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 日刊預言者新聞のインタビューによって、ニコラスの周りで変化があったとすれば、ニコラスの生き方が、ただのお遊びでないと分かり距離を置くものが数人いたくらいだろう。これは全て男だった。基本的に「男らしくない」ニコラスを攻撃したり、批判したり、嫌悪したりするのは、いつだって「男らしい」生き方が正しいと思っている男ばかりだ。基本的に女子生徒たちからは概ね受け入れられた。彼女たちは美しいものに対してであれば、度々、寛容な態度をニコラスにみせる。ニコラスは以前、セドリックに性と死の話しかしたくないと宣言したが、それは『グレイの肌』の全編に貫かれたテーマでもあった。ストーリーの大半はニコラス個人のパーソナルな葛藤や体験を元に書かれている。しかし、それはニコラスの言葉が肉体的な意味での生と死しか語っていないというわけではない。むしろニコラスは様々なテーマの全てを、生命と生活の根底であり、最も身近な普遍性である性と死にまで落とし込むことで、ストーリーに込められた普遍性を、より強固なものにしている。様々な要因を複雑なまま語るのではなく、無駄を削ぎ落とし、性と死という生命の根本にまで主題を落とし込むことで、普遍的な悲しみの本質にせまり、社会的なテーマを叫びつつも、非常にパーソナルな視点で書かれた、まるで友人に語りかけるようなミクロな視点と、社会的なマクロな視点を行き来する。ニコラスの産み出した『グレイの肌』の主人公とは、つまり読者のことでもあり、匿名の当事者であるのと同時に、自分以外のすべて、すなわち世界や社会と自身との関係でもある。理想に疲れ果て、妄信的なナショナリズムと排他主義を現実と呼び、傾倒していく世界で、他者と多様性を肯定しようとするニコラスの言葉が、どこかに居ればいい。その、どこかの誰かのためにニコラスは言葉を使うことを選んだのだから。そのことに気づける読者が一人でも居れば、ニコラスはそれで良かった。その為に魔法界、並びに世界に対して挑戦し、挑発したのだから。
 ホグワーツの中はニコラスのインタビュー記事と同時進行で、クリスマスに行われるダンスパーティーの相手探しの話題が広がっている。ニコラスの元恋人たちが、注目欲しさにダンスパーティーに誘ってきたが、ニコラスはすべて断っていた。中にはラブレターを送ってくるものも居た。ホグワーツの至る所にニコラスへのファンレターやラブレターや誹謗中傷の手紙の山が出来ている。ニコラスが大広間に一歩、足を踏み入れるだけで、静寂が広がり、視線が集まる。誰もがニコラスを色んな目で見つめている。今やニコラスは歩くゴシップだ。生きているだけで消費される毎日が、ここ一ヶ月ほど絶えず続いていた。こうなることは、予め分かっていたことだ。それでも、ニコラスは飽き飽きしていた。元から飽き性なのもあって、初めは楽しかったことも、今は既にゴミのように思えた。そんなゴミの山を、一つ一つ手に取って眺めているのは、ニコラスの数少ない友人であるルーナ・ラブグッドだ。

「それ、楽しい?」
「最近のは、つまンないカモ」

 ルーナは指先で摘んだ手紙をヒラヒラと揺らしている。ルーナから受け取った手紙の送り主は、ニコラスが過去に心の底から愛した元恋人からだった。

[ ベイビー、もう一回来てくれる?もう一度、寝てくれる?あなたは男らしくないし、性格も合わないけど、卒業したら一緒に住んであげてもいいかも。付き合ってた頃はストレートだと思ってたけど、今じゃそれすら疑わしい。でも、私は別に構わない。私の他にカナリヤイエローの王子様みたいな愛人が居てもね。私たち別れた意味あった? ]

 もしニコラスが、この手紙の書評を執筆するとしたら、それはトーマス・ベイカー以上に、こき下ろすことになるだろうなとニコラスは思った。文才がなさすぎる。眠っている顔は世界で一番美しいと思ったが、どうやらニコラスの元恋人は、どう頑張っても作家にはなれそうになかった。美しい言葉を使う人に会いたくなった。

「どう?」
「きみは、ぼくを傷つける天才だね」
「アタシじゃなくて、あンたの元恋人がデショ」
「後悔してないよ。別れて良かった。別れた意味あった、なんて言わないでくれ。ぼくは自分のメンタルを守るために別れたって言うのに、暇になると手紙を寄越してくるなんて、ひどすぎる。自分が楽しかったらそれでいいんだ。そうでしょ?」
「アタシ、あンたの恋人じゃないンだけど」

 ニコラスの元恋人はセドリックのことをニコラスの愛人だと思っているらしい。恋人も愛人もニコラスにとっては同じ意味だが、元恋人はニコラスとは少し違ったニュアンスで、愛人という言葉を使っているらしかった。きっと、彼女はニコラスとセドリックのことを許さないだろうなと思った。もし、そんなことはないと分かっているが、卒業したあと一緒に住むことになったとすれば、関係は必ず拗れる。ニコラスが何故、元恋人と別れたのか。彼女は、それを、これっぽっちも理解していない。ニコラスを理解できるのは、今やセドリックだけだった。ニコラスの頭痛は未だに治りそうになかった。

「出かけてくる」

 気分を変えようと、席を立ち上がったニコラスにルーナが声をかけた。

「スパンコールがいいと思うな。濃い紫のスパンコール」
「スパンコール?」
「そう。新聞に載ってた写真、スパンコールがあったら、もっと素敵になると思う」

 シースルーのボウタイブラウスのことだろう。例えば背中に濃い紫のスパンコールで薔薇をあしらうのはどうだろうか。スパンコールの表側を濃い紫にして、裏側を赤にすれば、触れた場所の色が変わって面白いかもしれない。

「きみは、ぼくを傷つける天才だ。でも、ぼくを慰める天才でもある。クリスマスパーティはスパンコールで決まりだ。きみは、好きなドレスを着るといい」
「あンたをエスコートできるなんて、光栄だよ」
「やっと楽しみが出来た!」



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