あの世の案内人 - 太宰治 (男主)


「あと何回やれば気が済むの?」

 同じことで失敗するなんて馬鹿がやることだよ、きみ。なんて、そんなこと言わないでくれよ。僕たちの仲じゃないか。なぁ、そうだろ。

「私はね、別に君に生きていて欲しいとは思わないけれども、だからと言って死んで欲しい訳でもないのだよ?」

 分かってるさ。もつれた舌は声を邪魔して太宰には届かなかったけれど。過剰摂取なんだと。笑えるねぇ。医者に飲めと言われたから飲んだだけなのに。
 ベッドの上でヘラヘラ笑うと、彼は一層顔を顰めた。そんな顔するなよ、きみは何も悪くない。でもね、太宰。

「僕らは一番美しい瞬間にこの世を去るべきだと思わないか?」

 歳をとって醜くなるくらいなら、若いうちに、一番美しい瞬間に僕らは死ぬべきなのさ。まぁ、君が1人で死にたいと言うのなら僕も1人で死ぬだけだけれども。でもまぁ、君には探偵社の仲間がいるからね。死ぬときは彼らに迷惑をかけないように気をつけなよ。僕はそういう人がいないから、身辺整理とかいうのは君よか気楽だな。

「君ね、そう気楽に死ぬものじゃないと思うよ。私だってそれなりに自殺経験があるから分かるけれども。死ぬってのは、そう簡単にやっていいことじゃあないんだよ」
「そうかい」

 なら僕と君は、いつまで経っても死ねないじゃないの。僕はさっさとこの世とおサラバしたいというのに。

「馬鹿だなぁ、きみは。呆れて掛ける声も見つからない」

 この部屋は。この部屋には、死が漂っているね。自殺だの何だの言っているから、隣の部屋の病人が死んでしまったじゃないか。僕が死ぬはずだったのに。

「分かるのかい?」
「そりゃあ、きみ。僕には入退院経験があるからね」

 何度も退院するから、死神にすっかり嫌われちまったや。あぁ、僕はもう死にたくなってしまったよ。

「きみは、いつでも死にたいじゃないか」

 まぁね。隣の部屋の彼女は、とても綺麗な声をしていたんだよ。知っていたかい?

「いいや、知らないね。何せ会ったことが無いのだから」

 おや、そうだったかな。よく3人でくだらない話をしていたような気がするのだけれど。……ねぇ、太宰。僕はもう眠ることにするよ。さっきから、瞼がくっつきそうなんだ。

「あぁ、ゆっくり休むといい。死神もその方が仕事をするのに楽だからね」

 ねぇ、斎。序に言うけれどね、隣の部屋は空き部屋なんだよ。きみが言う彼女は別の病院に引っ越したんだ。死体に向かって言うことじゃあないだろうけれど。それでも一応ね、報告はしないと駄目だろう?
 おやすみ、斎。きみは今、死んでしまったけれど。それでも、私は生きているんだよ。まったく、笑えない冗談だ。


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