サーカス - 中原中也 (not夢)


 劫々と更けていく真ッ闇な夜の中、ただ一人、酒のまわった頭で、汚れ木綿の屋根の上で寝転ぶ。丁度、頭を預けた部分が、屋根の一番上の場所だったらしく、視界が逆さになり、『ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん』と揺れている。揺れているのは、きっと酒のせいでもあるのだろうけど。

 粉のような雪がはらはら舞う中、薄い雲に覆われた月は、鈍い光を放っている。それに手を伸ばせるほどの気力は残っておらず、頭倒さに手を垂れて、一つ息を吐けば、白い息が口から洩れた。

 あの薄い月に、見えるはずのないブランコが掛かっている。あのブランコの乗り手は自分自身だ。少しでもバランスを崩せば真っ逆さまに落ちてしまう。それがなんだか、屋根の上で寝転んでいる今の自分のようで、少し滑稽に思えた。

 今夜、此処でまた酒を飲んでしまおうか。それこそ酔いがくるくると回って、足元が揺れて、下に落ちてしまうかもしれない。

 あぁ、それでも。それでもきっと、自分の死体を見にやってきた観客は後を絶たないだろうし、そいつらの顔は皆、鰯のように冷え切った目をしているのさ。

 真夜中に酒を煽り、そのまま屋根の上から落ちて死んだ男の話を、嬉々として話すのだろう。

 その噂話も『ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん』と揺れて、いずれは消えていく。

 落下傘目のノスタルジアと。


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