は「いいですよ、俺の弟が悪いんですから」ときらきらとした爽やかな笑みを浮かべた。その様子に、短髪の男は企みめいたものを感じて眠い目をシパシパさせながら尋ねた。

「で、あんたはこの学園に何しに来たんだ?」

 ストレートな問いかけに、琴夜は少し驚いたがすぐに口元に笑みを浮かべてにっこりした。

「アイツに伝えたいことがありまして」

 きらきら爽やかな笑みなのに、その中に明らかな憤怒を感じてうっすらと背筋を凍らせたのだった。



 どうしてか顔に変な汗をかいた短髪の三年生に、遊夢はこの時間帯に食堂にいると教えられ、琴夜はあらかじめダウンロードしておいた学園マップをスマホで見ながら食堂へ向かった。
 時間帯が昼休みとかぶったせいで、食堂内は混雑していた。が、一般生徒が誰一人としてしゃべっていなかった。シンと静まり返った食堂の中、聞きなれた声が響き渡っている。己の弟、遊夢だ。
 遊夢は、いつもと同様。見目の麗しい学園の生徒会を侍らせていた。今回はまだ時期が早いからか、遊夢の周囲にいる彼らはまだ桃源郷から覚めていないようだ。それでも、遅かれ早かれ、彼らは遊夢の性質を知る。
 琴夜はふうと呆れたため息を吐き出して、遊夢へと近づいた。

「遊夢」

 突然かけられた声に、遊夢とその周囲の生徒会役員が振り返る。突然出現した輝かしいオーラを放つ琴夜の登場に、役員らは警戒する。

「げぇええッ!兄貴!?」

 心底嫌そうな遊夢の口から出た兄という単語に、役員らは思わず遊夢と琴夜を見比べた。乾燥ワカメが水を得て数倍に膨れ上がったような黒髪の遊夢と、オーラと同様に輝く金髪の美少年の琴夜。目が肥えた人でも目を引く外見に、役員らは無意識に目を細める。そんな役員らの探るような目に構わず、遊夢は琴夜に食って掛かる。

「何しに来たんだよ!」
「通達があって来た」

 琴夜は表情を変えずに、キラキラな笑みで云う。

「お前は我が月弓家から絶縁となった」

 琴夜はその性格のまま、はっきりと何も包むことなく告げた。その言葉の意味を理解していないのか、遊夢は「何だよそれ!?」と声を上げた。

「何だよ、ぜつ、えん…?って!別に俺は何もしてないだろッ!」
「それはおかしいな。じゃあお前が少し前にうちの出入り業者のご子息を殴ったというのは何もしていないことになるのか?」
「俺は殴ってない!そ、そうだ、ここにいる正志がやったんだ!おれはそれを止めようとしただけだ!」

 隣の席に座る正志という綺麗系な少年が、「え?」という顔をして固まっている。徐々に露わとなってきた遊夢の性質に、戸惑いを隠せないようだ。

「またそうやって人のせいにする。遊夢の悪い癖だ。でも、今回でそれも終わりだな。俺は云ったはずだ。今回の転校先で100回目となる暴行事件を起こしたら、月弓家と縁を切らせるってね」
「そ、そんなこと俺は知らない!そ、それに、母さんたちがそんなことさせるはずがないだろッ!」
「ああ、可愛い我が子を絶縁になんかするはずがないって?残念だけど、その件はもう解決済みだ。なんせ、俺が月弓の当主になったから。それに、以前よりお前がもたらす問題のことで俺が両親にずっと説いていたから。月弓にデメリットしかもたらさないお前と関係をもっていて、こちらに何のメリットがあるのかってね。お前がもう少し可愛げがあったら、違ったんだろうけど。転校する度に訴えられてたらたまったもんじゃない。交渉して怒りを収めてもらうのに、一体いくらかかったと思ってるんだ。俺がいくら稼いでも、お前がくだらない理由で使っていたんじゃ、割に合わないだろう?お前もスマートに考えれば分かるだろう。デメリットしか生み出さないものは切り捨てる。これは生きていく上での基本だろう?」

 その言葉を理解できたのかはわからないが、キラキラしいオーラを背負いながらの琴夜の迫力に遊夢はぐっと口を閉ざすことしかできなかった。

「それに。今回は遊夢が侍らせようとする人が悪かった。これさえなければ、俺もお前を絶縁なんて罰を与えようなんて考えなかった」

 せいぜい出家させるくらいだと、あまり変わらないような気がすることを述べると、カタンと遊夢が侍らせていた役員側から動きがあった。長身、短髪黒髪の男が立ち上がり、やけに熱い眼差しで琴夜を見つめていた。
 彼が立ち上がったので、遊夢が反応する。

