シド・アンド・ナンシー - 月島蛍
「私、あなたと一緒にいると凄くイライラするの」
彼は私をザ・スミスみたいな悲しい気分にさせてくれるけど、あなたは違う。どっちかって言うとレディオヘッドって感じ。分かる?
あなたはいつも自分の世界にいて、自分の世界に絶望してるだけ。でも、彼は違う。私と同じ世界にいて、私を悲しい気分にさせてくれるの。
私は今、そんな悲しい気分になりたいの。あなたには分からないでしょうけど。
だから、
「私、あなたと一緒にいると凄くイライラするの」
あなたが読んでる本も、友達も全員嫌いよ。あなたが聴いてる音楽はクソみたいだし、そのクソみたいな音楽のせいで一晩中ずっと眠れないときだってある。それに、あなたの嫌味ったらしい所も大嫌い。
斎はそこまで言ってから、1つため息をついた。僕はただ、何も言わず隣に座っている。だって、僕は斎がザ・スミスよりジョイ・ディヴィジョンが好きってことを知っているし、ランボーよりアレン・ギンズバーグの詩が好きってことも知っている。でも、本当に一番好きなのはゴア・ヴィダルだ。斎の言う彼が、そのことを知っているかどうか、僕には知りようもないけれど。
こういう時、なんて言えばいいんだろう。何を言っても、きっと斎を怒らせるだけだ。たとえ、イアン・カーティスの言葉を引用したところで、彼女の怒りは収まらないだろう。なんたって『愛が二人を引き裂く』のだから。ラブ、ウィル、テア、アス、アパート。それにしても、斎は酷い。僕の聴いてる音楽がクソみたいだって?そんなハズない。ブラーの音楽は、みんなが思ってる以上に繊細だし、ソング2以外にも凄くいい曲だって沢山ある。まあ、オアシスには負けるかもしれないけれど。
「僕も君と一緒にいると凄くイライラするときがあるよ」
たまにね。でも、それは仕方ないことなんだと思う。僕らは育ってきた環境が違うし、選んできた道も違う。好きな本も、好きな音楽も、友達も、何もかもが違う。なのに、こうして一緒にいるってことは、つまりは、そういうことなんじゃないの?
「だったら、何の問題も無いんじゃない?」
「私、あなたのそういう所が大嫌い」
「ずっと前から知ってる」
「あなたが知ってることくらい、私だって知ってる」
でも、それってさ、知ってるってことは、相手をちゃんと見てるってことを証明しているんじゃないの?
「それには感謝するよ。君は幸せ?」
「あなたは幸せね」
「君は違うの?」
「いつもケンカばかり」
「確かに、最悪だ」
「まるでシド・アンド・ナンシー状態ね」
「僕は君を7回も刺したりしない」
「違うわ、私がシドよ」
「……僕がナンシー?」
「ほらね、あなたは何も分かってない」
斎はイタズラが成功した子供みたいに笑った。その笑顔が、良い意味であることを願うばかりだ。
あなたは何も分かっていないし、分かってたとしても、それを見ようとしない。認めようとしない。でもそれって案外、普通のことだったりするのよ。
「なら、もうアイスでも食べようよ」
「それには、私も賛成」
僕らはまた、アイスを食べながらケンカをする。コーンかカップか。どっちがいいか、なんて。ホント馬鹿みたいだ。
oasis - Married With Children
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