気狂いピエロ - 相澤消太 (男主)
今日はフランス映画か。女優が歌を歌っていた。いつまでも愛するとは言わなかった、なんて。馬鹿みたいだと思った。そして、俺もまた馬鹿な男なのだ。きっと。
斎とはガキの頃からの付き合いだった。いつも眠そうな目をしていて、何を考えているのか分からない奴だったが、同年代の他とは違ってとても頭が良かった。落ち着きがあった、というより達観しすぎていた、という方が正しいのかもしれない。閉ざされた斎の世界は、斎だけの物だったし、そこに他者が入ることは無かった。それは今でも変わらない。音量が余りにも大きかったので、テレビのリモコンを取ろうとしたとき、ようやく斎と目があった。
「……いつの間に、来てたの?」
その質問には答えなかった。どうせ言ったって、意味が無いのだから。
「どっちかにしろ。映画を見るのか、本を読むのか」
斎は肩を竦めただけだった。言っても聞きやしないと分かっていても、言わずにはいられない。
「何も、何も考えたくないんだよ」
俺は、そうかと言うだけだ。こういう時の斎に、何と返事をすれば正解なのか。未だに俺は分からないままでいる。一つ分かるのは、斎は本当に"何も考えたくない″という事だけ。一人掛けのソファにだらしなく座っていた斎は、角がボロボロになった小説を床に落とした。黄色い羊が俺を見ていた。
Ma ligne de chance, ma ligne de chance
Dis-moi, cheri, qu'est-ce que t'en penses......
「……ねぇ、消太。俺の生命線は短いと思う?」
斎は映画に合わせて小さく歌ったあと、あの眠そうな目をこちらに向けた。お前、フランス語も出来んのかよ。そんな事しか頭に無かった。
「さぁな。俺もお前も、死ぬときは死ぬんだ」
「それだけ?」
「他に何を言えって?」
「手を、撫でるのが好きなんだ。とか……」
そこまで言って、斎はまた自分の世界に入っていった。その顔を見るのが好きなんだ。とか。馬鹿な俺は何も言わずに、テレビの音量を下げた。
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