花のように - 相澤消太 (男主)


 アパートの2階、角にある部屋で明日のない子供について考えていた。埃の被った灰色のカーテンの向こう。ベランダには花束の死体が溢れている。ベッドの上で、死んだように目を瞑る男に声をかけた。

「ねぇ、消太。僕らはいつも、どうしてだろう。たくさんの事を忘れていってしまうね」

 思い出の意味を、あの時のサイレンの優しい音を、スプーンの持ち方を。忘れたくないと思っていても、忘れていってしまう。

「もう、終わりにしよう」

 何を終わりにするのか、終わりにしなきゃいけないのか、何一つ分からないけれど。それでも。

「斎、俺はお前のように頭が良いわけじゃない。だから、お前が何を考えていたのかなんて分からん。でもな、終わりにするってことは、きっと……」
「出会わなければ良かったんじゃないかな。そしたら、一番はじめも全ての終わりもここには無いでしょう。だから」

 季節の早さに付いていけなくなった僕たちは、お互いを傷つけることしか出来ない。

「その心で愛すること、叶わなくとも。だろう?」

 不器用な微笑み。不器用な救い。スプーンでシチューを掬うことも出来ない、不器用な僕の精一杯の強がり。潰した錠剤から溢れた記憶や言葉は粉になり、スラムで暮らす女の子は札束に姿を変えた。

「僕はいつか、君はいつか、僕らはいつか……」
「大丈夫だ、何もかも」

 根拠の無いそれに縋ることしか出来ない僕は。何を思って笑うんだ?救いようのないクズのため?何を妬んで泣いてるんだ?救いようのない話。吐き気がするな。あぁ、でも。花のように生きられたら、それは。素晴らしいこと。


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