Schwarzwälder Kirschtorte 1 - トレイ・クローバー


※割と酷い話です
※夢主は次の話から出てきます



 パン屋の主人、トレイ・クローバーはその界隈の名物男で、みんなに好かれていた。養成学校を卒業式してすぐ、父親が経営していた大きなケーキ屋とカフェを受け継いだ。順風満帆に思われた。マイスター試験にも合格していたし、結婚もしていた。町外れに自宅を新築し、トレイとユウは毎週末、建築現場を訪れ、そこでの暮らしを夢に描いていた。全てが変わったその日、トレイはいつもより早く帰宅した。ユウを驚かせたかったのだ。
 間男はスラリとモデルのような男で、髪はプラチナブロンドの美しい色をしていた。男は玄関に立っていた。トレイはその男の事を知っていた。家具屋の店員だ。男が別れを告げると、ユウはにこやかに笑い嬉しそうにした。トレイはユウに騙されたと思った。
 それからは、あっという間の出来事だった。彼は週末の庭仕事で使い、玄関に置きっぱなしだったシャベルを掴むと、男の首に叩き付けた。シャベルの先端には土が着いていた。男の体の中に土が混ざる所が、目に見えるようだった。それから、ぱっくり開いた傷口から迸る鮮血を見つめた。血は明るい色の絨毯に零れ落ち、奇妙な模様を描いた。とても高価な絨毯だ。うちにはもったいないくらいだ。トレイはそう思った。この間、家具屋を訪ねた時、ユウは言った。

「あのカーペット、エントランスに敷いたらとても合いそうだね」

 トレイは店員の前で、家の話をしたくなかったので、ユウの言いなりになった。ユウはその店員と浮気して、トレイをコケにした。今、その店員が目の前の床に横たわっている。首の一部がザックリ切れ、いつしか血は出なくなった。トレイは思った。店員は中身が空っぽになった。奇妙な死に方だ、と。
 警察は手続きの際、悲しい誤解だと言った。店員はユウの浮気相手ではなかったのだ。ただ、リビングの寸法を測りに来ていたにすぎなかった。鑑定に当たった精神科医は、トレイに深刻な障害があると証言した。トレイには、精神科医の専門用語がまるで理解できなかった。だが、それももう昔の話だ。彼はその事を思い出す事もなかった。


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