「何だよ、侑時!あッ、もしかして、俺を心配してくれるのか!?それなら大丈夫だぜ!きっとぜつえ、ん?とかいうのは、兄貴が勝手に云っているだけ」
「うるせぇ、黙れクソわかめ」

 今まで聞いたことのないような低い唸り声を出されて、思わず遊夢が怯む。その間に、侑時と呼ばれた男はキラキラオーラの琴夜の傍に寄る。

「琴夜…」

 するりと琴夜の腰を抱いて、甘ったるい声を出す侑時。先程と同じように熱い視線を琴夜の視線に絡め、己の腕の中へ琴夜を閉じ込める。その行動に満足したのか、琴夜はにっこりと笑っている。侑時を気に入っていた遊夢はその言動にショックを受け、ぶるぶると体を震わせながら、侑時を指さした。

「な、何してんだよ!あ、兄貴なんか抱きしめてんじゃねぇよ!あっ、わかった!兄貴から脅されてるんだな!?それなら、俺が兄貴を懲らしめてやるから、俺の所に来いよ!そんな奴だき」
「琴夜は俺の恋人だ」

 遊夢の言葉を遮り、恋人発言をぶちかます侑時。突然の告白に、「ひぐッ」と豚のような声を上げる遊夢。先程からダメージを受けてばかりの遊夢に、琴夜は侑時の腕に自分の手を重ねながら言い放つ。

「一応これでも俺の恋人なんでね。自分のものに手を出されるのは嫌なんだ」

 変わらずにっこりと笑えば、顔を真っ青にする遊夢。まさか自分が色目を使っていた相手が兄の恋人だったなんて、誰が想像するだろうか。それでも、やっぱり今回に限っては良い物件だったのか、遊夢はキッ!と琴夜を睨みつけると、ガポッと頭にかぶっていた20%増量ワカメを床に叩きつけた。途端、露わになる焦げ茶色の髪。今まで見えなかった外見はそこそこに受けが良さそうだ。

「兄貴なんかやめろよ!俺の方が絶対にイイに決まっている!」

 そう豪語するが、よく見ると鬘で蒸れてしまったのか、髪はベタベタ。肌も清潔にしていなかったのか、ボロボロだ。皮が剥がれる程の状態に、傍から見ていた美肌男子たちが悲鳴を上げる。元はいいのに、この状態では残念としか言いようがない。
 色々と歪んだ告白をされ、侑時は大きなため息を吐いた。

「琴夜の弟だからと甘くしてきたが、もう限界だ。お前が起こした暴行事件で琴夜の名に傷がつくかもしれないとしたくもなかった擁護をしたが、それすら当たり前という態度。更に、甘くすれば付け上がって我儘し放題。俺とは合わないことがはっきりとわかった。お前と一緒の空間にいることさえ無理だ」

 話していて、遊夢の最悪な性質を思い出したのか、琴夜を強く抱いて心を癒している。
 遊夢は意中の相手に、無理とさえ云われ膝をがくりと落とした。その様子を見て、琴夜はきっぱりと云う。

「それと、遊夢。お前はこの学園でも多くの方々に迷惑をかけた。自主退学の手続きは済んでいるから、この学園から出ていきなさい」

 声を張るでもなく食堂中に響いた琴夜の声に、遠巻きにしていた生徒が万歳をした。拍手喝采。喜びの声で今度は食堂中が溢れる。
 うなだれる遊夢に、この状況にますます戸惑いを隠せない役員ら。彼らの様子を横目に、琴夜は侑時に聞こえるだけの声で云った。

「侑時が…遊夢の傍を離れないと報告があった時、ちょっと悲しくなった」

 遊夢の動向を知るために監視させていたがそれで自分が傷ついて怒りを覚えるとは思わなかった。

「それは…琴夜の弟だから、琴夜の名が少しでも傷つくのが嫌で、守りたかったんだ」
「わかってる。でも、嫉妬するくらいお前が好きなんだなって思って…」

 こんなに好きになるとは思っていなかったからと、照れたように云う琴夜に、侑時は目を見開いた。
 この二人の関係は、侑時の強い片思いからなっていた。一目惚れして、そのきっぱりとした性格に二度惚れて、告白してしつこくアプローチして付き合うまでに至った。だから、自分の方が琴夜を好きでいてばかりだと思っていた。けれど、今の発言で自分も琴夜から想われていることを知った。

