与太話 - 雲雀恭弥


 今では珍しい平屋の日本家屋。夥しい数の監視カメラを気にする風でもなく、雲雀恭弥はいつものように帰宅した。一足のチェルシーブーツが行儀よく並んでいるのを見て、帰ってきたんだな、と思った。それと、今までよく持ったな、とも。客間を通り、台所を抜け、一番奥の居間へ向かった。

「おかえり」
「おかえり」

 妹の斎の顔を十年ぶりくらいに見た。変わったような、変わっていないような。奇妙な感覚だった。

「あの人たち、まだ生きてるの?」
「残念な事にピンピンしてるよ」
「そう。帰国の理由は?」
「二人の我儘には、もう付き合いきれない」

 雲雀家の前当主とその妻、つまり恭弥と斎の両親は、一年の殆どを海外で暮らしていた。斎は両親にくっついて十ヶ国以上、行ったり来たりしていたが、それも、もう疲れたのだろう。

「よくやった方なんじゃない?」
「我ながらそう思うよ、相棒」
「ミヨさんは?」
「夕飯の買い出しに行った。私が急に帰ってきたせいで、メニューを考え直さなきゃいけないってボヤいてた」
「そう」

 ミヨさんとは、先代の頃から雲雀家がお世話になってる手伝いの女性だ。中々に肝が座っているというか、割と豪胆な性格をしている。

「そっちの調子は?」

 斎が聞く。

「マフィアになった」

 恭弥が答える。

「……マフィア?」
「イタリアのね」
「何があったか聞くべき?」
「話が長くなるよ」

 それに、話したくないことも話さなければいけなくなる。あの忌々しい六道骸について、だとか。

「面白い所だけ掻い摘んで編集してくれる?」
「お茶でも淹れてきて。僕は着替えてくる」

 そうして、二人は暫くの間お互いの近況報告をしあった。実の兄がマフィアの幹部になった話を聞いて、斎は大きく溜め息を吐いた。

「この家がヨルダン辺りまで吹っ飛んで、当主の首が長男から長女へすげ替わっても、私は驚かない事にするよ。元々ヤクザみたいな家だけどさ、それは並盛に限った話だった。でも、今はどう?兄はイタリアのマフィアに目を付けられて、いつの間にかファミリーになってる。それも幹部にまで上り詰めて。和食は前菜。メインディッシュはイタリアンにするわ。なんて言われて、私はどう返したらいい?あぁ、いいね。なんなら途中にボルシチでも頼もうか?」
「僕の妹とは思えないくらい、面白い話だね」
「お褒めの言葉、どうもありがとう」
「どういたしまして。でも、ボルシチはもう片付けたよ」

 斎は閉口した。その顔を見て恭弥は笑った。

「割と新顔のロシアン・マフィアでね。ボンゴレを踏み台に一花咲かせようって魂胆だったみたいだけど、ボンゴレがそれを許すわけもない。そこで僕の出番って訳だ。いつもの報酬の3倍の額を支払わせたよ。いい小遣い稼ぎになった」

 ホットシュリンプを露店で売る気安さで一般人にマフィアの内情を話す恭弥を見て、斎はもうダメだ、手遅れだと思った。

「可哀想に。イワンの馬鹿は全身をローストされたんだね……」

 そう答えるので一杯だった。
 数日後、斎はボンゴレのファミリーになる事が決まった。いつだって、年下は年上に敵わない。

「どう思う?率直な意見でいいよ」
「太った男に銃の撃ち方を教えてもらうマイケル・コルレオーネの気分だよ、お兄様」
「僕はあそこまで太ってないよ」
「名前知ってる?」
「もちろん」
「コルドーザだよ」
「違う。クレメンザだ」
「正解。ちょっと引っ掛けてみた」
「引っ掛けだと分かってた」

 馬鹿な話をしていないと、頭が可笑しくなりそうだった。

「じゃあ、これから宜しく」

 斎は兄の恭弥が悪魔に見えた。


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