どうでもいい話 - 降谷零
6月頭。梅雨に入るには少し早くて、でも春なわけでも、もちろん夏なわけでもなくて。何となく蒸し暑いだけで、何となく気乗りしない毎日を消費している。これから会う友人は、きっと最後に見た姿と変わらず、煌めく金髪とムカつく笑顔で、私が話すどうでもいい話を、どうでもいいと言った風に聞き流すのだろう。
『年間の交通事故死者数は毎年、だいたい4000人だ』
もう随分と前、誰かが言っていた。ならもう2000人は死んでいて、これから半年かけて残りの2000人が死ぬ。その2000人が今どこで何をしているのかなんて知らないけれど、多分、私と同じように、毎日を何となく生きて、特に意味もなくスマホを弄りながら、何となく時間を潰しているんだと思う。知らないけど。その2000人のうちの1人が自分かもしれないし、そうじゃないかもしれない。もしかすると明日の朝、2000人の人殺しのうちの1人になるのかもしれない。知らないけど。
これから自殺する1万人以上の人間は多分だけど、何となく自分が自殺するのを分かってるのかも。来年もだいたい4000人が交通事故死するだろうし、1万人以上の人間が自殺する。
そう言えば、近所の雀荘に通ってた明らかにカタギじゃないオジサンが『どんなクソ野郎でも、だいたい1人2000万で売れる』と言っていた。そのオジサンは最近、雀荘に来ていない。海の藻屑になったか、2000万の札束に姿を変えたか、歌舞伎町とかで飲んだくれてるか。まぁ、どうでもいいんだけど。
『年間の交通事故死者数は毎年、だいたい4000人だ』
この前、俺が言った話だ。他の誰でもない俺が。そう思っても仕方がないし、彼女からすれば誰が話したかなんて『どうでもいい』事なんだろう。多分。
長袖のTシャツは腕にベッタリ張り付いてて気持ちが悪いし、かと言って半袖だと季節感が狂っていると思われそうで結局、長袖のTシャツを腕まくりして着ている。袖口が伸びてそうで嫌だなんて言った所で、彼女からすれば、だから何?って感じなんだろうが。
久しぶりに会った彼女は、以前の記憶と殆ど変わっていなかった。そんな彼女と2人で、代わり映えのしない時間を何となく過ごしている。
2000人がこれから交通事故死しようが、1万人が自殺しようが、雀荘通いの明らかにカタギじゃないオジサンが2000万の札束に姿を変えていようが、俺の友人たちは生き返ったりはしない。それだけは確かだ。
それでも、彼女にはなるべく長生きして欲しいし、俺もやらなければならない事があるから、まだまだ死にたくない。出来るなら、2人で長生きしたいと思っているが、どうなるかは分からない。明日死んでもおかしくない職につき、明日どこかの誰かに殺されるかもしれない仕事をしている。
彼女にそう言えば、私なんて30分後にトラックに轢かれて死ぬかもしれない運命の下で生きていると返された。そういう奴に限って長生きするもんだと、笑って言ってやった。
ずっと言おうか迷って、迷って、結局、毎回言わずじまいになってしまっている事を、今日こそは言ってやろうと思う。彼女が30分後にトラックに轢かれて死んでしまうかもしれない前に。明日、俺がどこかの誰かに殺されてしまうかもしれない前に。
『ずっと前から好きだった』
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