「琴夜…」

 思わず抱きしめれば「いや、人前だから」とすっぱりと断られ、腕の力を緩めるしかなくなった。けれども、自分の心の中の歓喜を伝えたくて、侑時は手の甲に唇を押し付けると、真剣な表情になった。

「生き生きとしていつも輝いているお前が好きだ。他の男には渡したくない。絶対に」

 何度目かの愛の告白に、琴夜はキラキラオーラを最大にして照れた笑みを浮かべた。その可愛さには思わず周囲もきゅんとしてしまう程だ。
 が、それも長くは続かず。やっぱりきびきびとした性格の琴夜は、そのまま侑時に恋人繋ぎをされながらも、厳しく言い放つ。

「それで、侑時。遊夢が悪いとはいえ、現を抜かしていた役員たちへはどういう対応になるんだ?」

 急に自分たちの話題となったこの場にいた役員たちはビクッと肩を跳ねさせた。が、彼らも言いたいことがあるらしく、一斉に侑時を見た。彼らが云いたいのは、侑時も同じように遊夢と行動していて、仕事などしていなかったじゃないかというものだ。その視線に答えるように侑時は、云っておくがと前置きをしてから説明した。

「俺はお前たちと違ってあいつに現を抜かしていたわけじゃない。日が落ちてから生徒会室で仕事をしていた」

 真相を教え、もういいだろうと彼らを冷めた目で見つつ、琴夜に惚れ直してもらうために、処分を言い渡す。

「業務放棄をした役員は二週間謹慎。今期の生徒会は連帯責任で、総解散。一週間後に生徒全員の総意を得て次期の生徒会役員を決める。以上だ」

 自分の判断で下した処分内容に琴夜の顔を見る。満足そうに笑みを浮かべている彼を見て、小さく安堵した。彼をずっと惹きつけておくには、仕事のできる男でなければならない。
 恋人繋ぎをしたまま、侑時は琴夜の手を引いて食堂を出た。すぐに、使えない役員らの解散、遊夢の退学に全生徒の歓声が聞こえてきた。

 その後、天照大神学園生徒会は総解散。仕事をしていなかった役員が二週間の謹慎中、次期の生徒会役員任命が行われ、侑時は再び会長の座に。遊夢に絆されずに生徒会室で業務をこなしていた人たちは再び役員として任命。補佐をしていた生徒も役員へと昇格し、傾いていた学園を立て直すことに尽力した。
 遊夢はというと、月弓家から絶縁、追放となり海外の修道院で矯正することになり、報告では何度も脱走を試みているらしいが屈強なシスターたちに捕まり、断念させられているようだ。
 琴夜はというと、曲がったことが嫌いなことから秩序を正すと自ら風紀委員入り。食堂での一件と、才覚と実力で短期間で風紀委員長まで上りつめた。そんな琴夜は、ちょくちょく生徒会室に顔を出す。
 コンコンとノックをして、返事を待って戸を開ける。いつもの行為。

「侑時います?」

 その声に生徒会メンバーは慣れたもので、会長を呼ぶ。

「月弓会長。風紀委員長が来てます」

 メンバーに呼ばれ、奥から顔を出す侑時。彼が呼ばれたときに、苗字が間違っていたわけでも、誤字でもない。
 琴夜が来ていると訊いて顔を出した侑時は嬉しそうな笑みを浮かべ、同じ姓である琴夜を迎え入れた。そう、侑時は月弓家に婿入りしたのだ。
 プロポーズ後どちらの姓になるかという問題で、琴夜は家業を辞めることはできず「婿に来い」の一言ですんなり婿入りが決定したのだ。侑時としては、一緒にいられるならどんな形でも構わなかったらしい。

「侑時、昨日の暴行事件の被害者の資料くれないか」
「ああ、今もって行こうと思っていたところだ」
「ありがとう。で、今日の夕飯何にする?」
「そうだな…鯖の味噌煮、とか」
「鯖な。わかった」

 仕事とプライベートを短い会話でこなす琴夜。侑時としては新婚であるし、もっと話したいし、触れたいようでそっと手を伸ばすとさらりと交わして踵を返す琴夜。琴夜は、人前でイチャイチャすることにまだ抵抗があるらしい。
 避けられてしょぼんとした顔をすれば、琴夜は仕方ないとそっと耳打ちした。

「お前の好きな焼きナスもつけるから、今は我慢な」

 爽やかの中に恥ずかしそうに頬を染める琴夜はすぐに侑時の元を離れた。
 彼の後ろ姿を見ながら、侑時は顔を手で押さえる。

「俺の奥方、最高…っ!」

 彼らのやりとりを、周囲は生暖かく見守ったのだった。



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