500円で世界を買うんだ - 月島蛍
「月島くんさぁ、この街のこと考えたことある?」
彼女はベッドの上に寝転がって万華鏡の中を覗きながら僕に話しかけた。考えたことないと答える前に、彼女はまた話はじめた。
「ホントはこういうの、考えない方がいいンだけどね。でもさ。この街はね、なーんにも無いんだよ」
床に転がってるビー玉もお弾きも、棚の上に雑多に並べられた我楽多も、今や彼女の思考から追いやられたゴミのように僕は思えた。部屋に置いてある一人掛けのソファに座って、話の続きを聞いた。
「小学校に上がってから、母さんには内緒で、父さんがお小遣いをくれたんだ。500円。その500円玉を握りしめて、山の上にある遊園地に遊びに行ってたんだ」
地元に一つだけあった山上遊園地のことだ。遊園地の敷地の中に電波塔があって、それがロケットみたいに沢山並んでいた。
「でさぁ、毎週ソコに遊びに行ってたからね、係員とか広場で将棋してたジィちゃんとかと仲良くなったわけなんだけど。中学に上がる前に、閉鎖したの覚えてる?私は今でも覚えてる。みーんな、居なくなっちゃったんだよね。子供乍に、この街は子供が嫌いなんだと思ったんだ。……まぁ、今でも子供だけど」
僕はその遊園地に2、3回しか行ってなかったから、当時のことなんて全く覚えていなかった。
「初めてあの遊園地に行って、あの電波塔を見たとき、いつか大人になったら、この電波塔を爆発させて、この街を自分のモノにしようと思ってたんだ。あの頃は、この街が世界の全てで、500円で世界を自分のモノに出来ると思ってたんだ」
馬鹿みたいだと思った。500円で世界を支配できるわけないじゃないか。僕は興味無さげにふぅんと頷いた。
「でも今じゃあ、この街はなーんにも無いんだよ。500円じゃ、世界は買えないんだ。こうして少しずつ、ゆっくりこの街は死んでいく。誰にも気付かれずに。悲しいね。街は人がいなきゃ動かせないってのに、人はこの街から離れていくんだ。それで私も同じように少しずつ死んでいくんだよ。この街の、あの遊園地と一緒に。悲しいね。悲しんでくれる人がいないなんてさ」
「僕はきっと、君が死んでも悲しまないよ。多分だけれど、泣いたりもしない」
「いいよ、別に。それでいいんだ。それが世界だ」
「いつか、君はきっと、あのロケットみたいな電波塔に登って、死ぬんだろうね」
そんな未来が僕には見えた。そして、ほんの少しだけ、君のことがカッコイイなと思った。
- 11 -
*前次#
短編 トップページへ